第74話
「おいおい玲奈さんよぉ・・・いくら遊園地が楽しみだからっていきなりジェットコースターは・・・」
「あれれ~?圭君もしかしてビビっちゃってるの~?」
悪戯っぽい笑みで俺に微笑みかける玲奈。うっ、なんだこの普段清楚で清廉な彼女のちょっとワルな部分と言うか謎のギャップというか!!!
というかそれよりもジェットコースターは怖い!!!!!!!!!!
俺は儚げで美しいマイレデイから目を逸らして、頭上の渦を巻くレールを見上げた。
――数分後はあそこにいるのか・・・
絶望する。あんな高い――建物というより最早空側の存在ともいえるそのジェットコースターのレールは既に他の乗客たちを乗せ、悲鳴と歓喜を巻き起こしている。その声の凄まじさと、その声さえも一瞬でかっさらってしまうその速度に俺は慄く。
高所恐怖症だという自覚はない。しかしジェットコースターに乗るのが初めてで、その初めてをこんな恐ろしいジェットコースター――「風車」と名付けられたスリル重視の乗り物らしい――で体験せねばならないことは不幸としか言えないだろう。
ひとつため息をつく。こわっ。
「やっぱりこういうのって待ってる時間も楽しいよね~。」
同意を求めるように笑いかける玲奈。違う、この子は怖がってる俺は見て楽しんでやがる!!!
「く・・・玲奈はこういうの怖くないのか?」
見て見ろ、あんな落ちたら絶対死んじゃうレベルの高さで、下にクッションもなにもなく、所々海が下敷きになっているというのに、なぜあんなに楽しそうな声を出しているんだ。ばかか!!人生100周くらいして死ぬことに抵抗がなくなったのか!ばかか!!!
うーん、と少し考えるようにして、玲奈。
「怖いから楽しいんじゃない?」
と笑う。かわいい。違う。
「わっかんねえな~」
「圭君も乗ったら分かるよ~」
心の中で断固として反対しながら、徐々に進む列に沿って俺たちも前に進む。貸し切りとは聞いていたが、やはりそれでも最低限の客、待ち時間は数十分程度のレベルではいるようだった。
良くは知らされていないが、警備の人間ということだろうか?まあ、無人だったらそれはそれで不自然だから、理解はできる。
今日は天気予報雨だったから空いてるのかなー
合流した時、玲奈はそう言っていた。雲一つない晴天を見上げて不思議そうに。もしかするとそういった部分さえも機関の手回しなのかもしれない。しらんけど。
そうこうしているうちに、順番はどんどん進み、次は俺たちの組というところまで来ていた。
俺と玲奈の前で、出発前の組が8台の車形のジェットコースターに乗りこむ。バーを下ろすその顔は人によって違う。嬉しそうで、楽しそうで、悲しそうで、泣きそうで。
いやじゃあなんで乗ってんだよ。と心の中で突っ込んだが、数分後俺も同じ顔をしているだろう。
華やかなキャストと呼ばれる遊園地の案内人みたいな人が「いってらっしゃい~!!」とにこやかに手を振って俺たちの前の組を送り出す。
恐るべき恐怖の旅路にいってらっしゃい・・だと?
俺は目を見張った。なぜこいつらはこんな笑顔で送り出して、送り出される側も笑顔で手を振っているんだ!!みんな恐怖でおかしくなっちゃったのかよ!?
「どしたの圭君顔怖いよ・・・?」
「いやしかしだな、玲奈・・・」
俺の眼前で理解できないことが多すぎて混乱してしまって――
「乗り物が気になるのも分かるけど、私を置いてかないでよね。」
言って、俺の腕にギュッと抱き着く。距離が一気に近づいたせいで、心臓が跳ね上がる。
「私も・・・ちょっと怖くなってきたから、こうさせてね」
更に抱き着く力を強める玲奈。そのせいで腕の感覚に集中してしまう。服を通して体の熱を感じる。
あかんあかん混乱どころじゃない我を忘れてしまうがあがががががっががg
「も、もうっ、圭君!聞いてる!わたしもちょっと怖いんだけど!無言もそれはそれで怖いよ!?」
ジェットコースターよりも挙動がおかしい俺の方を怖がっているようだった。目下の恐怖であった。
俺は何をしているんだ。遠くさまよっていた精神を取り戻す。
「お、おおおおおおおおう、ま、ママママ任せろ玲奈。」
「その震え方は異常だよ・・・肩にマッサージ機でも乗せてるの?」
言って、クスッと玲奈は笑った。やっぱり儚げで、美しい。小悪魔みたいな時もあるけど、やはりこれが玲奈らしい。
「やっぱり楽しいね。こういうの。」
俺たちの順番を告げるアナウンスが響き渡る。やや吹き抜けになっているこの待合室みたいなところは海風も相まってすごく気持ちがよかった。
いやしかし、それでも恐怖は拭えないのである。
やめて!!!ジェットコースター!!!!
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