第36話
表情に目を向けていたことを書き忘れ、まあいいかと思っていたら、ラジオで権威が顔の質について言及していた、そう聞くと、気づいていながら取りこぼしたようで、追記したくなる、そもそも評価がこのうえなく高かったから、同等の感想を持てたことに満足して、ただ自信を深めればいい。
自分自身で気づかぬうちにしていることを、他人に気づく、第一の標本で、赤ん坊から老人まで、いつまでも長短の癖を知らせてくれる、誇示する大声と愛嬌に、無駄口な長話などだ、気をつけようと思いながらついついしてしまうからこそ、この周りを納得しなければならないが、やはり変わらない。
数分前にはなかった、事務所前の黒いわななき、指で摘んで見れば、ゴーグル、グーグルでユースフル、多くのゼロ持つ言葉のようで、目を覆うレンズがその形に類比するようだ、陸上では曇り、水の中で鮮明となる、こんな雨の日にわざわざ、一体どちらの視点で、何を検索するというのか。
あとへあとへ延びていく、すでにやんでいるはずなのに、夕刻の休憩のあとに外を見ると、かすれて降っている、夜の食事へ自転車を用意したのは、昼から濡れ続けている、退勤後には晴れやかに向かうつもりだが、果たしてどうなるかという雨足だ。
たしかに少なくない量だった、それでも多くとはいわない、酔い心地が強いだけで、頭や腹の戻しにはこなかったが、今朝はやけに眠い、そして、だるい、これも二日酔いかと考え、塩味のフォカッチャをかじり、パンの効力を思い知る。
ゴーグルはいまだ塀にかかっている、狂暴に剥かれる前の涼しさは、街にいながら森を味わう空気の旨さがある、一時湿気は忘れ去られて、輝かしさがよみがえったようだ、持ち主はいつ気がつくだろう、雨の日ではなく、今日のような日にする眼鏡だ。
ラジオでエコについてのコマーシャルがある、バッグ、ひいき、その落差は異常なほどだ、ただ、根底にあるのは物への優しさだ、などと思えば無理があるだろう、地球環境ではなく、あるのは常に人の生活だ、一つの甘やかしにその家庭と子育てまで考えてしまうから、実にいやなものだ。
午後一番の無気力は消化に向かっていたから、こなした今は口まわりがヘルペスでうずいているものの、わりとはっきりしている、合間に他のレビューを読んでいる、いかに説明に頼って感想を得ているかがよくわかる、独自の解釈とはほど遠い、しかと事物を観なければ。
天気と体調を常にぼやき材としている、水が降り、調子は悪くない、この先も同じだろう、それでも、こんな粒の雨の中にわざわざ届けてくれるだけでなく、男前の笑顔をみせてもらったら、良い意味でつぶやきたくなる、もう少し他人と関われたなら、などと愚痴るのも、きっと変わっていかないだろう。
天気を受け入れましょう、なんて教養をつける冊子に書いてある、そうやすやすとはいかない、ベージュのカーテンに盛りあがるモンステラのシルエットを見ながら、ふと思う、怪物か、うちわにちょうど良い葉の大きさだが、隙間があるからすかすかか、今日も朝から雨が降っている。
普通と普通ではない、どちらを好むかと自身の性質を考えてしまう談話を耳にする、前振りなく突然発せられる言葉は、内の世界からひょっこり飛び出す意外な形であって、理路をはめるには、どうしても想像力が必要とされる、急に出現する小動物を、どうしたって嫌いになれない。
神通力といえば抹香臭く、テレパシーといえば科学的だろうか、家ではそうではないのに、決まったようにくしゃみの出ることがあれば、若い魔法と汚れた中年の妄想にすぎないだろう、雨が降りやまない、屋内はこうも違うのか。
雨垂れのカーテンができている、そんな風にキャノピーの下に立っていれば、頭の変わった気取りだろうか、雨音があまりに多く、ぼんやり空は明るくなったようでも、なんて数だろうか、次から次ではなく永続に、身の毛がよだつ大雨だ。
エビマヨ弁当を前にして考える、さあどうしようか、連日の雨が昼の帰宅を阻み、映画や食についての体験が余っているなら、それを頭から文へと移すだろう、さてどうしよう、こんな時の決まり文句は行動的で、仮に何もしなくても、それでいい気がする。
知った顔のようなメキシコ人に今日もすれ違い、うしろでオラオラと挨拶が大声で響く、連呼できる親しみやすい音節だ、ところが返事となると、生まれ育っていないこの土地では、はいはいはいはいとなる、これも軽さだろうが、遠いしつけが自分にいまだ残っている。
コンビニのティラミスは、まるでアワビのようだ、黒っぽい体色に皺があり、ぷるぷる長い襞がある、もっちりした生地の食感は程度が異なれど、なぜか似ている気がする、白と黒のクリームが中から漏れて、口の中でゼリーのように混ざり合う、どこでも並ぶ大量生産だから、やはり貝のようだ。
短冊に願いを飾る今日は、川が落ちたと多くの人が思うだろう、想いが頭を垂れ、近くも遠い人に馳せる時に、知り合いの多さは多感にさせると気づく、あの漁船、あの農園、足を運んだことがないくせに、顔と動きが浮かんでしまう。
白米と炊飯器がやってくる、いや、米はない、数十台の新製品は物として不変であって、それらを介在する人同士に軋轢らしき誤作動が発する、火で炊いた飯は粒立っていた、あれは自然でその頃も、こんなやりとりは普遍にあっただろう。
のらりくらりと歩いて、平たいダンボールにつまづく、よろけて手をついたところは、食パンが入っている、みかんと同じ勉強台の箱が消えていて、わかっていてなくすのだから、悪く思う人がいるのだろう、まあいいか、鼻持ちならない人物として、やけにあくびが出る。
もはや心身がぼろぼろのようだ、疲れがたまって一つ一つの行動に歯ぎしりさえ感じるだけならまだしも、一生潜むウィルスが口まわりに登場して、脳を数日間占有しているようで、まえまえからそうかもしれないが、単語がすぐに出てこない、それでも仮眠の効能を試し、どうにか予定にすがりつく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます