22 もう一つの世界5

 まるで兵隊さんの行列みたいに、木はびっちりとキレイに並んでわたしに道を作ってくれている。

 なんだかお姫様になったような気持ちになって、それに森から出られるうれしさもあって、わたしはルンルンで一本道を歩いた。


 すこしずつ森の中にも太陽の光が入ってきて、明るくなっていく。

 さっきまでの暗くて冷たい『ふんいき』がウソみたいに、気持ちがいいあたたかさと清々しさ広がっていった。


 わたしの気持ちはだいぶ楽チンになって、今はおさんぽ気分。

 森の外まで一直線の、迷いようのない一本道。

 この森から出たら、後はもう簡単におうちまではあっという間に帰れるんじゃないのかな。


 そう思って、わたしは森の出口からぴょーんと飛び出した。


 でも、そこにはなんにもありませんでした。

『げんみつ』にいうと、草はいっぱいあった。

 見渡す限りの草原。森の外には草原が広がっていて、それ以外にはなんにもなかった。


「あれ……?」


 とってもさわやかな気分になる、気持ちのいい原っぱ。

 お馬さんにのって走り抜けたら、とっても楽しそう。

 それにお日様はぽかぽかあったかいし、お昼寝するのにもよさそうです。


 でも、でも。

 なんにもない。森の外には何にもありませんでした。

 森を出たはいいけれど、ここから先は道もない。

 どこへどう進んでいいかわからないし、おうちへの帰り方なんてもっとわからない。


「こまったなぁ。これなら、レイくんたちのところに戻る帰り道を教えてもらった方がよかったかなぁ」


 でも、まずははやくおうちに帰らないといけないし……。

 そういえば、夜子さんはさっきなんて言ってたっけ。

 森を出たら西の方にあるお花畑にいきなさい、だっけ。


 西って、どっち?

 わたしは学校の社会の授業で教わったことを、思い出そうとうーんとうなった。

 たしか左の方だったと思うんだけど……でもコンパスがないとちゃんとしたことはわからないよ。


「とりあえず、西っぽそうな方に歩いてみようかな」


 考えてもわからないし、ここでじっとしててもしょーがない。

 私は思い切ってどこかに向かって動き出してみることにした。


 夜子さんはたしか、なるようになるって言ってたし。

 ここは魔法があって、ヘンテコなことがいっぱい起きる『まほうつかいの国』だもん。

 もしかしたら急にパッとおうちに帰れる方法が見つかるかもしれない。


 自分でもちょっと『おきらく』すぎるかなぁなんて思いながら、わたしは草原の上をわさわさ歩き出した。

 青々としている原っぱの草たちは、わたしの足をすっぽり包み込んでしまうくらいに元気に伸びてる。

 わたしがちょっと踏んでも、足をどければぴょんと何ごともなかったかのように戻ってくるくらいに元気だ。


 あったかいお日様の光と、ゆーっくりとやさしく流れる風。

 こんなところでピクニックをしたらきっととっても気持ちがいいんだろうなぁ。


 帰ったら、今度はお母さんや晴香や創と、それにあられちゃんも一緒に、ここに遊びに来たいなぁ。

 お母さんにお弁当を作ってもらって、ビニールシートの上でみんなで食べるんだ。

 ハムとかタマゴとかがたっぷりはさまったサンドウィッチとか、まんまるおにぎりなんかを食べて。

 きっと、とっても楽しいんだろうなぁ。


 そんなわくわくな想像をしていたら、なんだか楽しい気持ちになってきた。

 今から、ピクニックがしたくてたまらなくなってきちゃった。

 でもでも、そのためにまずおうちに帰らなくちゃ。


 そう思ったらまた、今自分が一人ぼっちなことがすこしさみしくなってきた。

 でも、さっきみたいに暗くてこわい場所じゃないから、なんとかぐっとがまんする。

 さみしくなったらお友達のことを考えて、楽しいことを想像すればいいんだ。

 そうすれば、いつだってわたしは一人じゃないもんね。


「……でも、本当になんにもないし、だれもいないなぁ」


 けっこう歩いたはずなのに、ぜんぜん何にも見えてこない。

 後ろを振り返ると、まるですぐ後ろにあるみたいにおっきな森が見える。

 でもそれ以外は見渡すかぎりの草原で草ばっかり。


 もしかして『まほうつかいの国』は、あの森以外原っぱしかないのかな?

 それはそれでステキな気がする……ようなしないような。

 うーん、それはちょっとつまんないか。


「もうつかれたぁ。お腹すいたよー」


 こんなにずっと一人でいたことなんてない。

 いつもお母さんといたり、友達といたり。

 ここに来てからだって、レイくんやクロアさんが一緒だったり、クリアちゃんや森の動物さんと一緒だったり。


 一人はやっぱりさみしいし、それにただ歩いてるだけだとつまんない。

 だれかとおしゃべりしたいし、遊んだりしたいよ。


 このままだれにも会えなくて、ずっとずっとここを歩き続けなくちゃいけなくなったら、どうなるんだろう。

 もしかしたら本当にどれだけ歩いても原っぱしかなくて、そのうち一周して帰ってきちゃうかもしれない。


「ちょっと、きゅーけいしよぉ!」


 変なことを考え始めたらちょっと嫌な気持ちになっちゃって、わたしは『きぶんてんかん』のために休むことにした。

 でもまわりには座れそうなものなんてぜんぜんないから、私は思い切って草の上にゴロンとひっくり返った。


 ふかふかの草はまるでベッドみたいに柔らかくて、とっても寝心地がよかった。

 ちょっぴりちくちくしたりくすぐったかったりするけれど、でもとっても気持ちいい。

 ぽかぽかお日様があったかくて、なんだかすこし眠くなっちゃうくらい。


 そういえば、レイくんも夜子さんもここはちがう世界だって言ったけど、でも太陽はあるんだなぁ。

 それに、夜になったらお月様が出てた。

 どの世界にも太陽とお月様はあるものなのかなぁ。

 むずかしいことはよくわかんないけど、でもそれもちょっと不思議。


 そんなことをぼーっと考えながらぐーんと伸びをして、体いっぱいで草の匂いとお日様のにおいを吸い込んで。

 力をぬいて気をぬいたら、本当にちょっぴり眠たくなってきた。


 とろーんと、ふんわりした気分になってきた、そんな時。


「た、大変! 女の子が倒れてるよ!」


 突然、びゅーんという風を切る音と、女の子のキンキンした声が聞こえてきた。

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