第59話 始まりだった。

 結局、藤堂に対して全ての説明を終えることで放課後の勉強時間が終わってしまった。


 もちろん、全てを話しているわけではない。

 漆原の真剣な眼差しとともに発せられた、言葉の真意――それがわからない以上、俺は誰かにやすやすとこの件を話してはいけない気がしたのだ。


 ただ、不思議なことに。

 そんな、正当な行為であるはずのことに。

 俺は、若干の罪悪感を感じていた。

 つまるところ、それは藤堂に対して偽りの――。


「――それで黒木って、結局、その子と仲良かったの? 同級生っていうのも、三年のときだけだったんでしょ」

「え? ああ。ていうか、三年のときに奴が引っ越してきたわけで……いや、二年の終わりだっけか」

「ふうん……? 二年の終わりか」


 藤堂は思わせぶりにつぶやいたが、そのあとに言葉は続かなかった。


 そうこうしているうちに、二人でおりていくことへの抵抗が5ミリほど和らいでいた階段を下りきった。


 漆原の話は、正直に話している。

 ただ、全てを話していないというだけだ。

 それは嘘ではない。

 ……言い訳ではあるけど。


 藤堂の中で、漆原は『俺の中学時代の同級生で、話したことはあまりない』というイメージで固まっていることだろう。

 だからなおさら、深夜に出会って、そのまま公園で話をするという流れには疑問を抱いているに違いない。

 まあ、当事者が疑問だらけなのだから、そりゃ当たり前の反応とも言えるけれども。


「まあ、仲が良いとか悪いとか、そういう関係じゃないんだ」

「なにそれ。ますますよくわからない話だ。じゃあどういう関係なの?って思うけど」

「ほんとだよな」

「まったく、他人事みたいに……。勉強時間、なくなっちゃったんだから反省して」

「それこそ他人事みたいに言うんじゃねーよ……」

「はい?」

「イイエナンデモナイデス」


 テスト前の昇降口は人気が全くなかった。

 だから藤堂の声はやけに大きく聞こえた。


「……じゃあ、いったい、どういう関係なの」

「ああ……そうだな」


 俺はそうして思い出す。

 いや、そんな記憶はとうの昔に思い出していたんだ。


 深夜のコンビニで、漆原葵と対峙したときから、俺の中学時代の最後の記憶――一人だけでバカみたいな使命感を感じていた、あの一年間を、しっかりと思い出していた。


 あれは、そう。

 こんな人っ気のない、昇降口が始まりだった。

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