第37話

たまっている宿題をあれこれ考えながら、天気と交通手段を時間ごとに気にする、こういう頭の働きが苦手だから、整理整頓は嫌いじゃないのだろう、眼鏡を曇らせるマスクをしながら、どうにか追いついて空いた時間を、いつも通りぼやきで埋める。


自由がないと聞かされて、一切の自由があると教えられるようだ、ではどちらなのかと首をひねって、両方をとって正解とするのも、どうも間違えのような気がする、まるで浮浪者のごとく人気のないところを探し、読むも、音がわざと邪魔をする。


指針や方策に迷っても、紙に書けばしぜんと道が見えてくる、そんなようなことを昔聞いたが、今は書いても特にまとまらない、そう頭を悩ませることがなく、普段から絡まっていないかもしれない、それでも書いてすがりつこうとするのは、どうしてか。


映画館という走馬燈のあとで、エレベーターを降りると強烈な日射しが照っている、今日の天気予報にあっただろうか、右手の雨傘は何の為にあるのか、朝は長靴さえはく気でいたのに、あまりの僥倖に、臭ってやまない衣類が悔やんでいる。


店に入ってすぐ気づく、手に何かがない、味噌や酢、あとは醤油の重みに気をとられていたが、忘れがちな物を間違いなく置き忘れた、ではどこに、行動が読めるから目星はつく、ただ、入店直後に行けないだろう、それが頭を固まらせる迷いだった。


コーヒーを飲んでいて、隣に汗臭い人がくると、いやなものだ、それがまた軽口でうるさいことを話す若い男なら、なおさらいやなものだ、とはいえ、体臭と香水を間違える鼻だから、もしかしたら爽やかなコロンかもしれない、昼食後の一時、ほのかに神経が立っているから、敏感なだけだろう。


慣れが人通りを埋めるのだろう、もう何ヶ月になるだろうか、口を塞がずに一人安心して店を出入りしていたのに、数人の発見でいまさら顔を隠したくなる、怯える時に平気でいて、普通の時に異常を感じる、ただ、世間の反対を選びたいだけか。


口のマスクが目を輝かせる、近頃慣れた顔のファッションはパーツの質をアップさせると思っていたら、全体の底上げらしい、素が良いと効果は強力になり、優れて見える姿態に目は火が走る、ついつい振り返って、不作法に感心することとなった。


昼の朗読はいつから止まっているか、開いた窓の近所迷惑な声音で狂気の沙汰を演じる、今は声が出るか、昨日の小説は途中で喉が弱ってしまった、たった二日の休日で動きは鈍るから、すべてはいかに衰えやすいかと、今日の雨に今日も職場に塞がれる。


仰仰しいまでの形容ではあるが、真を突き、どれほど後世を遠望していたか、本人さえ名を残す偉大な音楽家同士の交流を、実際の心として感じる良本の終わりに見て、今の時勢をどう思うだろう、不滅の音楽を開く機会は失われているが、隙を狙って放たれると、どれほどの光に照らされるか気づくのだ。


多産と寡作、どちらが良いのか考えてしまうマンネリだ、そもそも自身の性格によって必然と現れるだけであろうものを、選べると思うことが間違っているのだろう、ハイドンピカソ、浮かべる見本と比べることが、はなはだおかしいことなのだ。


香の箱に何を垂らすか、臭いが気になってたまらない春夏秋冬に、湿気と気温で体には二種類が選ばれる、口はやはり陶酔させる酒を入れて、いつも鼻は煩悶している、ミントやユーカリ、花の馥郁でもいいが、ついつい常駐するように木の安らぎを求める。


朝の呼びかけにどうにか腕をあげるくらいで、多くの語りかけに無反応だったらしい、それでわずかに記憶しているのは、やたら振る手が重たかったこと、それは目覚めにそのまま伝わり、冴えない一日の始まりを予告していた、やはり睡眠時間なのだと、連休の癒しが疲労させていた。


生ぬるい風であっても、雨よりましと思う梅雨の時候だ、もはや果実に合わない雨量に加えて、ニュースは最近を繰り返す、古代らしい書物に悪疫という文字があり、いまさらその意味を知るほど、変わらない世界にいることを実感する。


突いてくる話はどれも的中している、それに合わせて心に伝わってくる、今のタイミングだからこそ、なんて思ってしまうほどの毎日の煩瑣ではあるが、優れた人を見る目に、人との交流の大きさを知る、ただすこし度が過ぎたようで、対価が宵越しにのしかかっている。


身の毛のよだつように寒さがある、はて、暑いのか涼しいのか、酒の飲み過ぎでこうも体は変調するものか、まるで咎人を運ぶ姿を見ながら、両手で車を押しておかしがっていたが、痺れて皮膚を走る、それでも良かったと、一時の談笑を思い出す。


生命の存在は苦悩にあり、高度に達するほどその度合いは増していく、なんて知れば、プラシボ効果でも得ようか、それほど悩み苦しんだことがないことを、受け身の性格はポジティブにとるだろう、今日は天気が良く、昨日に比べて体が軽い。


右耳の聴こえは、耳鼻科、ヘルペスらしき脳の違和感は、皮膚科、針一本が忍び込んだように頭に不具合が刺さり、有刺鉄線のごとく頭脳を邪魔している、二年前もこんなことがあったか、なら早く治れと、苛立ちが突き通る。


数日振りではない、数週間振りという文章への意欲だろう、量だけで確認すれば、決してさぼっているわけではない、それでも質がどうしてもありきたりで、何も工夫がないように思える、これで満足すべきか、体調に文句を言いながら、文体を続けていく他はないだろう。


三週間くらい雨は続いていたのか、今年は梅雨が長いと聞くように、たしかに終わらない気がする、平年を少し過ぎてあけるみたいだが、入るのはどうだったか、長さよりも量が人をくたびれさせる、それに合わせて人間関係のストレスも、たまりにたまっているようだ。

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