111話〜その力。そして、新たな武器‥前編
ここはシェイナルズの森の中の空き家。ガルド達はブラットとサアヤにシグムラカンと話した事を詳しく話した。
「……へっ?あーえっと……何で、俺がそんな訳も分からない怪物とやり合わなきゃいけないんだ〜!?」
ブラットは半べそをかきながらガルド達を見た。
「ブラット、お前なぁ。俺も本当は反対なんだが、今のお前では無理だろうからな。」
「そうですね。ですがこれは、ブラットが通らねばならない試練なのです。」
「そう言われても、この力だってどう使ったらいいかまだ分かってないし……。」
ブラットはそのまま身体を震わせながら床にうずくまった。
「ブラット。これはワシからの提案なんじゃがな。シグムラカンからの連絡が来るまでの間、ガルドとワシで少し鍛えてみようと思うが。」
「なるほどな。ただこうしているよりは、いいかもな。」
「それなら、私も手伝いたいのですが。」
「サアヤ。そうだな、その方が手っ取り早いかもしれねぇな。」
「申し訳ありません。私もお手伝いをさせて頂きたいのですが、この身体では今の所何も出来ず。」
「ああ、レオルド気持ちだけで充分だ。そうだなぁ。フェリア、ブラットを鍛えている間。レオルドを頼む。」
「はい、そうさせて頂きます。」
「……てか、何で俺抜きで話が進んでんだよ〜。」
「ブラット。お前に聞いてどうする?」
「それは……。」
ガルドはブラットを見て溜息をついた。
「まあ。直ぐにどうこうなる訳じゃねぇ。でもな、ここで話をしていても前には進めねぇ。ブラット、それにな、俺はいつまでもお前の側にいられねぇ。その為に、お前は少しでも自分を守れるぐらいにならねぇとな。」
ブラットはガルドに言われ下を向き考えながら、
「親父……確かにそうだよな。俺は、小さい頃は強くなりたいと思ってた。今も変わらない。でも、昔程思わなくなって……何も出来ず相変わらず口だけの臆病で。だけど、やらなきゃならないんだよな。前に進まないといけないんだよな。」
ブラットは涙を拭うと、何かを決心したように顔の表情が一変した。
「ブラット……そうだな。もう既に後戻りは出来ねぇ。お前はやるしかねぇ……。」
ガルドはブラットを見つめ少し悲しそうな表情を見せていた。
……だが、周りの者は誰もそれに気づかなかった。
そうこう話をしていると馬車の蹄の音が聞こえ外で停車したのに気づきレオルド以外の者達は外に出た。
するとハングが降り、ドアを開けると中にはヴィオレとマリアンヌがいて馬車から降りた。
「何とか間に合ったようですわね。」
マリアンヌとヴィオレとハングは、ガルド達の側に来た。
「マリアンヌ。久しぶりだな。」
「ガルド。本当に久しぶりですね。」
マリアンヌはガルドを見た後ブラットを見た。
「親父?この人は誰なんだ?」
ブラットはマリアンヌを不思議そうに見ていた。
「……なるほど。貴方がブラットなのですね。これは、思っていた以上にガルドに似ていないようですね…。」
マリアンヌは水晶を取り出しブラットの側に近づいた。
「マリアンヌ!ブラットに何をするつもりだ!?」
マリアンヌはガルドの方を見て、
「ガルド。私は何もするつもりはありません。ただ、気になる事があり調べたいだけ。それに、この水晶は昔貴方も転職の神殿で天職と現職を調べた物と同じ水晶。いえ、それ以上にパワーアップした水晶なのです。」
「なるほど、マリアンヌ。お前は、単にブラットの事が知りてぇって事か。だが、本当にそれだけとは思えねぇが。まあいい。ブラット、それだけなら問題ねぇだろう?」
「親父。……マリアンヌさん、本当にそれだけなんですよね?」
「ええ、今の所は、ただこの水晶にどう出るかで私は決めようと思っていますが。」
「ふぅ。なるほど、そういう事か。ブラットどうする?」
「水晶には少しトラウマがあるけど……多分大丈夫だと思うけど。」
「水晶にトラウマとは?」
「あー、それは……ははは……。」
「ブラット。そういえば、ルルーシアさんの所の水晶を割って、そのままだったがどうなったんだ?」
「そういえばどうなったんでしょうね。」
「もしや、そのルルーシアの所の水晶とは、ギルドの受付に置いてあった水晶の事でしょうか?」
「ああ、そうだけど。」
「なるほど、あれはルルーシアに頼まれ作った物。確か、あれは手を翳した者の力の量が多い程光を発しその者のランクを測る水晶だった筈ですが……それを割ったとなるとやはり気になりますね。」
マリアンヌはブラットの前に水晶を差し出すと、ブラットはヴィオレとハングとガルド達を見た後、水晶に両手を翳した。
マリアンヌはそれを確認すると、目を閉じ呪文を唱えた。
(えっと、今度はいくらなんでも、大丈夫だよなぁ……。)
すると水晶は漆黒の闇の如く光り出したと思うと、その光は炎の如く赤く変化し、その後蒼く澄んだ水の如く変化し…最後には木漏れ日のような暖かな光を発したと思うと水晶を黒々とした煙が覆った。
マリアンヌは水晶を慌てて地面に置くと、「ボンッ‼︎」と大きな音を立て、一瞬黒い光を放つとその光は直ぐに消えた。
そして、水晶を置いた場所をマリアンヌとガルド達は見て驚いた。
「これは、どういう事なのでしょうか?」
「いったい、何が起きたって言うんだ?」
「これは……。」
「どうなってる!何でこうなった?」
「うむ。これは、ワシが思っていた力とは、違うようじゃが。ふむふむ。これは興味深い。」
「しかし、どうするのですか。これを?」
「確かに、このままにはしておく訳にもいかないだろうな。それにブラット!いつまでその格好のまま呆然と立っているつもりだ?」
「えっと、俺は今何を……。」
ブラットはサアヤに言われ我に返り目の前にあるものをもう一度見た。
そうそこには水晶が置かれた筈だったが、何故か見た事のないような不思議な形の杖が置かれていた。
……その杖の先端にマリアンヌの水晶がそのまま備えつけられていてその周りを白と黒の蔦や木々の枝を象った物で張り巡らされていた。
水晶と杖の付け根の部分から上にかけて、片側に白い天使の羽らしき物が水晶を覆うように生えていて、もう片方からは黒い悪魔の羽らしき物が水晶を覆うように生えていた。
杖の先端以外の形や色は全体的に、白と黒が先端の白と黒の羽と同じ半々に波を打つように下まで染まり、杖の上部には色々な宝石が散りばめられ、柄の方は持ちやすい形になっている。
そして、その杖の全体の長さは約50㎝あり、重さは見た目より比較的軽くブラットでも軽く振り回せる……
ブラットはその杖を不思議そうに眺めているとマリアンヌがその杖に触ろうとしたその瞬間、マリアンヌは馬車の側まで弾き飛ばされた。
それを見ていた者達は驚き、ハングとガルドは慌ててマリアンヌの方に駆け寄った。
「……つう。クッ、イタタタタ……何なのよ!何が起きたというの?」
ガルドはマリアンヌの側に来ると、
「マリアンヌ。大丈夫か?」
ガルドはマリアンヌに右手を差し出した。
「ガ、ガルド!け、怪我はしてないから大丈夫だけど。あ、ありがとう……。」
マリアンヌはガルドが差し出した右手を両手で掴み立ち上がった。
すると、マリアンヌはガルドと目と目が合ってしまい赤くなり、ハッとして目線を逸らした。
ガルドは何故マリアンヌが目を逸らしたのか分からなく不思議に思ったが、敢えて追求するのをやめた。
ハングはその光景を見てマリアンヌの気持ちに、気がついたが今は言わない方がいいと思い心の隅にしまった。
ブラットは今何が起きたのか分からず呆然としていたのだった…。
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