23 似た者姉妹
「そもそもアリスさぁ、なんであんなとこ来てたわけ?」
また行方の知れなくなってしまった千鳥ちゃんを心配してシュンとしていると、アゲハさんが尋ねてきた。
肩を組んできてただでさえ密着しているのに、更に頭をコツンと合わせくる。
細めのプラチナブランドの髪がくすぐるように顔に触れてこそばゆい。
それにぴったりとくっついてくるものだから、香水か何かの良い匂いがふんわりと鼻孔をくすぐる。
柑橘系の甘酸っぱい感じのやつだった。
「私、レイくんに会いたくて。鍵を返して欲しかったんです」
「そゆことね。じゃあなに? クイナのやつはアンタを一人中に乗り込ませて、自分は外でボケっと待ってたってこと? それってどうなの? 友達として」
アゲハさんはあり得ないと目を見開いて溜息をついた。
でも、アゲハさんに友達論は語って欲しくはなかった。
だってアゲハさんは、友達相手だって平気で殺そうとする人なんだから。
「別にいいんです。そういう約束で一緒に来てもらったんでから。千鳥ちゃんはむしろ、優しさで待っていてくれたんですから」
「物は言いようって感じ? まぁ私はなんでもいいけどさ。姉としてちょっと情けなくはあるけど」
私が少しつっけんどんに返すと、アゲハさんは肩をすくめた。
前もそうだったけれど、アゲハさんは千鳥ちゃんに対してとても厳しい。
性格が全く違う、というのもあるかもしれないけど。
明るく気さくで突貫的なアゲハさんと、臆病で弱虫で保守的な千鳥ちゃん。
確かに相性が良いとは思えない。
「あれでも、昔は結構可愛げあったんだよ? お姉ちゃんお姉ちゃんって、私にべったりだったんだから」
「昔は、仲良かったんですか?」
「まぁねん。ま、私は今も仲が悪いつもりはないけど」
アゲハさんは何故か得意げな笑みを浮かべて頷いた。
千鳥ちゃんに対して酷い物言いをするアゲハさんだけれど、でも想ってはいるってことなのかな。
対する千鳥ちゃんには大分苦手にされているけれど。
「二人って、実の姉妹なんですよね?」
「そだよ? どうして?」
「いや、なんていうか、あんまり似てないなぁと思って」
「えぇー! そう? 割と似た者姉妹のつもりだったんだけど、私」
私の指摘に大仰なリアクションをとるアゲハさん。
流石に似た者姉妹は無理があるんじゃないかな。
少し短気で自分勝手なところがあるっていうのは、まぁ似ているといえば似てるけど。
性格もさることながら、外見的にもあんまり似ているところは見当たらない。
同じ金髪だけれどその色合いも結構違うし、それに体格に関しては明確な差が出てるし。
「うーん。はたから見た限りではあんまり。言われないとわかりませんよ」
「マジか。ちょっとショックかも。でもまぁクイナのことも私のこともよく知ってるアリスが言うならそうなのかもね〜」
アゲハさんはうへぇと口を歪めて、少しわざとらしく落ち込んで見せる。
見た目ほどのショックは受けていなさそうだけれど。
でもそうは言うけれど、私なんて千鳥ちゃんこと何も知らない。
それはアゲハさんのこともそうだけど、友達の千鳥ちゃんに対してはよりそれを感じてしまった。
私は、友達というくせに千鳥ちゃんのことを全然知らないんだ。
千鳥ちゃんが向こうの世界でどう過ごしていたのか。
こちらに逃げ込んでくる前に、一体何があったのか。
どうして、実の姉であるアゲハさんを毛嫌いしているのか。
私は、何も知らない。
「でもさぁ、アリスがクイナと友達ってのも、なんだかウケるよね」
「え?」
可笑しそうに笑みを堪えながら言うアゲハさんに、私は思わず不快感を表情に出してしまった。
眉が上がった私に臆することなく、アゲハさんはニヤニヤと続ける。
「二人って合わなさそうじゃない? それにそもそも、アイツがアリスと仲良くしてるってのが超意外」
「そうですか? 私は千鳥ちゃんのこと好きですし、仲良しですよ。今日だって一緒にショッピングして、お喋りも沢山しましたし」
「マジ!? それちょーウケるねっ!」
アゲハさんはようやく私を放したかと思うと、お腹を抱えて笑い出した。
あまりにも思いっきり楽しそうに笑うものだから、私たちが笑われていることを忘れそうになる。
けれどそれは明らかに私たちを馬鹿にした笑いで、ムッとする気持ちを抑えられなかった。
「なんで笑うんですか! 私が千鳥ちゃんと仲良くしちゃダメなんですか!?」
「あーごめんごめん。別にダメじゃないけどさぁ。なんか面白いなって思って」
ジトっと睨み付けると、アゲハさんは笑い声をあげるのは抑えたけれど、顔にまだ笑みが残っていた。
笑いを堪えてニタニタしている様が、何だかとても腹立たしい。
「いやぁね、クイナはどんな気持ちなのかって思ってさ。アイツあんな性格だから、昔からあんまり友達とかいなかったし。だからまさかアリスと仲良くしてるとはなぁって思って。まぁ姉の私としては嬉しい限りだよ」
「千鳥ちゃんはいい子ですよ。普通に仲良くなれましたもん」
私が不機嫌を露わにしていると、アゲハさんは取り繕うように言った。
もう一度肩を組もうと身を寄せて来たからひょいと避ける。
少しもの寂しそうに拗ねた顔をしたから、少しいい気味だと思ってしまった。
千鳥ちゃんが少し面倒臭い性格をしているのは確かだけれど、でも基本はいい子だ。
少し接し方にコツがいるけれど、でも話をすればすぐ仲良くなれた。
私たちの間に何のわだかまりもありはしない。
アゲハさんにあれこれ言われる必要はないんだ。
「なんにせよ、アリスが仲良くしてくれるんならそれに越したことはないし。よろしく頼むよ」
「言われなくても、ですよ。千鳥ちゃんは私の友達なんですから」
肩を組む代わりに肩をポンポンと叩いてくるアゲハさん。
どこか上からの言葉に、あまり気分は良くなかった。
千鳥ちゃんにあんなに酷いこと言うのに、どうしてこういう時はお姉さん面なんだろう。
「友達、か。アイツには、アリスのその言葉はなかなか効くだろうね」
ニシシと小気味に笑うアゲハさんの言葉に、私は首を傾げた。
けれどアゲハさんは笑みを浮かべるだけで、その事に対して続ける言葉を口にはしなかった。
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