69 お花畑と城と剣3
そのお城に何かがあるんだって、そう思ったわたしたち。
できるだけお花をふまないように気をつけながら、急いでお城に向かいました。
目の前まで来てみるとやっぱりというか、とってもおっきいお城だった。
白い石の壁に囲まれたお城は、見上げてみてもてっぺんがよく見えない。
門だけでもとっても大きくて、たくさんの人がぞろぞろ通れるくらいの広さがあった。
そんな『りっぱ』なお城だけど、いわゆる門番さんみたいな人は誰もいなかった。
お城の周りを見張っているような人はもちろん、どこにもぜんぜん人が見当たらない。
そもそもこのお花畑の中にはだれも入れなくて、ここに来るまでにもだれにも会わなかったんだから、当たり前といえばそうなのかもしれないんだけど。
でも、こんな『りっぱ』でおっきなお城にだれもいないのはなんだか変な気がした。
中に入れば、さすがにだれかいるのかなぁ。
「中、入れるかなぁ?」
きっちり閉められている、木でできた大きな門の扉にわたしがなんとなくさわってみた時だった。
ギギィッってにぶい音がしたかと思うと、扉がゆっくりと奥に向かって開き出した。
わたしは別に押したりしてないのに、まるで自動ドアみたいに一人でに扉が動き出したのです。
もしかしたら向こう側には人がいて、わたしたちに気づいて開けてくれたのか、なんて。
そんなこと思いながら開いたその先をのぞき込んでみたけど、やっぱりそこにはだれもいなくて。
本当に扉は、勝手に一人でに、自動的に開いたみたいだった。
「今の、アリスがやったのか?」
「う、ううん。ちょっとさわったけど、わたし何にもしてないよ……」
「…………まぁ、入るか」
レオは何か言いたそうだったけど、すこし考えてからそうポツリと言った。
その顔はすこしかたまっていて、『けいかい』しているみたいだった。
そんなレオと、それからわたしの顔を見て、アリアはわたしの腕にきゅっと抱きついてきた。
門をくぐってみても、やっぱり中にはだれもいない。
レンガがしき詰められた『しきち』の中を歩いて、そのまままっすぐ建物に向かってみる。
石段を登って玄関口の目の前まで来ると、また扉がギギィッと勝手に開き出した。
中はとっても広い玄関ホールだった。
わたしの家なんてすっぽり入っちゃいそうな、とっても大きな『くうかん』が広がっているのがわかる。
でもとってもうす暗くてよく見えないなぁって思ってると、外と同じ白い石の壁についてる松明にポンポンと火がついて、あっという間に明るくなった。
ピッカピカの白い大理石の床がぶわーっと広がっていて、真っ直ぐ前には大きな階段がある。
天井は見上げたら首が痛くなりそうなほどとっても高くて、まるでおわりがないみたい。
とっても透き通った、静かでかっちりとした『ふんいき』の場所だった。
なんとなくだけど。『魔女の森』にあった神殿にちょぴり似ている気がした。
わたしもレオもアリアも、三人でポカーンと中を見渡す。
こんな豪勢なところに来たのは初めてで、なんというか、『あっとう』されちゃったんだ。
むずかしいことはよくわからないわたしでも、ここはとってもすごい場所なんだってことはわかる。
ハデなかざりとか、高そうなものとか、そういうものはぜんぜんないのに。
でもこのお城全体から、『いげん』みたいなものを感じるんだ。
「こ、ここは……ここはきっと、『始まりの魔女』ドルミーレのお城なんだよ」
わたしの腕をこれでもかってくらい抱きしめながら、アリアがふるえる声で言った。
「ものすごく濃い、強い魔力を感じる。こんなのわたし、今まで感じたことないよ。魔法使いとは全くちがう、強力な魔女の気配が、このお城全体からする」
「あぁ。さすがのオレでもわかる。ここは魔女の気配で満ちあふれてやがる。普通の魔女なんかとは比べ物にならないくらいの、化物みたいな濃さの気配だ」
レオはツーっとおでこから汗を流しながら、ゆっくりとうなずいた。
強気な顔で中を見渡しているけれど、その目はすこしおびえているように見えた。
「わたしも、そんな気がするよ。お花畑に入った時からそうだったけど、このお城に入って、なんだかとってもなつかしい感じがするの。ここのこと、わたしぜんぜんしらないのに。わたしの心の奥底が、ここを感じてる気がする……」
「アリスの中のドルミーレの力が、この場所に呼応してるのかな。だとしたらやっぱり、ここにきっと何か、アリスに関係するのもがあるかもしれないね」
「わたしが元の世界に帰れる何かも、あるかなぁ」
「これだけ広いお城だもん、きっと何か手がかりがあるよ。みんなで探してみよう」
アリアも『ふあん』そうな顔をしているけど、ニッコリと笑いながわたしにそう言ってくれた。
やっと目的地に着いたんだもん。こわがってたりおびえてたりしててもしょーがないって、アリアははげましてくれてるんだ。
それからわたしたちは、三人一緒になって城の中を探検した。
広い広いお城だし、それにやっぱりこわいから、手分けするより一緒にいようってことになったから。
たくさんあるお部屋のどこにも、やっぱり人はいなかった。
それなのにお城の中はとってもキレイで、まるでついさっきまで人が住んでいたみたいに『せいけつ』だった。
本当はみんなどこかにかくれていて、わたしたちのことをおどかしてドッキリでも仕掛けようとしてるんじゃないかってくらい、人がいないのがウソみたいだった。
たくさんの『しんしつ』にはていねいに整えられたベッドがあったり、ふかふかの毛布や真っ白なシーツがあったり。
カビやアカなんてまったくない、ピカピカのおっきな『ちゅうぼう』とか、スーパー銭湯みたいにひろい大浴場とか。
学校の体育館みたいにとんでもなく広い大広間なんかもあったりして、やっぱりどこも今さっきまで人がいたみたいな感じがする。
ここがドルミーレのお城なんだとしたら、たぶん二千年前からあったお城のはず。
ドルミーレが一人で閉じこもってたってことだから、死んじゃった後はだれもここには住んでないと思うし。
それからここが『きんいき』になっちゃって、だからやっぱりここにだれかがいたなんてことはなさそうなのに。
それでもここがこんなにキレイなのは、ドルミーレの魔法の力なのかな。
二千年前からあるお城なんだから、普通人がずっといなかったらとっくにオンボロになってそうだし。
そうやってお城の中をざっくり見て回って、わたしたちは『ひときわ』きらびやかで豪勢な部屋にたどり着いた。
ガラスの窓からはあったかいお日様の光がよく差し込んでいて、ピカピカの大理石がよく反射して鏡みたい。
白い壁と柱には、とっても細かいかざり付けがされているし、天井からは宝石の塊みたいなシャンデリアがつり下がってた。
ここはこのお城の中でも一番特別な場所なんだって、すぐにわかった。
部屋の入り口から奥まで、真っ赤なカーペットがしかれていて、一番奥にはとっても豪華なイスが置いてある。
真っ白なお部屋の中で、金色の縁取りの赤い椅子はとっても目立ってた。
まるで王様が座るような、派手で大きなイスでした。
ここはきっと、『えっけんのま』みたいな場所なのかもしれない。
王様が出てくるようなお話だと、大体こういう場所で王様が家来やお客さんと話してる。
だからここはきっと、このお城で一番えらい人が『くんりん』する場所。
ということはあれは、ドルミーレのイスなんだ……。
「…………」
いつの間にかわたしは、一人でとぼとぼとカーペットの上を歩いて、一番奥にあるイスに向かっていた。
なんだか、そうするのが当たり前みたいな気がしたんだ。
ここに来たら、あのイスまで行くのが普通、みたいな感じ。
「アリス……」
すこしおくれてレオとアリアもついてくる。
このお城に来て一番『ふあん』そうな様子で、でも目をそらさないで。
ここまで来たんだからって、意を決して奥に進む。
そうしてわたしたちは、イスのすぐ前まで来た。
金色の縁取りがとってもキラキラしていて、それに血の色みたいに真っ赤なイス。
それだけでもとってもすごい『そんざいかん』なんだけど、でもこのイスにはさらにもっと気になるところがあった。
その豪勢な『ぎょくざ』の背もたれには、真っ黒な剣が一本突き刺さっていたのです。
のっぺりと墨のように真っ黒な、隅から隅まで黒々とした剣が、イスの背もたれをつきやぶってる。
それはとっても、『いよう』な光景だった。
「────────」
レオとアリアが静かに息を飲んだ。
二人の視線がその黒い剣に釘付けになってる。わたしも、なんだか吸い寄せられるみたいに見ちゃう。
その剣を見てると、なんだか心の奥がとってもざわざわするから。
なんとなく、ただなんとなく、わたしは手を伸ばした。
イスにぐさっと突き刺さっている剣の、その真っ黒な柄をにぎっていみたいと、なんとなく思って。
そう思って、ゆっくりと剣にさわろうとした、その時────
「その剣を手にするのなら、よく考えてからにした方がいいよ」
ポンと突き抜けた女の人の声が後ろから飛んできて、わたしはビクッと手を引っ込めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます