86 救国の姫君5
レオの突撃の拳に、女王様がグゥッとうめいた。
体がグラっとゆれて、ヨロリと一歩後ろにさがる。
「……! レオ!」
けれど、それだけでは倒れなかった女王様は、すぐにレオに向かって反撃をしようと腕をふり上げた。
それに気づいたわたしは、魔法で強引にレオの体をここまで引き戻す。
空ぶった女王様の腕が、今さっきまでレオのいたところにふり下ろされて、ブワンと炎が波打った。
「チョロチョロと煩わしいガキどもめ……。お前たちのようなガキどもが、お前たちのような反逆の因子が私の国を狂わすのさ。覚悟しな。お前たちは確実にこの私が手ずから殺して、一族も全員後を追わせてやる!」
女王様は怒り狂いすぎて、もうどうにかなってしまいそうだった。
ううん、もしかしたらもうとっくに、どうにかなってしまっているのかもしれない。
怒りに身を任せて炎をグングンと燃え上がらせて、まるで女王様自身が炎の化身みたいに赤くそまっていく。
もともと真っ赤な格好の女王様は、そのもともとの赤さなのか炎の赤さなのか、もう見分けがつかなくなってきた。
興奮してあらあらしく息をする大きな口からは、まるで火を吹いてるみたいに炎がチラチラしていた。
わたしはレオが飛び込んでくれている間に、せまってきていた炎をぜんぶコントロールできていた。
それをいくつかの炎の塊に分けて、わたしたちを守るように周りに浮かべる。
けれど女王様はそんなものがあることなんてかんぜんに無視して、『おたけび』を上げながらこっちに飛び込んできた。
まるで炎そのものみたいに、怒りそのものみたいに。
燃え上がる炎のせいか、その姿は何倍にも大きく見えて、高い天井に届いちゃいそうなほどの高さからおおいかぶさってくる。
わたしはすぐに『たいき』させていた炎の塊を女王様に向かって飛ばした。
雪崩のような女王様の炎にわたしの炎がいくつもぶつかって、なんとか押しとどめる。
「ちょこざい! 私は女王だ! 私の魔法を、舐めるんじゃないよ!」
女王様の炎がさらにぶわーっと強くなって、わたしの炎は押し負けてしまいそうになる。
このままじゃダメだ。『始まりの力』がどんなに強力でも、魔法のテクニックだと今のわたしじゃどうしても負けちゃう。
コントロールをうばうのだって、女王様の大きな攻撃だと簡単じゃない。
なら、もう『たいこう』する『しゅだん』は一つしかない。
わたしの炎が吹き飛ばされて、女王様を押しとどめていたものがなくなる。
炎の巨人のような、怪物のようになった女王様の燃え上がる腕が、上からわたしたちにふりかかってきた。
「レオ、アリア! ちょっとだけわたしを守って!」
「まかせろ!」
レオとアリアがすぐに前に出て、二人がかりでバリアを張ってくれる。
それに女王様の炎の腕がぶつかって、バリア越しでもジリジリと熱さが伝わってくる。
わたしは二人の後ろで『真理の
すべての魔法を斬り払うこの剣なら、女王様のどんな魔法にだって負けない。
この剣にぜんぶの力とぜんぶの想いを乗せて、それを女王様に届けるんだ。
白い剣の柄をぎゅっと両手でにぎると、強い力が込み上がってきた。
それと一緒に、『真理の
この国を『おびやかす』ものを倒せ、って。
大切なものを守るために、大切な人たちが住むこの国を、救うために剣をふるえ、って。
これが、この剣を持つことで抱える宿命の意志なのかな。
救わなきゃいけない、戦わなきゃいけない、そのためにはこの剣をふるわなきゃいかない。
そういう気持ちが、意志に引っ張られて浮かび上がってくる。
でも、そんなものなくてもわたしははじめからそうしたいと思ってるんだ。
友達を守りたい、みんなが住むこの国を平和にしたい。そのためにできることをしたいって。
『真理の
わたしのやりたいことは、はじめから決まってる。
わたしが友達を想えば、友達もわたしを想ってくれる。
わたしの心につながるたくさんの心が、その想いを力に変えて助けてくれる。
だから、この剣をにぎっているのはわたしだけじゃない。
みんなの手が、一緒にこの剣を支えてくれているんだ。
想いを曲げない。もう迷わない。こわくても、逃げ出さない。
わたしは女王様を倒す。わがままで自分勝手な女王様を倒す。
みんなが住むこの国をいい国にして、魔女が苦しまなくていい国にして、そしてわたしは自分の世界に帰るんだ。
ぜんぶの約束を守るために、わたしは戦う。
大切な友達は、みんなわたしが守るんだ。
『真理の
わたしの魔力と、つながるみんなの力が剣に集まって『まばゆい』光がふくれあがる。
この国で出会ったたくさんの人たち、友達の顔が頭の中をかけぬける。
ずっと一緒にいてくれて、今も一緒に戦ってくれているレオとアリアも。
それに晴香と創やお母さん、元の世界の人たち。
そして、きっと一番待ってくれてくれているあられちゃん。
みんなの顔が思い浮かんで、わたしはさらに剣をしっかりにぎった。
何のために戦うのか、何のためにこの剣をふるうのか。
そんなこと、もうわかりすぎてるくらいわかりきってるから。
大きな力がうずまいて、『真理の
私の想いの大きさと、つながるみんなの力の大きさを表すように、白い光が強くなる。
あんまり強い力と光に、そのまま持っていかれちゃいそうになるくらい。
自分でもびっくりするくらいに強く集まった力に、ほんのすこしだけ『ふあん』にある。
でもその時心に『大丈夫だよ』って、あられちゃんの声が聞こえた気がして、そんなものは吹き飛んだ。
どんな時だって友達の『そんざい』がわたしの行く先を照らしてくれるから、もう何にもこわくない。
「女王様! これが、わたしたちの想いだよ! この国の平和を願って、みんなで楽しく過ごしたいっていう、みんなの気持ちが助けてくれた力! わたしにつながる、たくさんの想いの力だぁぁあああああ!!!」
そして、わたしは『真理の
それと同時にたまっていた魔力が『さくれつ』して、白い光が巨大な剣のように目の前の全てを飲み込み、斬りさいた。
女王様の炎も、それに包まれたその姿も。
すべて、白い光の魔力に飲み込まれた。
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