92話〜結界を解く3つの鍵
ここは名もなき城。中庭付近の通路の物陰からドルマニールとミスティはクレイ達の様子を伺っていた。
そして、シャナとカルテットと眠っているディアナ以外の者達が中庭の方に行くのを確認すると、2人は小声で話し出した。
「ミスティ。恐らくクレイ達は、あの緑の髪の女の方に向かったのだろう。だが、あの腕輪が気になる。もしかするとあの黒く光る腕輪は、ニック様が探していたシェルズ城の結界を解く鍵となる腕輪じゃないのか?」
「少し遠くて、よく聞こえなかったけど。多分、今の話の内容からするとそうだと思う。でも、ニック様の話だと確か腕輪ともう一つないと結界を解く事が出来なかったはずだけど?いくらシェルズ城とここが魔法陣により繋がっていたとしても、何故あの腕輪が反応してるのかな?」
「確かにな。もしかしたら、もう一つの鍵が勇者側の誰かが持ってるのかもしれない。だが、いったい誰が?」
「ドルマニール。これは推測に過ぎないんだけど。その鍵を勇者側の誰かが持っている。その者は過去にシェルズ城に結界を張った者に関係のある者。って思ったんだけど。」
「そうだな。そう考えるのが普通かもしれない。それに、恐らくあの腕輪を持っているデューマンの女も縁の者かもな。」
「ねぇ。この事をニック様に報告した方がいいわよね?」
「ああ、そうだな。もう一つの鍵の事についてもよく聞いた方がいいだろうしな。」
ミスティはニックに連絡を取る為、物陰に身を潜め通信用の巻物を広げると術式を刻み魔力を込めた。
そしてドルマニールは、ミスティがニックに連絡を取っている間、シャナ達の動きを監視していた。
場所は移り、ここは結界の城の地下にある部屋。月明かりが魔法陣を照らし、名もなき城での事を映し出していた。
そしてアルフレッドとニックは、魔法陣を挟み名もなき城の様子を伺いながら、ドルマニールとミスティからの連絡を待っていた。
するとニックが手に持っていた通信用の巻物に術式が刻まれ赤く光り出した。
「ニック。2人から連絡がきたようだな。」
「ええ。そのようでございます。」
ニックはそう言いながら通信用の巻物を広げ話し出した。
「……何かあの緑の髪の女について分かったのか?」
“いいえ。ニック様、申し訳ありません。その事についてはまだなのですが。たまたま、クレイ達が中庭付近の通路で何かを話しているようでしたので、物陰からその様子を伺っていたところ、勇者側のデューマンの女が黒く光る腕輪を所持しており、クレイ達はその事について話しておりました。”
「ミスティ!今黒く光る腕輪と言ったのか?まさか、偶然にもあの城にあるとはな。だが、何故光っている?この城に反応しているのだろうが。」
“ニック様。これは、あくまで推測に過ぎませんが。前にお話しされていたもう一つの方の鍵を勇者側の誰かが持っているのではないかと。ですが、そのもう一つの鍵が何なのか。差し支えなければお聞きしたいのですが。城の結界を解く為に必要な物が他にもあるのでしょうか?”
「まぁその事を話しても差し支えないだろう。これは、私の母方のオパール家の屋敷に赴いた際に封印された書物があり興味本意で術を解きその書物を読んだ。その書物は200年前にこの城に結界が張られ、異世界の者達が元の世界に帰った後に書かれた物であった。かつて大陸の国が1つだった頃、この国の王であったロウディ・オパールが、その時代に何が起きたのかを記していた。そしてそこには、その時代に召喚された異世界の者達が残した言葉も書かれていた。『無い事を願う。だが、シェルズ城の結界が別の方法で解かれるかもしれない。その時の為、結界を張る為に必要な物を、この世界の信頼できる人物に託しおいていく』と言い。それをその書物に書き記しておいた物らしい。」
“ですが、何故その様な文章を残したのですか?私ならその様な文章を残したりしませんが。”
「確かに、普通であればそうだろう。数百年?数千年前。かつてこのシェルズ城は、この世界に初めて召喚された異世界の2人の者達により築かれた。……その2人はこの世界を自分の思いのままにしようとし、新たに召喚された異世界の者達により城ごと封印された。そして、数十年後シェルズ城の封印が解け、そのシェルズ城の2人の異世界の者達は動き出し復讐しようとするが。それに気付いたオパール家の子孫が、新たに異世界の者達を召喚しその者達はシェルズ城の2人の者達を倒し異世界の書物や物などを流失させない為、それとこの2人に関して知られない為に強力な封印を施した。」
“そうなのですね。ですが、封印され倒されたのであれば、結界の城に人々がいないはずでは?”
「それは、数百年前ぐらいに封印された時に、シェルズ城の2人の者達には子供が数名いて、シェルズ城の2人の者達の仲間達と共に地下で生き延びていたらしい。そして200年前にその封印が弱まり解け、その子孫達が動き出した。だが、シェルズ城の者達は、その時代に召喚された異世界達により倒され結界を張られたという事だ。」
“それは分かりましたが。何故結界を張る必要があったのですか?200年前に倒したのであれば、その必要はないのでは?それに何故この城の者達には召喚魔法や召喚術式が使えないように術式が刻まれているのですか?”
「確かに倒した。その理由は、この城と外部との接触を避ける為と、この城に前のように何処かに子孫やこの城に関係する者達が隠れている可能性があり探したが見つからなかった。その為、結界を張る事になった。それと、この城に生き残りがいた時の為に神の力を借り、この城で育った者が異世界の者を召喚出来ないように城全体に術をかけた。それ故にこの城で育った者の身体の一部に術式が刻まれている。」
“なるほど。分かりました。”
「……話は少しそれたが。そこに書かれていた黒魔石の腕輪と、もう一つの結界を解く鍵となる物は、特殊な武器で一対の鎌。その特徴は、片方が刃が大きく柄も長く、刃と柄の間に龍と髑髏の飾りが施されていて、また片方は刃は小さめで柄も短め、刃と柄の間に龍と天使の飾りが施されている鎌らしい。」
“はあ?一対の鎌とは……でも、何故また一つの鍵が武器である鎌なのでしょうか?”
「確か、その書物にはこう書いてあった。黒魔石の腕輪、一対の鎌に仕込んである聖龍と髑髏と天使の飾りが揃い、更に召喚の術式により鍵が現れ結界を張る事が出来る。という事は、シェルズ城の結界を解く事も可能という事。ただ、その召喚術式がどのようなものか分からない。恐らくはその封印をした者達の誰かの子孫が知っていると思うのだが。」
“では、城の結界を解くには、それらが必要なのですね。”
「ああ、だがな……仮にその城にその一対の鎌があったとしても、術を使える者がいなければ話にならない。しかし、ミスティ、黒魔石の腕輪がそこにあるのであれば何かの手掛かりになるかもしれない。奪えそうか?」
“今はグレイルーズの2人の男女がいて、眠っているデューマンの女が1人ですので何も無ければ大丈夫だと思います。”
ニックはその後どう動くのかを、ミスティに指示を出し、通信用の巻物を閉じた。
そして、ニックはアルフレッドにその事を伝えた。
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