第80話
人間、死に瀕すると過去の出来事が走馬灯になって蘇るというが、が。
そんなのあてになんねえな、と思う俺だった。
いや、だって無理だよ、ジェットコースターの縦横無尽の重力に体を引っ張られながら、不安と恐怖でぐちゃぐちゃになっているというのに過去の思い出なんて沸き上がってくるもんか。過去よりも数秒後の自分の姿を想像して死にそうだったわ!!
だがしかし、それと同時に分かったこともある。
ジェットコースター、後ろ向きで乗ったら死ぬほど怖くはないし、寧ろ気持ちイイまである。落下するまでの準備時間はそりゃ勿論鬼のように怖くて走馬灯が駆け巡らないことに怒りさえ覚えていたのだが、落下してみたら案外「落ちている」という感覚よりも「引っ張られている」という感覚の方が強くなるお陰でそこまで悪い気分ではなかった。前向きだと呼吸すらできないけど、後ろ向きなら呼吸が出来る。それだけで随分快適だった。
とまあ、二度目のジェットコースターを玲奈と満喫(?)したところだった。玲奈さんは終始むっちゃ楽しそうでしたけど。あれ絶対俺の情けねえ部分見て笑ってただろ、なんて思ったりもする。
――フフッ、ねえ、今から落ちるよ?
ジェットコースター最上部で玲奈は俺にそう言った。重力に逆らうように上っていく機体に、髪を靡かせて微笑む。瑞々しく、儚げに。
――いや無茶苦茶怖いから!!!!!
多分俺が本当に死ぬときの走馬灯には、彼女の笑顔がラインナップされているに違いない。
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