25 心が叫んでる
穏やかな口調ながらも、その言葉と共に向けられた明確な殺意に、私たちは咄嗟に身構えた。
けれど、D8の口から出るとは到底思っていなかった言葉に、私は少なからず動揺してしまった。
だって、以前会った時のD8は、私のことを大切だと叫んでいたんだから。
乱暴に強引に私のことを連れて行こうとしたけれど、私に向ける感情は優しいものだっていうことは伝わってきた。
だから、私のことを殺したい魔法使いがいると知っても、D8やD4はそれを望まないだろうと勝手に思っていた。
現に今の会話だって、D8は私のことを親友と呼び、想ってくれているものだった。
けれど、今彼から放たれたのは、確かに私を殺すという意思だった。
「D8、あなたは……」
「悪りぃなアリス。そういうことなんだ。お前のことは俺が殺してやる。悪く思うなよ。これも、お前のためだ」
D8は少しだけ苦い顔をしてそう答えると、気だるそうに腕を横に伸ばした。
開いたその両手の平の中で炎が燃え上がり、それは剣の形を象って赤い双剣を形造った。
それをぐっと力を入れて握ったD8は、ゆったりとした動作でその一振りを私たちに向ける。
「嫌だよ、私は。あなたとは戦いたくないよD8。だってあなたは……!」
「今更何言ってんだよアリス。もう俺たちは戦っちまったじゃねぇか。俺たちはもう、どうしようもねぇのさ」
「そんなことないよ! だって私たちは親友なんでしょ!? 私、あなたとは────」
「もうそんなこと関係ねぇんだよ!」
D8は荒々しく叫んで私の言葉を遮った。
苛立ちを露わにして、心の内から吐き出すような叫びに、私は思わずビクリとしてしまった。
「もうそういう問題じゃねぇんだ。いくら言葉を並べ立てても、もうどうにもなりゃしねぇんだよ! 俺がお前を殺す。それが唯一の解決策だ!」
「わかんないよD8! あなただって戦いたくなんてないはずなのに!」
今の私はD8のことを何も知らない。
でも、それでも私の知るD8は、乱暴ながらもその内に確かな優しさを持っていた。
暴力的な手段に訴えつつも、けれどそこには必ず迷いが見えて、仕方なく戦っているように見えた。
戦わないといけないから私と戦っただけで、本心では戦いたくないように見えた。
だから、私のことを親友だと言う彼が、心の底から私を殺したいと思うとは思えなかった。
これは私の都合のいい解釈なのかな?
でも、ついさっきまでのD8の目や表情は、殺したい相手に向けるものでは決してなかったと思うから。
「うるせぇ! 覚悟を決めろアリス! いいじゃねぇか。お前はどうせ何も覚えてねぇんだからよ!」
「よくないよ! 今の私は覚えてなくても、私の心が、あなたを大切だって言ってるから!」
「……黙れ!!!」
怒号と共に激しい業火がD8の周囲に渦巻いた。
空中が燃えているかのように、周囲の空間が炎に溢れていく。
彼が放つ魔力が空気を直に燃やしているように、彼の周りを炎が囲う。
まるで炎をまとっているかのごとく、D8は炎の中で強く私を睨んだ。
「もう喋んじゃねえ! 俺はお前の敵だ。お前からしてみれば最初からそうだったんだからいいだろうが。この間と同じように、そこの魔女もお前も、俺がぶっ殺してやるよ!!!」
「…………!」
あの夜、透子ちゃんはD8の剣にその胸を貫かれて深い傷を負った。
それまでは何とか逃れていた透子ちゃんが敗北したのは、あの一撃がきっかけだった。
辛うじて命を繋ぎ止めたとはいえ、透子ちゃんを傷付けたのは、他でもないD8たちだ。
「いい顔、すんじゃねぇか。そうだよ、忘れてんじゃねぇよ。俺はお前の敵だ。仲良しこよしなんて、する相手じゃねぇんだよ」
あの光景を思い出し、あの時の感情がぶり返してきて顔を歪めた私に、D8は口元を緩めて言った。
かつての私にとっては親友でも、私自身が知っている彼らは確かにどうしようもなく敵だ。
それを忘れたつもりはなかったけれど、でも。それでも戦わずわかり合う道を探したかった。
「甘ったれてんじゃねぇよ。俺はお前を殺す。そんでそこの魔女も一緒にぶっ殺してやる。それが嫌だったら、抵抗してみろよ……!」
「D8、私……!」
あからさまに挑発してくるD8。
その言葉からは明確な殺意が飛んで来ているはずなのに、でもどこか違う思いが混じっているような気がした。
「私、戦いたくない。あなたとは戦いたくなかった。でも……」
その気持ちは変わらない。
私のことを想ってくれる人。私の心が大切だと叫ぶ人。
そんな人と刃を交えるなんて、そんなことしたくない。
私たちに足りないのは、絶対的に言葉だと思うから。
けれど、このまま私が喚いたところできっとD8の意思は変わらない。
どうしてそうなってしまったのかはわからないけれど、今のD8は私を殺すと覚悟を決めてしまっているから。
それでも戦わないことはいくらでもできる。
でも私が弱腰になって戦いを拒否し続けても、敵が襲いかかってくることは止められない。そうなった時、傷つくのは氷室さんだ。
私が戦うことを拒めば、私を守ろうと氷室さんが代わりに戦ってくれる。
けれど魔女の身で、魔女狩りに、魔法使いに立ち向かうことの結果は想像に難くない。
そうしたらあの時の二の舞だ。
私の大切な友達が傷付けられてしまう。
私を守るために戦って、傷付いてしまう。
そんなのは、もう嫌だ。
「でも、どうしても戦わなきゃいけないって言うのなら、私は────」
胸の内から、心の奥底から叫びが聞こえる。
戦うと。戦わなきゃいけないと。今を守るために、友達を守るために。
逃げない。逃げてはいけない。避けられない戦いならば、迷わないと。
私の心が、『彼女』が叫んでる……!
「私は、あなたと戦うよ────レオ!!!」
私の叫び、心の叫びに呼応するように、眩い光を伴って私の手の中に『真理の
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