第104話

横降りの雨に足が濡れて額は汗をかく、早く家を出たい外の散歩は、橋の上で斜め線に遭遇した、タイミングを謀ったように思考を奪う状態に陥り、風邪を予防して頭はさまざまに働き出す、後悔は感情をいたぶるほど強く、後日の鼻の痛みを思って、笑うしかない。


統一された思考がなければ世界なんて生み出せやしない、ところが現在の対処に使われると同時に、足を冷まさぬように太腿を張らせる、予定通りいかないのは腰を痛めた者も同じ、あきらめる他にないとはいえ、あがく様は似ているだろう。


堪え性のない便秘によりストレスは超人を忘れさせた、誰かの為にあれだけ熱く心は煮えたぎった二週間前に比べて、今はなんと個人的な狭小で怒っていることだろう、笑って許せるゆとりなく、雨と風に拳をあげている、それからズボンが乾いたら、気分もおそらく戻るだろうか。


開かれたホールに愚痴愚痴言いそうだ、重い足腰に曲がった背中だけではない、乱れた白髪頭に湿気に喜んだ体臭も加われば、仏の道を逆上させる、若さは驕りとはいえ、中年も傲慢にある、それから固陋へと傾き、骨になって硬質は純化される。


天ぷらパスポートの原価取りをしつこく、三倍は元をとったとしてやったりにうどんを一本かめば、唇を大いに削る、今日の晴天はようやく頭を働かせ、昨日の仕事の低下を気分良く解消してくれる、成長はまだまだ、とはいえ周囲の変化もほどほど、舌を噛んだとしても、言葉遊びはなかなかやめられない。


隣で動画を観ながら、マスクの入った袋をソファに叩きつける、テーブルにも二度三度と、映画にみるような現代のストレスとトレンドだ、一体何をそんな見失っている、たかが口を隠さないだけで、しかしこれこそ今のマナーか、注意よりも無言に音が叫ぶ、そんな相手の目を覗けば、笑みなどありはしない。


黄金の週に昼下がりの一時を憩う、プラハの時計まで遡及されなくても同色の針は眠さをそそる、新緑よりも心が眩しくなる、釣られた言葉は意味を持たず、のちのち勝手に内容をつめこむ、風が快い、それで十分な座席だ。


同等にヘルプされて自身の小ささを思い知る、自己放棄は言葉以上の行動に移し辛い、観たいものがあるから、その言い訳だけで予定を守る、さらに一言すれば、三度目の正直だから、それが事実とはいえ、とても理由にはならない。


思い出を虚構に書きつけた朝が過ぎれば、億劫に思える移動も懐かしき情景として目に重なる、陽の射す向こうの青山は夏の地中海をまた思い出させ、再会を求めて沸き立つ心に蝕まれた出発がよみがえる、その次の旅行の巻き戻しとして、ひさびさの尾道へ向かう。


一本間違えればあさっての町へ行ってしまう、インドの列車で何度も味わった不愉快と笑いは、時があれほど長く与えられていたからこそ、悠久の大地と同化して人人と生きていた、今は短さをさらに裁断して隙間を縫って生活している、それを損失と思わず、この場しかないと楽しんでいる。


きわめて気だるい連休の中日出勤は、人嫌いが戻ってのたのたする、関心は自分のことばかり、数日を遡って体調を分析する、そんな仕事の終わりの間際に怒れるおっさんがやってくれば、退屈をしのぐように声を大にしてつきまとう、これも不手際のようだ。


合鴨スモークサンドを公園で食べれば、雀はホバリングして機を狙っている、鳩にあげずにやってしまえば不公平になるだろうか、風が冷たく強い今日はまだ初春をひきずっている、夕陽はずいぶんと伸びたものの、何もかもなかなか暖まらない。


厳島神社の能楽以来の宮島は、マスクありの訪れだった、観光地の特異性を思い出させる景色よりも、絶えた客の戻りを混雑と共にしている、冷たい風に海の陽射しが照りつけて、外にいる気分にもなれずに船の室内で人を観る、たぶん楽しい休みか、それは皆同じか。


本通よりも浮かれ騒ぐ島の商店街の人人を見て、たまには近い遠出も良いものだと思う、これが毎週なら飽きるか、ほぼ必ず通う街の目抜き通りを思い返せば、毎日でも目に映える風景があるだろう、今は新緑の時だから、それも理由の一つだ。


紙を失くせば、インフォメーションセンターに設置されている宮島鹿の餌付けについての注意を二つに折る、もみじまんじゅうを食みながら折れ線に沿って裂き、アップル味を追加しながら支持体を作成する、文字は書くところがなければ、持ち場を得られない。


三個の牡蠣酢に酔っぱらう、三百ミリ宮島限定の日本酒は、常温ながら燗酒にしてもうまい黄色を透かしている、演出は歌のように派手にならず、大口を開けて牛のように咀嚼して、大きく息を吐いて破顔を一喝する、ただそれだけ、だから美味しいと自分に従う。


義務よりも欲求する、いつからか文章は当然となったのだろうか、数年ぶりの観光はつまるところ雰囲気にすがりついているのだと、樹木の陰で夕陽から逃れ、桟橋へと帰路に並ぶ客を眺める、いつまでもこの日常にまとわりついていたいのだ、滅多にない部外者の心境が、一人大勢を見つめている。


仕事をしなければ、せっかくの連休仕事をしなければ、正しい切迫感だ、実際そうしなければならない、だからといってそれだけに生きるわけにもいかない、しかしそう努めなければならない、そんな時に赤子は体当たりしてくる、ほんのわずか母親が目にした隙の衝突に、まったく自分とは、無意味だ。


いつを基準に目測しているのだろうか、腕を組んで歩く女性を頻繁に見かける、質の程度はもはや判断がつかない、妥協に従ったせいか全部を良しとしている、神経が痛むと悪態が笑顔する、広場ではくるくるパルクールとマイクのクールが回る、退屈だ。


連日が重苦しく、文章は長く伸び、内容はのっぺりと薄くなる、風がもう三度高ければ、暖かな居場所を得られるだろうに、温泉にでも浸かればあらゆる問題が解消されそうだ、目にも心にも油を、餓えるだけで、体は欲にたどり着けていない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る