第71話

雨と交通手段を交互に見て、昨夜の暇をあざ笑うようにすべき事をはかる、一日の分量は寝て解消され、新しい日は寝坊した分だけ音符が追えない、外に出れば空は明るく、雨は待ってましたと降りを強める、傘をさして走れば、信号をみないと当たりそうになって、顔を思わず見合わせる。


トレンディなドラマで一世を風靡した、物心のつかない時分の有名人がわかれ、名前から画像を検索すれば、発掘作業の驚きが好みに一致する、自然と思えない目鼻立ちの揃いは、冷たい美しさが宿り、綺麗な女将の才走った姿と重なり合う。


予報に嫌われた午後は、老人のカラオケをバックに待ちぼうけ、雨はなかなかやまない、頭痛も加わった夕方は、なじみとした店に着き、冷房に凍えた体を座らせる、動物が動き回る公園は静まり、鳩の一羽も動かない、ところが空から光が射されると、蝉が一斉に鳴き始め、寸暇に夏の光景に様変わりする。


眼か、エアコンか、休日は平日よりも頭が痛い、体力はあるはずがあくびは多く、不健康な気分は口元を結んで動作は苛立たしい、せめて休みの日こそリラックスしたい、そんな思いを外れさせているのが、天気の予報と当たらない空の暗さか。


構想は先先までレールを敷いているが、先へ走らせる車両よりも、燃料が足りていない、ならば着火させる酒をカンフルと考えると、そもそも石炭がないことに気づかない、しかし燃やせば何かしら炎は立つか、そんな思いで数ヶ月ぶりの立ち飲みだ。


人数はすぐにぶりかえす、一桁の小休止は何日になるか、二桁が始まればみるみると高まり、三桁に届けばすかさず禁止される、今の内に飲んでおくのは遅いか、真面目にする方が楽しいと思っていたが、一息入れるさぼりは、それはそれで別を生む。


二種の言語の寄せ集めを読み終えて、各国の詩の歴史を知識として知る、あと三十歳若ければ、ここからしょくしゅを伸ばすだろうに、未来を見る残り時間がまず遠望される、それは錯覚で、もはや近い景色として期限は感じられる、こんな時に命が惜しくなる。


テレビ投稿の懐かしい八ミリ、フィルムはからから回ってメリーゴーラウンドの映像だ、含まれるアルバムは画質が荒く、かたかた鳴りながらズームで笑顔をみせる、大切な人の、画質に必然音楽はそなわり、懐古的であっても、思い出はいつも涙ぐませる。


運動に汗が出て、くしゃみはおさまる、熱帯夜にならずに雨に冷える、うで先とひざ先に、夏休みの歌を流せば叙情は感じられず、覚めた耳で詩が聞こえるのみ、固まった頭には何も通らない、だいたいが滞っている。


休み明けの疑いは再び、もう一年半になる、ただの疑念で終わる健康状態は、一時は脳を狂わせる思いこみもある、きっと似た事だろう、以前は飲酒が常時だった、年が重なり、ひさびさの立ち飲みが仕事始まりをだらけさせる。


やっと蝉の声が聞こえる、汁のもれる死体は鳴くより前に踏んづけたが、日照りの声はようやく夏を迎える、暑さに打たれたのか、盆の別れに命の冗談が口に出てしまい、失言に対して反省がやまない、どんな言い訳もきかないが、時には軽軽しく扱っても、そんなつぶやきの反芻だ。


遠くからのブラックなジンベイに、ノースリーブの黒い女性を確認する、ところが小さい顔のバックに結わえた金髪は、太陽を直に反射させる禿頭となり、気づけば爺だ、逃げ水も笑う蜃気楼が歩き、目をついこすれば、汗が混じってしみるばかり。


指先が動かすゲテモノは、歳とる震えの一症状か、やたら飴玉を口にして、ビニール袋と包装は鈴のごとく鳴り散らされる、まるで獣自身がそれらを退けさせるように、暑い夏に蝉の色と、麦わら帽子の老いが一カ所に集う。


今が蝉の最盛期だ、連休の始まりはすでに盆休みの気温と雲で、暑さと喧噪は水辺に人を集める、昭和のイメージが残るファミリープールには、なおも伝統として家族を寄せて、モバイルとは縁のない水遊びは、ソフトクリームのように百人近く並ばせる。


藤棚のベンチで文を書く、木漏れ日が揺れながら影に焼けるよう、それほどの暑さだ、袋を置いておやじも座って眠り、前を過ぎる人人の自転車も、熱から逃げるようだ、うしろのテニスコートは無い人となっていて、こんな日なら焦げてしまうと、ない姿が湯気に立つ。


賛成反対を唱える者者を聞くと、迷える子羊が顔を出して移動する、指導者は棒きれを持った牧童だろうか、メディアや拡声器で述べ立てて、神様のために血を地に流し、燃やして捧げるか、その中の一頭から、そんな事をつい想起させる、昼間のうるさいテレビニュースだ。


こんな大人にならない、そう思っていた子供の人間が消えるように、絶対こんな老人になってたまるか、思う今はいなくなるのだろうか、口を鳴らしてよぼよぼ立つ、こんな難しい問題は解けないと頭を抱えた高学年の宿題のように、いずれ百点をとることになるか、老いの零点を目指そう、なるとそれは死か。


冷えて大変だね、そんな声をかけられると、身体の寒い季節よりも、やたら冷蔵させる今の風潮が恨めしい、肉の差があるとしても、どうしてこうも室内は居辛いか、そんなに暑いのか、平然と半袖にいる人人を見て、疑問を持たないことがない。


四連休の二日目は、まだ手をつけていない、午前と午後の予定を仕上げるだけで、まだ空は明るい宵の入り口になる、しかし焦らない、残りの休みにも夕刻があり、頭の中を満足に描き出すだろう、限界はとうに感じた趣味でも、途中でやめるわけにはいかない。


休みが続く前に梅雨明けしてよかった、子供でなくても喜ぶ夏休みだ、一滴とない快晴は今日も肌を焦がし、昨年手に入れた黒いレンズも伊達にならない、冷房はとても季節と体に合わないが、外の世界は今こそ愛すべき時だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る