殺人事件、起きちゃいました

 ―キズナ・クエスト―


 波の音。一面の海。暗転。


ママゾン:起きなさい。いつまで寝ているの!

ガルシア:んん……まだねむいよ。


 ベッドと箪笥だけのシンプルな部屋で目覚める。エプロンをした太った女・ママゾンが怒りの拳骨をかかげる。


ママゾン:今日は村のお祭りでしょ! 酒場でエデンたちが待っているわよ

ガルシア:あっ、そうだった……!


 寝室を出ると、テーブルセットと竈かまどだけのやはりシンプルな居間が続き、外界へ。

 主人公・ガルシア――長めの黒髪をくくり、腰に剣をぶら下げている――は、教会、道具屋、宿屋など……城下町っぽい並びを進んでいく。

 中央の広場に石造りの祭壇があった。おそらくここで村の祭りとやらが開かれるのだろう。


エデン :やっと来たか。遅いぞ

ガルシア:わるい。ねぼうした

マクレア:今夜は村の豊漁豊作を祈って、〈聖なる松明トーチ〉を灯す儀式があるんだから!

カリン :火守りの順を決めていたの。ちこくしたから出番を多くしちゃおうか

ガルシア:ごめんごめん。ゆるしてくれ


 酒場。カウンターの奥で、黒ひげのマスターがランダムな動きをしている。

 カウンター席に並んで座る四人。

 手前から金髪碧眼のエデン、赤ずきんのマクレア、やたらと露出が高い水着みたいな衣装コスチュームのカリン、そしてガルシア。

 ……ううむ、荒いドット絵ゆえに読みとれる情報がとぼしいな。


ガルシア:そういえば、ノイリーはどうした? アイツも火守り番をすることになっていたが

マクレア:怠け者のノイリーなら家で寝ているよ。当番は兄さんに任せるって

マスター:ノイリーさんねぇ、そろそろたまっているツケを払うように頼んでいるんだけど

ガルシア:すみません……まったく困った弟だな


 自分は寝坊したくせに他人には厳しいガルシア。というか弟……? 飲んべえの弟がいるって、どんな勇者だよ!

 ちなみに、ここからはガルシアの後に仲間たちが付いてくる。「パーティー」なんだね。

 一団は酒場を出て、広場の祭壇を通り過ぎ、小ぶりな家に入った。

 割れた酒瓶が散乱したワンルームで、灰色のローブを纏まとった人物がベッドに寝ている。


ノイリー:zzz

ガルシア:おいっ、ノイリー起きろ! このグズノロの弟め!

ノイリー:zzz……むにゃむにゃ

エデン :だめだ、起きない。深酒した翌日はいつもこうなんだ

カリン :どんなに大声を出しても起きないわよ。無理やり起こそうとしたら、寝ぼけて抱きつかれたんだから

ガルシア:くそっ、こいつは一族の恥さらしだ……!




+ + +




「ちょっと待て。なんだよ、このゲームは!」


 コントローラーをちゃぶ台に投げて、俺は大きく舌打ちした。

 キズナ・クエスト。ふざけたタイトルからして、絆が作ったRPGに違いない。それは良い。オートモードになっていて、Aボタンを押す以外の選択肢がないのも、まあ許そう――だがな!!


「〈怠け者のノイリー〉ってなんだよ! 俺か⁉」


 俺の名前――松山まつやま祈、いのり、のいり、ノイリー。アナグラムが愚直すぎる!


「しかも、カリンって……」


 同郷の幼馴染に、竹中たけなか花凛かりんという女子がいる。

 幼い頃から体の発育は良いものの頭が悪くて、俺と絆にからかわれていた。こっちはアナグラムにさえなっていない。

 こみ上げる嫌悪感に俺は口元を押さえた。


「キモい。気持ち悪いよ、お前……友達をゲームの登場人物にするって、小学生か」

「仕方ないだろ、小学生のとき作ったゲームなんだから」


 薄い胸を張って開き直る絆。

 小学生のときに? マジかよ。八年以上も前に作ったゲームを、なぜ今、俺にやらせる……? 謎は深まるばかりだ。


「まあいいや。はい」


 手のひらを出すと、きょとんと首をかしげられる。


「約束どおりプレイしてやったぞ。五千円よこせ」

「はあ⁉ まだ途中だろうが! 五千円やるっていうのは、あくまでもクリアしたらだよ」


 やっぱり帰ろう。

 こんな退屈なゲームを何時間させるつもりだ。

 表情を失くした俺から不穏な空気を嗅ぎとったのか、絆が慌ててフォローをしてくる。


「まあまあ。もう少しで終わりだから」

「だって、まだ洞窟とかダンジョンとか何も制覇してないだろ」


 神殿とか転職とかな。RPGにありがちなイベントを想起していると、


「そんなもんないよ。誰が作ったゲームと思っている?」


 キツネ顔の幼馴染がちっちっと舌を鳴らした。


「このあと恐ろしい事件が起こるんだよ。なんと――『殺人事件』がな」



+ + +



 フィールドの緑は深みを増し、川の水は群青に染まっている。ゲーム世界の夜。

 祭壇にまつられた〈聖なる松明〉をガルシアとエデンが見守っている。


ガルシア:ノイリー、結局こなかったな

カリン :夕方に酒場で見かけたわ。しぶるマスターを脅して無理やりお酒を出させていたよ

ガルシア:……なんてやつだ!

村長  :交代の時間じゃぞ。次の出番まで休んどけ

ガルシア:ありがとう、村長


 禿頭に白髭の人物が現れ、ガルシアと火守り番を交代する。

 さらにエデンとマクレアがやって来て、カリンと交代した。ガルシアとカリンはそれぞれ画面の左右にフレームアウトする。

 松明の炎が揺らめいている。時間は刻々と進んでいるらしい。

 時々エデンが火を気遣うよう祭壇に近づく。見張りのメンバーが何度か入れ替わり、最後にガルシアとカリンが戻ってきたところで、軽快な曲とともに朝が訪れた。

 と、何やらママゾンが二倍速で広場に近づいてくる。


ママゾン:大変よ! ノイリーが変なの!

ガルシア:なんだって?

ママゾン:呼び鈴を鳴らしても出てこないのよ。ドアに鍵がかかっているみたい

ガルシア:どうせ深酒して寝入っているんだろうさ

ママゾン:でも、いつもは鍵を開けっ放しなのに変だと思わない? それにね、窓から覗いたら、ノイリー床に倒れているのよ

村長  :それは妙じゃのう。様子を見に行くがよい

ガルシア:わかった。皆も来てくれ


 ガルシアとパーティーが動く。ついでに村長も。

 前の日おとずれた小さな家は、ママゾンの証言どおり鍵がかかっていて中に入ることが出来ない。


エデン :どうする?

ガルシア:仕方がない。〈一族の鍵〉を使おう。この鍵を使えば、一族の家の扉はすべて開けられる


 鍵あるのかよっ! ご都合主義なスペシャルアイテムで、扉はあっけなく開錠した。

 昨日酒瓶が割れていた箇所に、灰色ローブの男がうつ伏せになっていた。床に点々と赤紫っぽい液体が散っている。まさかこれ、血液……?


ガルシア:ノイリー、おいっ、しっかりしろ!

エデン :だめだ……もう手遅れだよ。死んでいる

カリン :きゃーっ!

マクレア:の、のろいよ! 怠け者のノイリーに祭りの神が罰をくだしたのよ!


 パニックに陥るパーティー。

 部屋の隅に控えていた村長が、「困ったことになったのぅ」と呟き、てくてく歩きだす。


村長:おい、そこの君。ゲームをプレイしている、君じゃ!


 え……俺?


村長:どうか村の平和のため、この殺人事件を解決してくだされ。後生じゃ!


 暗転。やがて黒画面に白文字が浮かび上がる。


【ノイリーを殺したのは誰か――? 犯人はこの中にいる!】



+ + +



 幼馴染だからといって、俺たちは別に仲良しじゃないし普段つるんでもいない。

 でも、たったひとつだけ。共通の趣味、というか悪癖が存在する――推理小説ミステリ好きであることだ。


「推理系のゲーム。祈、好きだろ? 昔オレんちでプレイしまくってたじゃん」


 だから作ってあげましたよ、という得意顔をされてもな……。これだったのか、絆の必死さの理由は。

 俺はすぐに否定する。


「違う、あれは推理を楽しむゲームじゃなくて、ピンクのしおりを満喫するゲームだから」

「妙な曲解きょっかいをするな!」

「……わかった、やるよ。その前に、報酬を見せてくれ」


 疑り深いな、と文句をたれつつ、テレビボードの引き出しから茶封筒を出す。

 遠慮なく中身を改めさせてもらうと、ほんとうに樋口一葉様、五千円札がいらっしゃるではないか。ごめん絆。八割がた嘘だと思ってたよ。


「もういいだろ」


 封筒を奪い、そそくさと戻す絆。


「プレゼントするのは、ゲームをクリアしたら、だ」

「犯人を突き止められたら、ってこと?」


 あらためて口にすると急に面倒くさくなってきた。

 そんな俺に、絆が皮肉っぽく口の片端を上げる。


「もしかして自信がない? おいおい、小学生が作った問題だぞ。解く前にお手上げってことはないよな?」


 嫌味な挑発をしてくれる。

 ふん……。俺は胡坐あぐらをかいて座り直した。


「いいだろう。暇つぶしに付き合ってやる」

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