第13話 きっと楽しい式になったはず
「死んだ? 」
円詩子をオリオンモールに下ろし、
「いや、嘘だろ? だって、尻餅ついた程度って…… 」
「オレたちもそう聞いてたんだけど、優梨子チャンのお袋さんがさっき・・・・・・ 」
オレの言葉に対し返答してくれた雄馬の瞳は、真っ赤に染まっており、その隣の谷口小夜は人目も憚らず、声をあげて泣いていた。
年寄りばかりが
「救急車にも自分の足で乗ってたんだけどな。病院に着いたら急に苦しみだして・・・・・・ すまない傍にいながら何も出来なかった」
顔面蒼白でオレたちにそう頭を下げたのは
「先輩のせいじゃないっスよ」
「無力としか言いようがない・・・・・・ 事故現場にいながら何も出来ないなんて」
雄馬の言葉にそう返す、新見先輩の声が俺の胸に刺さる。そう言えば、五十里優梨子と新見先輩は遠縁だったハズだ。
「優梨子はいつも土曜日は『
カウンターの奥から2番目の席で、Aランチ食べながら巴や俺と世間話をして、3時に帰る。そして、その時は俺が煙草を買いに一緒に駅前まで出る。ここ1年、ほぼ毎週同じだった。同じで平凡だけど、いい日々だった・・・・・・・ なのに・・・・・・なのに」
学生時代からいつもにこやかで、感情の乱れを現す事の無かった新見先輩が見せた涙。つられた様に雄馬や谷口も再び涙を流し始めた。
「九角クン、震えてるよ…… やっぱり雄馬の言う通り、優しい人なんだね」
谷口小夜の言われ自分が初めて震えている事に気が付いた。
五十里優梨子とは小学校から高校まで同じ学校に通い、サッカー部ではマネージャーを務めてもらっていた事もあり、彼女の顔や仕草、そして声までも鮮明に思い出すことが出来た。
携帯片手に仲間に囲まれ楽しそうな声で話す彼女の姿を……
「さっき、五島クンからもメールが届いた。“行けなくてすまない”って・・・・・・ それで、今日8時に『隠れ処』に集まろう……だって」
谷口の瞳からは止めどなく涙が溢れていた。
「『隠れ処』なら新見先輩だけでなく、実山チャンもいるモンな・・・・・・壮ちゃん、ふたりは来年には結婚するんだぜ…… せっかく、『隠れ処』の仲間みんなで祝えると思ってたのにサ……」
オレは実山の左薬指に輝いていた指輪を思い出す。
「巴がずっと新見センパイを想い続けたから、それが実ったんだって、優梨子もスゴク喜んでいたのに・・・・・・ 」
「そんな風に思ってくれていたんだ・・・・・・ 優梨子の事を留守番している巴にどう伝えりゃあ、いいんだよ・・・・・・ 親友だったのに」
今は喫茶店にいると言う事なのだろう。つまり、実山巴は五十里優梨子が亡くなった事をまだ知らない。
オレの知らぬ間に故郷の仲間には、それぞれの時間が、それぞれの想いの分だけ流れていた。
新見理と実山巴の結婚式。
きっと仲間が集まる楽しい式になったはず。そして、その中には光木茜音と五十里優梨子の姿もあるべきだっだ。
「オレは少し風に当たってきます。8時には『
オレは3人に頭を下げ、病院の外に出た。
今はただ、熱いシャワーを浴びて大声をあげたい。そんな気分だった。
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