第82話

 随分と気持ちの悪い俳句を読み上げた後――


 つまり、昼食を取り終わった後の事だった。


「前半にジェットコースター二周はちょっと疲れちゃったから、午後はゆっくり楽しめるアトラクションが良いかもね」

 

「確かに、ちょっと疲れたな・・・」


 ちょっとどころか死にそうなくらいの体験をしたはずの俺はほんの少し強がっていた。玲奈の提案がなければ俺が提案していたくらいである。


 ということで、遊園地内を暫し散策。


 遊園地というのはアトラクションだけが魅力というわけではなく、いや勿論そんなの当然だろと言われるかもしれないが、俺にとってはそれが随分と新鮮で魅力的だった。出店や作りこまれた街の世界観、見ているだけでも元が取れるのではないかと思ってしまう。あ、チケットは先生が用意してくれたから無料ではあるんだけどね。


「なんだか、ファンタジー映画の世界に実際に入ったみたいだな」


 魔法使い的な、そういうファンタジー世界。

 でっかく光輝く石の彫像を見ながら言った。


「ふふっ、圭君らしいね、その表現」


「む、何だその言い方は。玲奈ならどう表現するんだよ」


「うーん・・・異世界?」


「おいおいファンタジー要素ゼロじゃないかそれ」


 なんかすごい殺伐としてそうだし・・・


「じゃあー、亜世界」


「唐突な造語!?」


 あ、そうだ、京都行こう。みたいなノリじゃねえか!

 

 あ、世界。てどんなるるぶだ!!!


「えー。手厳しいなー。」


 少しだけ残念そうに玲奈は笑う。こういう他愛もない会話、というかアトラクションの待ち時間とかでも大体こういう話ばかりしているのだが、玲奈は退屈してたりしないだろうかと少し心配になる。そういう素振りがあるわけではないが、心配は心配だ。 


 俺、非モテなんで。


「あ、――」


 玲奈が声を上げた。驚きではなく、何かに気付く声。


「あの子・・・」


 視線を追う。何を指しているのかはすぐに分かった。


 数十メートル先、人工物であろう木々の緑の中に、オレンジ色の風船が引っ掛かっていた。枝の中に、かろうじてその形を残していた。


 そしてその木の幹を見上げる少女が、そこに居た。

 

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