危ない出港
垂直離陸を第二形態で成し遂げたタエは、不思議な下降気流を体感していた。しかしそんな気流はアジト周辺にはなく、なんてことはない、翼のない形態で落下しているだけだったのだが……
「チッ……なぜ補正が効かない? 貴様、俺の機体を改悪しやがったな」
モーター音の聞こえる方に目を向ければ、操縦席に誰もいない戦闘機が飛んでいる。
「……は?!」
『あ、言うの忘れてたけど、タエ、お前は機体そのものだ。お前の操縦席にも誰も乗っちゃいねえよ』
「…………よくわかんねぇけど落下をなんとかしやがれ」
『飛びたいと強く念じてみろ。お前は“離陸”に特化した特殊な形になりすぎた』
「よくわかんねぇが飛びたいに決まってんだろうがぁぁぁあ」
タエ自身にとっては、操縦席に自分が座っているつもりであるから、今まさに操縦バーを思いきり引き付けた形である。機体は落下から上昇に転じ、肉体(とタエが思っているもの)がGを感じて地表方面に押し付けられる。もちろん飛行機乗りのタエには慣れっこであるが、常人には耐えられない加速度がかかっているのだろう。
『おー、いいねぇ』
無線越しのようなざらついた音声が聞こえ、タエは眉をひそめた。
「なにがいいねぇだ。それより俺たちは今からどこへ向かう」
『おいおい、メゾン、新人に作戦をなんにも伝えていないんだな。僕らはこれからメゾン区中枢の防衛特区を叩く。寄り道せず直行だ』
ふ、とタエの口角があがった。タエには自覚はないが、タエの第一形態である戦闘機の金属光沢が一層太陽光を反射してキラリと光った。
「――了解した。ただ俺は好きにやらせてもらうぞ。集団での戦闘など初体験だからな」
タエが加速する。それをメゾンとタタのトランスフォーム型が追い掛けた。
『え、訓練もしてないの?』
タタのすっとんきょうな声が機体の後ろに流れていく。
『なぁメゾン、ホントにいいのか、こんなポンコツ、作戦に同行させて……』
『いいんだ。奴は
メゾンの見る目を基本的には信用しているタタだったが、やはりタエを完全に信用していない。それはやはり、相性が合わないのだろう。
『お前がそういうなら……』
青い空が続いている。全くもって将来性の見えない三機の部隊が奇襲作戦に飛び立っていった。少数精鋭の組織ゆえ、見送る者は存在しない。しかし、誰もがその作戦の成功を願っていた。
特権階級の排除は、被差別階級〝黒肌の民〟の悲願そのもの。それに一筋の希望を、タエはもたらすことができるのだろうか。
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