79話〜ユリーナとカルテット

 ここはグレイルーズ国のバイオレット家の別荘。


 バイオレット家の別荘はラウズハープ城より南西に位置する森に囲まれた高台にある。


 そこにはシャナの母親のユリーナと数名の者が住んでいる。



 そして儀式が始まる数分前の事。ユリーナは南東の方角を窓越しで見ていた。


 すると扉が開きこの家の執事のジオルドが入って来た。


「ユリーナ様。いよいよ奴らが動き出した様です。」


「そうですね。ただ、何故か胸騒ぎがしてならないのです。あの子が今何処にいるのか分からず。デスクラウン様の命を受け城を出たと聞き探しましたが。この件に関わっていないといいのですが。」


 そう言うとユリーナは遠い空を見つめた。


 すると伝書カナリアが飛んで来て、ユリーナは部屋の中に入れた。


 伝書カナリアはイワノフがこっそりと放ちユリーナの元に送っていた。


 ユリーナは伝書カナリアからイワノフの伝言を聞くとうな垂れるように床に座り込んでしまった。


 そうイワノフからの伝言とは、シャナが勇者を召喚し現在その勇者が生贄にされそうになっている。そしてシャナも名もなき城にいるという事だった。


「ユリーナ様!?」


「ジオルド。私の胸騒ぎは、この事を意味していたのかも知れません。早急に手を打たねば、このままではシャナとその勇者様も奴らに……。」


 そう言うとユリーナは床を両手で、バンッ!!と叩いた。


「私達の計画を変更します。それに、イワノフに監視させていた。結界の者達も思っていた通り何か企んでいるようです。恐らくオルドパルスが行おうとしている儀式などよりも遥かに大規模な企てを……。」


 そう言うと、ユリーナとジオルドの前に1人の男が現れた。


 その男はユリーナの前で一礼しひざまづいた。


「奥様。お久しぶりでございます。」


「カルテット。本当にお久しぶりですね。」


 そうこの男はかつてイワノフと共にシャナの父親に仕えていた者の1人カルテット・ロードだ。


「ラウズハープ城に暗雲が現れたので、心配になり来てみたのですが。こんな事になっていたとは、知りませんでした。」


「相変わらずですね。何処かで聴き耳を立てていたようですね。」


「はい、申し訳ありません。最初は無事かどうか確認するだけのつもりでしたが。まさか、シャナ嬢が。それに結界の者達が動き出した。そうなると……。」


 カルテットは少し考えた後、


「その儀式が行われる城には、イワノフがいるのですね。屋敷を離れていた身でこんな事を言うのは差しでがましいとは思いますが。微力ながら、お手伝いをさせて頂きたいと思います。」


「カルテット、そんな事はありません。可能であるなら、私から貴方にお願いしたいと思います。」


 そう言うとユリーナは小さく頭を下げた。


「ユリーナ様。勿体ないお言葉。では、早急にテレポートで、その城に向かいたいと思います。」


 そう言いカルテットが指を鳴らすと、一瞬でその場から消えた。


 そして、ユリーナはそれを確認した後、ジオルドに何かを伝えると別の部屋へと向かった。

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