85 救国の姫君4
「その剣は……まさか……!」
力強く構えたわたしの『真理の
血走った目をカッと開くから、その真っ赤さがよくわかってこわい。
「どうして、それをお前が持っているんだ! それは古に失われた救国の剣。英雄の剣だ!」
びっくりとした顔からそのまま声をあらげる女王様。
大昔に『始まりの魔女』を倒した英雄。その子孫の女王様は、この剣のことは知ってるんだ。
ドルミーレのことはなかったことにされても、その英雄が国を救って、この剣を持っていたことは伝わっているんだ。
元々怒り狂っていた女王様は、『真理の
逆立った赤い髪の毛が、女王様のいかりに合わせてるかのように毛羽立つ。
「それは英雄の剣、つまりこの国の王が持つべき物だ! お前のような小娘が、その剣を握る資格などないんだよ! 剰えそれをこの私に向けるか! 女王の私に!!!」
「この剣がだれの物かなんて、そんなこともう関係ない。これはだれかを守る剣! この国を救う剣だよ! だからわたしは、これを握るんだ!」
「やかましい! その剣を、返せぇぇえええ!!!」
もはや何をしゃべっているか聞き取れないような、ぐちゃぐちゃな叫び声を上げながら、女王様は自分の周りに炎をうずまかせた。
自分が座っていた玉座も、広間の中の何も気にしないで、怒りのままに炎を押し広げる。
着ている真っ赤なドレスにも炎はうつって、でも燃えうつったというよりは、炎のドレスを着ているようだった。
逆立つ赤い髪に赤い目と赤い口紅。炎が燃えさかるドレスに赤い爪に赤いヒールのクツ。
何から何まで真っ赤な女王様は、まるで怒れる炎そのもののようだった。
そして女王様が力任せにわたしたちに向けて炎をはなった。
広間中を埋めつくすような炎が、まるで津波のようにふりかかってくる。
この城ごと燃やしてしまおうとしてるんじゃないかと思える攻撃だったけど、でもこれくらいなら問題ない。
わたしが『真理の
けれど、そうして晴れた炎の波の向こう側から、すかさず女王様が飛びかかってきた。
「っ…………!?」
まるでさっきの炎の波の中にまぎれ込んでいたみたいに、女王様はもう目の前にせまっていた。
ゴウゴウとドレスの炎を燃やしながら、一直線にわたしに手を伸ばしてくる。
「アリスに手は出させない!」
そんな女王様が伸ばす手に、アリアが放った鎖が巻きついた。
アリアはそれにバリバリと電気を流しながら、わたしからはなそうと女王様を横に引っ張る。
ぐいっと横にほうられて、そのまま壁に叩きつけられる勢いだった女王様だったけれど、腕がゴゴウと燃えがあって鎖をとかし切った。
解放された女王様はジェット噴射のように炎を噴き出して吹き飛ばされた勢いを殺すと、そのまままたわたし目掛けて飛び込んできた。
ものすごくアクティブで荒々しい。
ただの見た目だけなら着飾ったキレイなオバサンなのに。
そのめちゃくちゃな性格を無視したとしても、とてもそんな軽やかであらあらしい戦い方をするような人には見えない。
まるで怪物でも相手してるみたいに、女王様はド派手にわたしたちを殺しにかかってきていた。
「私に魔法で勝つつもりかい!? どこの家のガキだか知らないが、思い上がりも甚だしい! 愚か者はまとめて死にな!」
「魔法で敵わなくても、アンタを倒せればそれでいいんだ! ガキだって、立ち向かえるんだよ!」
ロケットのように炎を巻き込みながら突っ込んでくる女王様に、レオが正面から飛び込んだ。
目の前に分厚い炎の壁を作って、飛び込んでくる女王様にそのままぶつける。
レオの炎と女王様の炎がぶつかり合って勢いが一瞬止まる。でもすぐに、ジリジリとレオが押され始めた。
「レオ、さがって!」
わたしの声に合わせて、レオは炎を残したままサッとその場からはなれる。
すぐにわたしは、目の前にあるレオの炎と女王様が吹き出してる炎、そのぜんぶを自分のコントロールに入れた。
わたしの
『始まりの力』で、他人が使った魔法でもぜんぶわたしの
急に自分の魔法がうばわれてあっけにとられている女王に、わたしはその炎の球を落とした。
炎が石畳の床にぶつかってブワンとはじける。
女王様はかんぜんに炎に飲み込まれて、その姿が見えなくなった。
ジリジリと焼けそうに熱い炎の熱を感じながら、わたしたちははじける炎の奥底を見つめた。
「小賢しい!!!」
次の瞬間、炎がザッと吹き飛ばされたかと思うと、その中心にいた女王様から刃のように鋭い炎の波がはなたれた。
まるで炎が剣になって、床をはいながら切り進んでくるみたいに。
その波は二つ、レオとアリアに向けてものすごい勢いで波打った。
『ふいうち』のような攻撃に、レオもアリアも反応しきれなかった。
わたしも、急なことでその炎をあやつるのが間に合わない。
なんとか体をひねってそれをかわそうとした二人だけど、炎の刃がその脇腹をザッとさいた。
「っ────!!!」
二人が声にならない悲鳴をあげる。
そのまま何とか倒れずに踏ん張っていたけど、二人の顔はだいぶ苦しそうだった。
ジュッと肉と血が焦げるような臭いが、二人の傷の痛さを教えてくれた。
「私に歯向かう愚かなガキども! 塵も残さず骨の髄に至るまで焼き尽くしてやる! 私を怒らせたことを後悔しろ!」
すこしすす汚れて、逆立つ髪を乱した女王様が叫ぶ。
その声に合わさるように炎が広間中をなめ広がって、わたしたちを包み込むように高い天井までのぼっていった。
まるで炎の窯の中に閉じ込められたみたいに、見渡す限りが炎でいっぱいになる。
そして、その炎がいっせいにわたしたちを飲み込もうと迫ってきた。
わたしはすぐに二人を引き寄せて、おそいかかってくる炎をコントロールしようとした。
けれどあまりにも炎がおおくて、勢いが強くて、かんたんにはコントロールができそうになかった。
それでもなんとかがんばって集中しながら、ほんの少しでもと二人の傷を治すために魔力を向ける。
炎に集中しなきゃいけないからあんまり治してあげられなかったけど、二人の顔が少し楽になるのが見えた。
「ありがとう、アリス────レオ、サポートするから突っ込んで!」
「任せとけ!」
まだ痛そうに脇腹の傷を押さえながら、アリアは目の前にたくさんの水を『ふんしゃ』した。
広間中の炎はそれだけじゃとてもじゃないけど消せない。
でもほんの少しだけ勢いが弱まった道ができた。
わたしがすぐにその部分の炎をコントロールして、かんぜんに開けた道ができた。その先には女王様の姿が見える。
レオはそれを見てぐっと足に魔力をためて、勢いよくストレートに飛び込んだ。
それに気づいた女王様はあわててレオ目掛けて炎をバンバンと撃ったけれど、それはアリアがレオの前にバリアを張ってなんとか防いだ。
そして、レオが女王様の目の前までたどり着く。
レオは自分の拳に炎をまとめあげて、飛び込んだ勢いそのままに女王様目掛けて殴りかかった。
女王様は自分のあらゆる攻撃を『とっぱ』されるとは思っていなかったのか、ひるんでしまっていてさけられないでいる。
「これでも、くらいやがれ!」
レオの叫びと一緒に炎の拳が真っ赤のドレスの真ん中に直撃して、ブワーンと炎が吹きあれた。
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