第74話

大雨予報は寝ている間らしい、うつつに聞こえない音だけが頭に残り、傘も開かずに自転車を走らせれば、本川は大陸の大河を流している、カフェオレ色だけでなく表面もうねって勢いが速く、枯れた雑草と共に太い枝ではない丸太がおりてくる、今は雨がなくても、知らせにおのずと恐怖する。


朝昼夕、映画のチャンスは三度ある、早く済ませる休日を、力の加減を変更して平日にもってくる、すれば日中は頭を広く使える、そのように思いつつも、どうも気がはやって脱線しそうになる、ゆとりが失われつつある最近だから、ここでまた一歩姿勢を引こう。


雨はやはり強くなってきた、早早と日暮れをおとし、パサージュの端に雨粒がとどこおりなく落ちてくる、盆の休みは人が少なく、何を理由に減らしているか考えてしまう、半ソデ半ズボンの先週と打って変わって、長袖にゴム靴が雨面を防いでいる。


仙人仕立ての家族連れが歩く、衣類は思想よりも体系をあらわす、流行の姿はきれいでかわいい、つまらないと思いつつ色気だけは正直に受け取る、季節外れの冷気であっても真夏の衣装は変わらず、タンクトップの素肌に雨露を吹き付ける。


警報の常態した今日に出て、ものすごい勢いで流れていく水量をわたる、機を窺ってアーケードの下にたどり着けば、体力不足と椅子におちこむ、せっかくのやすみ、新品の長靴も揚揚としているのに、踏み出す力が欠けていて、無為に過ぎていくようだ。


白いレースの羽織も、こうも雨が降るとコンビニの雨合羽だ、二枚でぴたりの気温なのに、店内はダウン心地の寒さが回っている、気の狂った親を笑った昨夜だが、心配と安心に落ち着いたせいか、今日は我が身がおかしくなっている。


思うように進まない時は、じっとするべきか、そうもいかない胸騒ぎに体がうごめくなら、じたばたもがくしかない、血が足りない、肉が欲しい、作業はできても頭がままならない、だから考えるよりも手を動かし、足も使ってステーキを食べに入る。


作曲できないならば、せめて編曲でもする、止めてはいけない、できる限りの行為をつかまなければならない、偉大な人の言葉から思う、それほどの人がそうしているのなら、それより上へ行けなくても、わざわざ下をとることもないだろう、神経が乱れている、もちろん雨をすべての原因とする。


大雨でもへこたれない、といって災害に巻き込まれたら阿呆だろう、とはいえ街はたいてい防備が強く、立ち飲みして命を失うこともないだろう、軽率な考えだ、といいながら夕方の一杯をいただく、この酒と時間を待っていたのだから。


昨夜から運行状況を頭にする、天気予報の入れ替わりだ、なかなか目にかかれない演劇が舞台ならば、どうしても観たい気持ちが前に出る、とはいえ天気を操れる人はいない、ただただ見上げて、線路で働く人に無茶を思ってしまう。


夕方の選択に間違えている、それは本当にそうだろうか、ただどん底に落ち込む日なのだろう、天気を読んで家に帰りながら、何を根拠に何もしなかったのか、休め休めと唱えられるようながら、働け働けと言い訳するようだ。


おそらく、なんとなくむなしさを覚える日なのだろう、何をするにも動きが遅く、不満だけしか頭にない、こんなのやめだと思っても、どうにもならない、連休ながら仕事の坩堝にいるようで、頭をそろそろ殺すべきだと感じる。


店主に大将、それにマエストロまで歩いている、今日は誰もが休みらしく、スーツ姿は増えていても、多くの人が体を休めているらしい、二階からの眺めは四連休でもっとも多く、運動を欲する鈍った頭でも、なんだか力が湧いてくるようだ。


倒れると起きあがるのが難しいように、離れると仲直りも簡単にはいかなくなる、それでも一歩踏み入れると、覚えていたものがよみがえる、環境と合わせて健全な生活を送っていたが、すこし不健康になると習慣が取り戻される、これが元元の動きなのかもしれない。


苦悩こそ芸術だと聞き、ならばそれを得れば成り立つのだと短絡的に思った、そして次の日になって頭が言うことを聞かなければ、とてもアートとは言えない、苦悩はそうやすやすと手に入るものではない、単に悩むのは準備でしかなく、浅はかな頭脳は高尚に苦しむのに適さない。


波のない一日は昔だけだ、今は不調と正常が交互するのが普通だ、午前に動けず、夕方になってやっと活力を取り戻す、ところが朝だけでその日を断じてしまい、もう人生は終わってしまったと、質の悪さにうなだれた。


使った分だけ罪悪感を抱く、それは事を成す前の公言のように、先に出して重荷を背負うかたちだ、もちろんそんな比喩にならない、食べたいだけ飲んで食べ、元気になったところで頭を揺するだけだ。


堅物の小説を読んで思うところは、締めがつまらなさを反転させること、四連休をいかにつまらなく過ごしたとしても、最後を添える時間次第によっては、すべてが意味良く上向いてくる、そう思ってホルモンを食べる。


足腰くたくたに避けようとする、飽きる、それほど残酷な認識もない、ではどうすべきか、変わらず貫くべきか、それとも常に変化に対して柔順であるべきか、飽きられる、それをどうして忘れていた。


まず感情で断り、再考してから次の手を打つ、一度目をそうそう信用してはいけない、自分でもどこかおかしいと感じている、数日ぶりに体を動かした日は、湿りが爽快感を拭い、普段見えない陰を光らせようとする。

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