第52話 得意ジャンル

 藤堂の爆弾みたいな発言は、両親に、しっかりと直撃してしまった。


 問題は一番の被害を受けているのが仲間であるはずの俺だということなのだが、誰も心配してくれなので、自分で心配するしかない。


 先に口を開いたのは、藤堂の母親だった。


「真白、そうなると話が違うわね。暴力的なものは、映画でも、小説でも、なんでも……とにかく禁止といってあるわよね。銃で撃ちあうゲームがあるのは、ニュースで見たことあるから知っているけど、どう考えても、約束違反よ」


 藤堂母の言い分は筋のとおった話だとも思うし、続く藤堂父の意見もこれと似たようなものだった。


 問題は沈静化しなかったわけだが、少なくともこれで『ゲームに関して、あっけないほど簡単に容認された』ことへの説明はついた。

 藤堂家はもちろん『ゲームは原則禁止』であるのだろう。だがそれはおそらく『ゲームをする人間がいない家庭』にありがちな禁止に近いものなのだ。


 やる必要がないから、買ってもらえない。だって両親がそう判断しているから――小学生にも起こりうる、その程度の問題だったに違いない。

 だから、今回もゲーム自体は、実に簡単に容認されたのだ。むしろ、その『遊び相手』のほうが重要だったわけだ。

 この場の四人が、同じような話をしているようで、俺達は『ゲーム』、大人たちは『人間関係』について話していたらしい。


 だが、話は今、変わった。

 皆が同じ、題材を手に取った。


『暴力的なコンテンツの閲覧禁止』


 これこそが、今回の主題となるもので、藤堂真白が乗り越えなければならない壁なのだろう。


   ◇


 藤堂家の会話に参加をせずに、俺は思考の海に飛び込んだ。


 これは簡単な話ではないはずだ。

 寛容的な黒木家でさえ、似たような前例があり、それだけでも、難易度の説明はつく。


 あれは俺が小学生だったころのこと。

 未成年の登場人物がギャンブルで勝負したり、その結果、理不尽な死につながったり、とにかく刺激的なR指定の映画が発表されたことがある。

 その発表から今日にいたるまで、似たような作品が頻出しているため、今でこそ、議論にはならない。人の感覚が慣れてしまったからだろう。


 だが当時、小学生だった俺でも覚えているくらいに、世間では様々な議論がなされていた。それこそ製作者の人格否定や、参加した子役たちの人格形成への影響にまで話が及んでおり、娯楽への禁止令のない黒木家でさえ、閲覧を禁じられたぐらいだ。

 今思えば、そういった世間の反応も、販促戦略のひとつだったのだろうか。結果的に映画は大ヒットした。してしまった。世の中のネジはこうして、少しずつ緩み、なにが正しいのかが判然としないまま、別のネジがしめられていくのかもしれない。

 

 俺も、成長してからその映画をみてみたが、たしかにあれは、娯楽の映像ともいえたし、映像の暴力ともいえた。どちらともとれるため、判断は難しかった。


 やはり『娯楽や趣味』というものは『人の価値観』に基づいて、展開されたり、発掘されたりしていくものなのだ。『それ』を受け入れられるかどうかは、結局、個人次第。


 全てがそうとは言わないが、コンテンツ多き現代で、興味のないものへ時間を割くことは難しい。

 よって、興味のないコンテンツに対するイメージを、自分の実体験ではなく、発信者不明の言葉から作ってしまうことも、多々起こっているのだろう。


『実際に存在する銃で、人を撃って命を奪い合う』

『弾がなくても、近接武器で刺したり、殴打したりすればいい。』

『頭を撃ちぬくと、さらに強くなるから、積極的に頭を狙う』


 俺のような、ゲーム好きであれば、それらのワードはすんなりと受け入れられる。あくまでそれは『作られた刺激』だと認識できるからだ。

 娯楽として、胸に宿り、それを楽しいことと享受するための器を用意できるからだ。

 その器は現実とは違う場所に置いてあるから、色が混ざることもない。


 だが、イメージだけを持った人間がそれを耳にしたら――現実の器に、その言葉を入れるしかないのだ。

 娯楽としてではなく、自分が歩んできた人生と、その言葉を並列に並べるのだ。

 そりゃあ、楽しいと理解するのも難しい。

 頭では『ゲーム』と分かっていても、どうしたって無理な部分は出るだろう。


 俺だって、陽キャグループに、『朝まで、同じ空間で、酒を飲まなくてもハイになりながら、音楽聞きながら、楽しもうぜ。しかも全員、初めて会う奴だけど。あ、カラオケするときは、前に立って歌うから』と言われたら、確実に、拒否反応が出る。

 頭では、色々と分かっては居るが、どうしてもそれを『夢を見させてくれる娯楽の器』で受け止めることができず、『一生続く現実的な人生の器』でとらえてしまう。楽しいと思う前に、『なんでそんなことをするの? 意味あるの?』と疑問を持ってしまうだろう。


 だが、今回は、疑問を持ったままではいられない。

 価値観の違う相手に、真っ向からぶつからねばならない。


 言葉で逃げながら、自分の領域に足をいれさせなかった俺の人生では発生しなかったことだ。

 価値観の違うものに、自分の正解を認めてもらうということ――これは、俺が世間とぶつかっているようにみえて、実のところまっさきに諦めてきた行為。


 それを藤堂は、やろうとしている。

 挑戦しようとしている。

 おそるべきことに――俺を巻き込んで、だ。


   ◇


 無意味に時計を見る。

 全然、針が進まない。

 だから藤堂家の会話も進んでいない。今のところ、藤堂家内のルールの確認が行われているような話だけだ。

 内容はおおむね、俺の想像通り――ゲームはいい。だが暴力的な、それこそ人を銃で撃つようなものは、やめなさい。

 そんな意見交換。


 どうなることかとヒヤヒヤ……、いや、それを通り越して、つま先と指先がめちゃくちゃ冷たくなっている俺は『そろそろ呼吸が止まるな、凍死だ』と人生を諦め始めていたが、藤堂の言葉を受けて、一転、全身に熱を持つこととなった。


「お父さんとお母さんの意見はとってもよく分かる。むしろ私も、昔は思ってたよ。格闘技とか見ても、『痛そう』しか思わなかったし、どうしても楽しめない世界があるのは理解してる」


 たしかに格闘ゲームに疑問を持たずにプレイしている俺だが、冷静に考えると、キャラクターたちは痛そうだ。すごい痛そうだ。今度、ガードを大目に立ち回ってみよう。


「そこまで分かっているのなら、真白、どうして、こんな話になるんだろうね」


 父の言葉に、藤堂は肩をすくめて見せた。それだけを見るならば、父と娘はうり二つだった。


「だって知ってしまったんだもん。私の中に、それを面白いと思うスイッチがあって、それがオンになってしまったんだ。もう、見ないふりはできない。それに――」


 藤堂は言葉を区切ると、俺を見た――って、まてまてまて……!? なんで俺を見る必要があるんだ!?


「――黒木くんを、見てよ。どう見ても人畜無害そうでしょ? 目つきは悪いかもしれないけど、悪人には見えないし」


 大きなお世話である。


「――それに動物、そんなに好きじゃないのに、捨て猫の里親を探した経験が何十回もある人、なかなか居ないと思うよ。正義感が強いんだよ。そういう人でも、そういうゲームをするってこと、世間的には広まらないよね」


 ちくしょう。なんでその話を知っているんだ。

 たしかに俺は小学生時代、捨て猫や捨て犬の里親を探すことを使命としていた時期がある。捨てられる命に我慢がならなかったのだろうが……それは家族と一部の関係者しかしらないはずだ……は!?

 まさか、情報源は、ゴールデンウィークの茜か……!


「……」

「……、……」


 藤堂の両親が互いに視線を合わせるのを、俺はたしかに見た。

 なんとなく気持ちはわかった。

 たぶん『いや、動物の里親って……というか、十分、悪人面に見える気がするのだが……』だと思う。俺もそっちのグループに入れてください。こっち、何が飛んでくるかわからないです。


 藤堂母が、俺を見ることなく言った。


「黒木さんのことを疑っているわけではないわ。ただこれは、藤堂の家の問題でしょう? そこに黒木さんが参加する必要があるのかしら。繰り返しで聞くけど、とくに、親しい間がら……付き合っているとか、そういうことではないのでしょう?」


 全然、まったく!――心の中で叫んでいたら、藤堂も同意してくれた。


「付き合って“は”いないけど」


『は』ってなんだ。『は』って。

 誤解を招くような言葉を口にしないでくれ。俺のヘイトがあがるだけだろうが。


「なら――」と藤堂の母。

「でも」と藤堂真白が遮った。


「でも、今回の話には、黒木くんが必要なんだよ」

「なぜだい?」


 藤堂父が首を傾げる。

 なんで?、と俺は焦る。


「だって、」と藤堂がロケットランチャーをぶっぱなした。


 だが、残念ながら、射出口が後ろに向いている。藤堂はそれに気づかなかった。そして背後に立っているのは俺だった。


「黒木くんが、『銃で撃ちあうゲームをしていても、暴力的なコンテンツを閲覧していても、互いに人生が良くなる関係だってある』ということを、わたしと一緒に、証明するから」


 藤堂の言葉はよく分からなかった。

 それは藤堂の両親も同じようだった。


 藤堂はそれを想定していたのか、悩むそぶりさえみせず、『つまり』と付言した。


「つまり、黒木くんとわたしは、ゲームをしながら、なおかつ5月末の中間テストで好成績を残すよ――」


 は?


「それも、『勉強できれば正義。なんでもしていいでしょ?』って話じゃないよ。黒木くんは、勉強が嫌いらしいんだけど、『藤堂真白を助ける為だけ』に、自分のやりたくない勉強をするってこと。暴力的なゲームをしたって、人を助けることを原動力に行動すること、黒木くんが証明するから――」


 おい?


「ゲームはそれからでいいよ。もちろんモデル活動はするし、わたしもテストの点数は落とさないからさ。その結果、見て欲しいんだ。暴力的なゲームは一概に、暴力的な人格を作るわけじゃないってこと、気が付いて欲しい」


 藤堂はそうして、黙った。

 気が付いて欲しい――およそ子供から親への言葉とは思えない、対等な関係に基づいた、優位的発言。藤堂は確信しているのだろう。自分の発言は、間違いではないと、自信を持っているのだろう。だから、そういう言い切りができるのだ。


 だが、藤堂にも、気が付いて欲しい。

 協力的な黒木が一概に、協力的な黒木を作るわけじゃないってこと、気が付いて欲しい。


 つまり、言いたいことは一つだ。


 俺の意見は聞かないのか!?、ってことである。

 まあ、聞かないのだろうけど。

 そして俺はそんなこと、絶対に口にすることはないのだけど。


 だって……、俺は気がついていた。

 藤堂の横に座る俺は、おい!?、と物申すつもりで藤堂に視線をむけたとき、膝のうえにおかれた、手を見てしまっていた。


 藤堂の両手。それは固く握られていた。

 なにかの決意を体現するかのように、しっかりと力強く、リラックスなんてもんを知らない銅像のような頑なさで、きつく握られていた。


 緊張しているとき、どんなことが、一番緊張をほぐすか知ってるか?

 人によりそれぞれだとは思うが、俺は俺自身に、なにが一番効果があるかを知っている。

 

 それは――自分より緊張しているやつを見たときだ。

 

 そんなとき、俺は、なんだか自分の緊張が大したことではないような気になって、途端にそれらがほどけていくのを感じる。


 だから。

 案の定。

 例に漏れず。

 藤堂の握りこぶしを見たとたん、俺の肩から、ふっと、力が抜けていった。


 ――藤堂。ちょっとまてって。冷静に考えてみろ。俺にとっちゃ命より大事なゲームだが、お前にとっては、たかが、ゲームだぜ? 藤堂みたいな人生勝ち組、イージーモードみたいな奴が、なにをそんなに、頑張ってんだよ。他に、楽しいこと、いくらでも知ってるんだろ?


 だが、それは全く違うのだ。

 俺は、心なかに巣食う、ひねくれた自分の分身をぶんなぐった。


 ――藤堂には、もう、こうする以外の方法がないんだろ? ふざけたことばっかり聞こえるけど、もう、ふざけたことに手を伸ばさなきゃ、解決できないと思ってんだろ?

 それをなんで、最初から理解してやれないんだ。なんでいつも、自分のことばっか、考えてんだ、俺は。


 不思議なことに、肩の力がぬけたはずの俺の膝のうえには、藤堂と同じようなふたつの握りこぶしが、並んでいた。


 藤堂の母親がこちらを見ている。

 藤堂の父親は俺へと質問をした。


「陽くん。そもそも、なんだか、私には、真白が勝手に話を進めているように見えるんだけどね。君も、いまの話には同意しているのかい?」


 同意?

 そんなもの、している時間さえなかった。むしろここにきてから、すべてが初耳、初体験。どうしたって、無言のままついていくしかできなかった。

 だが、そんなことに、拘っている場合じゃない。


 藤堂の視線を感じる。

 だが俺は横を見なかった。

 前に座る二人に目を向けた。


 唾を飲み込む。

 音がないはずの空間に、静かなクラシックが聞こえた。ああ、なんだ、食事中のBGMが流れていたのか。いまやっと気が付くくらい俺は何も聞こえていなかったのか。俺はいつも、藤堂の言葉の何を聞いていたんだっけ?――膝の上の握りこぶしが熱を持ったころ、俺の口は勝手に動いていた。


「俺、ゲームが好きで、でも、学校の勉強は大嫌いです。ただの評価レースだって思っていて、点数はいつも平均点あたりを目指してます。でも、今度の中間、頑張ります。なんなら期末で、学年50位だって目指したっていいです。だから、どうか、藤堂――マシロさんの、お話を、聞いてあげてもらえませんか。お願いします、マシロさん、いつも、頑張ってます。それを、俺は知ってますし、お二方も、知っていると思います。だから、どうか、よろしくお願いします。俺、それに協力します。だから、お願いします」


 そうして俺は頭を下げた。喉はカラカラ、やけるように痛い。

 目をぎゅっと瞑るが、発言はもう撤回できない。

 情けないほど、整合性のない話しぶりだと思う。言葉が出たあとに、自分の気持ちに気が付いていった。自分が何を口にするのか、次の瞬間まで予測ができなかった。


 どれほどの沈黙が場を支配しただろうか。


「ふむ……まあ、顔をあげて、陽くん」


 言うとおりにすると、藤堂の父親と母親の、複雑そうな表情が目にうつった。そりゃそうだろう。さっきまで黙っていた男が、未熟な論理で、破綻した交渉を提示してきたのだ。

 だが……それは、必ずしも悪い方向へ進むものでは、ないようだった。


「陽くんが、期末テストで50位か。話を聞く限り、勉強嫌いの君にはかなりの苦痛だろうが……、なるほど、互いにメリット・デメリットがあって、交渉内容としては、なかなか面白い話ではあるね」

「ちょっと、あなた……!」

「まあ、いいじゃないか。真白が、勝手に突き進むのは、これが初めてじゃない」

「それにしたって……」


 夫婦間で、無言の視線交錯。

 なにが打ち勝ったのかは不明だが、小さく息を吐いたのは、母親が先。言葉を発したのは父親が先だった。


「では、陽くん。こちらからも提案だ。期末テスト、50位内といったが、それを採用させてもらう。君がその条件をクリア出来なければ、今後、この話はなしだ。いいね」


 なぜだろうか。

 その確認は、俺だけにされていたように思う。

 藤堂真白の家の問題であるのに、今の主役は俺だった。藤堂もそれを肌で感じたのか、何も言わずに俺の言葉を待っている。


「は、はい」

「よし。では、これで終わりだ」


 もしかしたら、俺は、なにか決定的なスイッチを押してしまったのだろうか。

 こどもの口約束程度の責任感しか持ったことのない俺は、まさにいま、他国の外交官相手に、とんでもない失態を重ねてしまったのではないか。


 おそるおそる藤堂を見た。

 藤堂は俺の視線を真っ正面から受け止めると、にっこりと、笑った。

 

 あ、やばい。

 俺の動物的本能が訴えかけてきた。

 これ、めっちゃ、思うところあるんじゃねえの……?


 俺は自身の発言を振り返ってみた。

 無意識のうちに、藤堂検定二級あたりを取得しているだろう俺は、自然と答えにたどり着いた。


 満面の笑みの藤堂は、まさに、こう言っているに違いなかった。


『期末テスト50位? 一クラスとはいえ、特進クラスを擁する高校で、50位?――さすがに言い過ぎでしょ?』


 たしかに。

 お前がパスをしてきたんだろうが!、と言いたいところだが、おそらく今、俺はオウンゴールをしてしまったようだ。

 冷静に考えてみると、実にまずい交渉結果。


 ――な、なかったことにできるかな……?


 藤堂家のご両親を探してみたが、母親はお皿を片付けじめ、父親は仕事場から電話がかかってきていた。

 いまさら『やっぱり、いまのなしで……』と言える雰囲気ではない。


 やばい。

 なんだか、俺の未来が、変な形に集約しているのを感じる。


 立つことを許されないノンプレイヤーキャラクターのように、俺は椅子に座り続けていた。

 同じく横に意図的に座っているであろう藤堂が、わずかに身を寄せてきて、小さな声で言った。


「黒木、言い過ぎ。……どうすんの? 完全に、失敗すると思われてる」

「お、おう」

「その結果、わたし、なんだか、一生が決まりそうなんだけど?」

「……そのときは、そのとき、ということで……」

「ふざけないでよ。そのときは、黒木、責任とってもらうからね」

「責任なんて、とれません……」

「とらせます。黒木家に養子にしてもらうんだから」


 それ、俺というより、俺の両親が責任とらされてないだろうか。

 ダメな息子をもつと、親は大変なんだな……。


 だが、こうなってしまったのも、俺のせい――いや、ほんとうならば、藤堂のせいのはずなのだが、どうしても、『期末テスト50位』というパワーワードのせいで、俺がやらかしたことになってしまう。


 人付き合いが苦手なやつって、大抵、いまの俺みたいに、自らはまっていくやつ多い気がする。今さら気がついても、もう遅いのだけど。


 そうだ。もう遅いのだ。これはもう諦めるほかない。

 第一、何度考えても、こういうことでもしなきゃ、あの話は終わらなかったと思う。

 藤堂だって、本当はそれを、なんとなく分かっているから、最後まで口を挟まず、父親の発言を容認したのだろう。


 ぶつぶつと、今後の勉強スケジュールを口頭確認しているらしい藤堂に俺は宣言した。


「大丈夫だ、藤堂」

「……え? なにが?」

「とにかく、大丈夫だ。俺だって、やるときはやる」


 俺は藤堂を見た。

 藤堂は、魚が空を飛ぶのをみたかのように、目を丸くしていた。


「自信、あるの……?」


 くりっとした穴に、隙間なくぴったりとはまっている、青い瞳が、ゆれている。

 俺は大きく頷いた。今までの自分の勉強歴を思い出しながら、言った。


「小学生時代の俺の趣味のひとつは、クイズゲームのノーコンテニュークリアだ。得意ジャンルは、アニメ・特撮」


 ゲームは情報がすべて。

 暗記力なら、日々鍛えている。

 だから、大丈夫。

 俺だって、なんとか、やれるはず。数学はもとから得意だしな、うん。


 藤堂を安心させるべく、自信一杯にみえるようにしてみたが――。


「あ、そう……」


 藤堂は、ふたたび青い瞳に力強さを宿らせると、勉強スケジュールを組み立てる作業に戻ってしまった。


 おかしい。

 俺の予想ならば、もっとこう、ちやほやされる予定だったのだが……。


   ◇


 というわけで。

 こうして藤堂家の食事会は終わった。終わってしまった。


 どうしてこうなったのかは分からないが、大層な宿題を残して、物語は先へ先へと進もうとしている――。


 


 


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