第84話

年末年始のあわただしさに動いた一週間も、休日を挟んで衰えている、口のまわる者ほど手は動かない、そんな風に思っていると同時に体を使っていると、できる人についてあてはまる、だからなんなのか、そんな事を考える時間がある。


緊張に惑わされないなら、おそらく依存する気持ちはもうないだろう、平然と向き合える親しみは悪いことではないが、非日常体験を欲して金銭を支払う対象とは違う、終わりという言葉はつい頭に浮かんでしまうが、始まりという陳腐もたやすく後ろにつなげられてしまう。


首根っこの痛みは階段跳ばしに転んで、ふりだしに戻った、ずっこけない歩みよりは、たまに踏み外して人に驚かれる方がいいと、平然を知らんぷりする、陰では一挙手一投足に中年の声をもらしつつ、顔をゆがませて皺ばかりいるのに。


今は酒よりも健康に酔えて、無駄遣いよりも計画と選択に爽快を感じる、健全のまま集中して作業できる最中こそ、羽虫に邪魔されない没頭の陶酔に痴れることが可能だ、それはただ、何をすべきかはっきり動いているだけのこと。


いまだかつてうどんがここまで主食になるなどと考えたことはもちろんない、それほど食べている、毎週だけでないほぼ毎夜とうそぶくほど、新しい発見の生活は巻き戻しに違いないのだが、これこそ性に合っているといわんばかりに、小麦と汁が腹になじんでいる。


暗い午後空は足下からひやす、しかし時間が多い、午前の家はこれほど実感させるものなのか、外のカフェは過ぎるのが早く、集中する物事を持った分だけ、すみやかな体感で人生を終えてしまうのでは、それはおそらく悪くないのだ、時間を扱ったアニメの主題歌がアレンジして店内に歌われている。


こんな天気の良い休日にわざわざ館内に閉じこもるなんて、それも肉感がやけに浮き上がるモノクロフィルムを、暖房のつかない室内は冷たく暗く、紅葉を反映させる外とは大違いだ、それでも、映画は区切りのよい瞬間を一日に与えてくれる。


そばにあったパン屋はいつから改装したのだろう、アンティークな木の店内は基調を変えてしまい、メープルとコンクリートが今風にしている、以前も良かったのに、ラインナップにサンドウィッチが増え、それにつられて多く並ぶ、結局人の気の少ない方がいいらしい。


映画二本に一日を無為にしたような気分だ、しかしながら終わってみれば充実感に浸りきっており、日中の太陽は惜しくとも、日の落ちたカフェの店内は今日というこの世の意識を集中させている、やたら店を回らず、いってんにこしが座っている。


批評がどれだけ鍛錬になったか、昔の映画監督の発言を考慮する、おそらくできる人はそのような回り道はいらず、直接に量産できるだろう、ならば毎日の感想は糧になるのか、仮にならなくとも、それに喜んでくれた人はいないわけではない。


うすら寒い倉庫で昼食をとる、作業にかすれた長机は怨念と叫声の模様をしていて、手を出せばすぶりと浸かってしまいそう、コンビニのコーヒーは口内炎を刺激して、口のまわりは喘息に痒みはじめる、雨降る前の静謐の時だ。


あらゆるものがたばこのようだ、週始めの嬌声は耳に突き刺さる、友誼をくしけずるおかし合いの裏には、忙しくなるであろう仕事が放られている、まずはため息を、それから目線を上に、噂も煙も足るに取りぬと大きく吸い込む。


苦手と思われる音楽家に面して、仕草や言動にも波及する、次いで目にして深まると、ある一面によって毛嫌いがひるがえった、悪さは良さも含み、好きにも嫌いにもなれない物とは違う、着目させるか背けさせるか、否応ない選択は感動に従う。


固定された頭しか使えない、そのせいで首を痛める、話すことも特にいらないと、舌先が痛んではばんでくる、相手を欲していないくせに、また冬がやって来た、目は一角を見つめてほじくる、しかし理由は本を読む暇だろう。


一層着込んだ次の日は、北の曇り空がはれて陽が射している、煙の近しいこの空気は、ふと近所の珈琲屋が豆を煎っている、いつもよりしめり気少ない軽い芳香は、ほんの余韻をふり返させてくれる。


明るい空から白い子が降ってくる、まるで風花のような軽軽しさで、ただし白い綿毛で溶けはしない、しかし冷風と涼気は勘違いさせるべき、はらはらよりもさっと降りかかり、寸時の雨もすぐに乾いてしまう、熱くないのに。


目の前の丁字路は一方通行だ、そこへ進入する車を最近見かける、四輪二輪問わず、しまいにはパトロールカーも入りそうになる、何か罠でもあるのだろうか、標識の位置は変わらず、どうも近頃よそ見が多いらしい、ほらまた通って行った。


金曜日が火曜日と思えるリセットの結果として、不調が整合させる、目の重たさは胃腸にたまっていたか、時に寝込めば世界に生まれ変わる、この調子がいつまでも続きそうだと今度も思い、そうはならないと口を縛り、眠気もほどほどイスに座る。


北風に自律神経は乱れる、実態を失った残香のキンモクセイを通り過ぎて、これくらいの本質の方が気分は痛まない、昨晩の雨も通過させたか、もみじは打たれて今年の色が消されたというが、苛まれた心持ちは強くむきでる。


今年のマフラーが寝違えた首を保護してくれればいいものの、日に日に肩へ忍び込んでいく、今日も愚痴を書く、その発端も変わらない、関係も同じく、汚れた線でつながれていく、感謝は数年前に便所の中へ、大好きでやめた高校生のたばこの扱いの本体と。

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