第33話
「うん、美味しい。イチゴの酸味とホイップの甘味、バナナの食感もたまらないですね。」
「たしかにこれ旨いわ・・・」
二人して、近くの公園のベンチに座ってクレープを堪能していた。両手で持たなければ落ちてしまいそうなクレープなのに、味は繊細でぎっしりと中の具が敷き詰められていた。
ビバ田舎。万歳。
少し暮れすぎた夕方の公園は薄暗く、遊具で遊ぶ子供たちの姿も主婦たちの姿もほとんどなかった。
あるとすればガタイの良いスーツを着た男が数人・・・
心のざわつきは更に騒がしくなっていた。
「今日は一日付き合ってくれてありがとうございました。ワタシ色々知れたので良かったです。」
「色々、ね。」
「はい、色々です!」
なんだか互いに探りを入れるような不思議な会話をしていたが、はっきりとそういって見せる彼女。
多分、会話は、食べ物の感想を言い合うくらいしかしてない。
「まあ、ワタシからしたら、これからが本番なんですけどね。」
「どゆこと?」
本番?
「ふふ、内緒です。」
「いっちゃいけないことか。」
俺は少しニヤッとしながら揶揄った。
彼女は少し頬を赤くして恥じらった。
「もー、そうやって女子をからかうの、あんまりよくないですよー。」
「うっ。」
心当たりがありすぎて怯んでしまった。確かに揶揄いすぎるのも良くはない。人と話せるのが楽しくてつい歯止めが効かなくなってしまう。
「では、ワタシ、お手洗いに行ってきますね。」
「ほーい。」
俺はベンチから公園の公衆トイレに向かうシオンさんの背を少しだけ見送って、視線を空に移した。
黒いカラスの群れが、夕暮れの空を円を作るように飛び回っていた。
うっわ、不吉な感じするわー。円の中から異世界の来訪者とか来てしまいそうである。
そして案外それがバカにできない世界に俺はいるのだから。
手元のクレープにまた一口かぶりつく。一人なので誰にも遠慮することなく、鼻にクリームの感触を認めながら満喫する。
やっぱこれは旨いぞ・・・クレープの革命が俺の中で起こっているっっ!!
一人スイーツ界の進歩に感動していた。
その時だった。
目を離していた海堂シオンの、かわいらしい後輩の叫び声が聞こえた。声は公園中に響き渡る、というほどではなく、俺に聞こえる程度の、やや小さめな悲鳴だった。
俺は鼻についたクリームを手で拭いながら勢いよく立ち上がる。
胸の鼓動が徐々に強まっていくのを感じた。
・・・おいおい、なんだありゃ。
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