第113話

連休に時間が余って追い越し作業は捗っている、忘れていた為すべき事が一つ二つと頭に戻ると、計画的な思考に取り替えて段取りを組み出す、焦慮は手で払いのけて、命の短さをやすやすと計算する、今は旅行者も羨ましくない、これがいいのだ。


雨の降らない長靴は目抜き通りに浮いている、傘はさげても履き物までは及ばない、そこにマスクのような恥じらいがあるのだろうか、数が増えても湿気と気温は考慮されない、相変わらず何の報せを頼りにして、口元をいつまでも覆い続けるのだろうか。


連休明けも雨が降り続く、昨晩の濡れはもう忘れ、すこしは天候に癇癪も起こさなくなったか、おそらく行き帰りの気分によるだろう、それに出勤中に強くあたらなかった、平年ならそろそろ梅雨あけか、宣言はとうに過ぎたけれど。


ふっと息を吹きかけられただけで、風邪をひく、そんな時勢を朝の大雨と昼の蒸し風呂に思う、水たまりが水晶のように反映している、大気は新生されて空気をかき混ぜている、神神も溺れる流動の息吹に、咳はひどくこざかしい。


盗み読みもままならない仕事量の合間に、文をつづる、昨晩の筋トレが慣れなかったせいか、効果は鞭打ちのように首から背に痛みを発生させている、このハンデが体に対して注意を向けさせる、今日も脱力、明日もだらしなく。


偏った痛みが生じる全体は引きずられてかちこちする、汗に柔和になることはない、黒いボックス車が正面切って睨む心地だ、一方通行を無視するほどに、停止したトラックの陰に気温は下がり、続いて排気ガスにくらくらする。


背中の痛みが棘を投げ散らす、神経は目に見えない苦悶を滲ませて、子供をしつけるがまんを置き換える、大人ができないわけがない、いや、育ったからこそ忍耐できない、いくら成長しても魂はそのまま、三つ子を保存して大げさに訴える。


雨上がりの扇風機に吹かれている、無責任をなすりつける、他人への不満は徒労にしかならない、アイデアを口にしただけの人間に何を期待できようか、それより行動に注視しなければ、行いは形に現れるのだから、前を向いて気を詰める。


背中の痛みがとれると晴天となる、あたり前の喜ばしさだ、どうやら二度目の梅雨もあけたようだから、体の部位をぶり返さないように、などと下手なことも口走りそうだ、昨日の訪問と故郷に感慨は甦り、普段を思う、話題は合わさなくていい、自分と他の接点で十分だ。


梅雨は止んでもまた午後に雨は降る、宣言はもはや役に立たない、天気予報はそれでも信頼に応え、参考として重きをなす、外れて文句を言うのは野球の結果と同じ、口を開かず、黙すに努める。


平日から離脱して愚痴以外のぼやきに入るはずが、朝から妬みが沸沸する、ああぁぁ、という叫びが昔の筆に描かれていたように、奇怪な麒麟が脚を伸ばして山を歩く、そんな恨みが午前に渦巻いたら、たぶん午後は素直になれない、あとは気ままな夜な時間を。


神経質は他人の動きに目を結わえる、暇な人ほどつまらない事をしでかす、指で踊ったり膝で小刻みにバウンドしたり、独り言のようにじっとしていられない動静に、性格はどこかしら根拠を見つけ出す、やたら喋る男に対しても、うるささばかり感じるように。


トルソーのシルエットをベンチの隣に、受付係は準備する、難しいことを抜きに今までの業務を練習にして、名前と金額をチェックする、ここまで目の疲れが表情を固くしているから、柔らかく柔らかく、緊張が頭を執着させずに、対面することを楽しんで。


開いた窓に手すりは透ける、アングルは赤い車を焦点に砂利を眺める、廊下は板敷きに部屋はミステリアスに、わたしは運ばれていく気分で歌詞はやってくる、たしかクレズマーだ、どこの誰かの狂騒は、午後の静寂に目を瞑る。


一分ごとに人が集っていく、空いたスペースに動きが形成されていく、たいてい演劇公演で味わう雰囲気は、こうして舞台が整っていく裏方のようだ、関係者の少数がエネルギーとなり、次第に対人の交流が場を支配する、滅多にない経験だ。


赤いフラッグが石の鳥居に揺れる頃に、会話の熱源は複数に発生する、扉を区切った廊下に一人で、言われた業務に従事する、おそらくおしゃべりよりも身にフィットするこの位置は、いつまでも馴染む自然の場所なのだ。


足もがくがく週明けの仕事を迎える、朝一番から物量に飲み込まれ、ようやく息のついたところで、世紀の美男子を調べる、熱砂に演じた首長の二役は、顰める眉間に酔いしれる、キャッチフレーズが目を曇らせるのではない、鋭い眼差しに打たれている。


小首を傾げて三連写を覗く、前にポートレートを撮ってもらった時と似ている、ひどい顔だ、目の前にできないと空想がこしらえる高みは、録音の声と同じ差異をつきつける、しかしそれこそ事実だ、思い込みはたいてい思い上がった姿を自身に載せている。


対決する、しでかす、内容をぼかして感傷する、万人の為のお話に、個人の勘違いが駄弁する、まるでアフタートークの質問のように、おまえの物語はきいていない、それより正しい問いかけを、それでも思い出す昔のやりとりは、最良の目を再現させる。


粘度を持った滴が坂道へ転がるように、ねばついて目は生気を失う、ペースの乱しとはなんぞや、お節介は好きだがされるのは結構だ、プライベートはいくらでも、けれど仕事において余計はいらない、ただでさえ抑えているのだ、世話されると束縛されるみたい。

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