第22話
雨と青に、みぞれを見紛う快晴の朝は、衣服の水滴もすぐはらう、どうも緩やかに始まっているようで、コンクリートを通って哄笑が楽しげに聞こえる、新しいパソコンの声も、なにやら散発らしい、地のほこりよりも、氷の香る冷たい空気だ。
急ぎ急いですますほどではなくても、やるべきことはある、それでも時間を盗んで文を書く、それが不機嫌な今日にようやく明かりを灯す、そんな、大便三度済ませるより短い中で、足取りは飛び上がる。
店長を手一杯に叩き続ける、数年振りの出現は、もちろん今の周囲にいる人物がこねくりまわされている、夢らしいそれでも、不思議と会話する仲だったと、今と比べる、そう、本が好きだったという接点が、ただ、あったからだ。
見るからに重そうな鉢植えを持って配達員は階段をあがろうとしている、すっと手を貸せばいいものを、鍵の開いた檻から出ずに眺めている、いい格好には一歩がいるのだろう、だから引いた者は、良い格好にはならない。
猫が二匹窓辺に、もはや神話の世界、ナイルの流れを汲む姿は、どちらも同じ向きに、白色のカーテンを背景に、顔をあげてのどを鳴らすのが聴こえてくる、春の幕開けを首を伸ばして待つように、太陽が一杯だ。
夢の中からモーニング、朝はゆとりがあるにしても、頼んでからすでに一時間半、何をたよりにはかったか知らないが、客は総入れ替わり、料理も違っている、味もぼやけて、伝票さえ顔に投げつけられる、すべてが損したようだから、気づいた時のぶり返し。
春風とゴルドベルク、家では鬱になりそうなんて言うけれど、シナモンがどこからか香って、ロールが口に結ばれるよう、三日前の牛のレバーが肝臓に響くようで、見えない痛みが腹にあるも、よいよい言いながら、ぼそぼそ動く。
空腹時に痛くなることは、昔に多かった、腰までくることは、昔はなかった、少しばかり改めてみようと、昨晩の赤白に飲まれたことを思う、黒いワンピースが少し出かけて、目の悪さは腕に籠をさげているよう、それが茶色の弁当だとしても、おそらく、変わらないか。
春風がよい心地にさせる、漢詩の気分を借りて真似ただけの偽物に、模倣者はめにつくという話が思い出された、ただの泥棒、とどまっても発展させても、どっちにしろ今は壁に貼られたカレンダーの静物を、ついつい破きたくなると言えば、ずいぶんヒステリーか。
天気予報と室内の肌合いだけで薄手を決める、開きかけたデンドロビウムの蕾を写真におさめるように、先がけとは呼ばない、早とちりだ、ランチに二つの店は閉まっており、入ったカフェはコンクリートに冷える、暖かさも本人が間違えれば、寒くなるだけだ。
空腹による腹立たしさは、八つ当たりを求める、銀行内のATMで、ふっと隣からタバコの臭いがする、見れば中年男性が短いのを手に持っていて、咄嗟に肩を叩き、見知らないのに馬鹿という言葉を吐いている、しかし、なんら間違っていない。
クスクスを食べながら、ベレー帽のパンばかりだった、なんて話があった、黒く膨らんだその被り物は目を隠し、ウィキッドのように口元ばかり見せる、年齢と性格が表れるようで、マスクがあったら何もなかっただろう、ふと顔をあげたその目は、シャルウィーダンスのように澄んでいた。
ランチで煙に巻かれる、看板通りの価格内は、客を燻製にさせる、そんなに寒くないから扉でも開ければ、と思う、ただ、臭いを気にした衣服は、これに耐えられる用意の通りだ。
公園を横切れば、足でこぐ自転車に、乳母車に飛びかかるよたよた足、三頭身のちびっこたちは豊かに動き、いくぶん小高いところではシャボン玉が飛んでいる、ここもいつかはスタジアムに、オリーブの木を買った催しの準備は、今年も仕切りで示されている。
柳の花に香る、夜の目は楠の葉を枯れたように見さす、橙の外灯は川面に揺れ動き、綿の垂れる枝垂れの裏を黒く染める、いかに外を知ろうとしなかったか、初めで懐かしさを覚える。
有名なファッション雑誌の編集長は、勇気という言葉を多用していた、それを全般にあてはめると、ずいぶんと動きは変わるものだ、この季節の色めいたストールをつい買うも、酔った判断で、いざつけてみると、怪しい、しかし新しい感覚を見据えてかけてみる、人に笑われてから、決めればいい。
大人一人がテーブルに座り、久久の緑茶をのんきにすする、すると大人三名子供一名が入ってきて、席がないので店を出ていく、湯飲みを手に持ちながら、視線だけであるはずのない場所を探す、早い者勝ちとはいえ、三人分以上を失ったようで、悪く思ってしまう。
えんじの革張りのソファーに座り、女の子はじゃんけんをえんえんと繰り返す、負けようがあいこであろうが、なんのおかまいもなく、父親は無言で手を変えるだけで、甘く小さな声の音頭に続く、運動なんかより、やりとり、それだけが水やりとして、彼女を健やかに生育させている。
お酒のお得な時間がある、まるで魔法の様と言っては、あまりにヒールの高い靴履く少女の様ではあるが、少しばかり酔い安い時間である事に違いはない、いつもと言うには偉そうではあるが、そんな店を回り、新しい所へも行く、そして覚えたての半額を買い、馴染もうとする店でおわる、休日らしい休日だ。
花が咲いた、感慨は湧かない、宣言が一体何をもたらすのだろう、ああ、咲いたか、ニュースが色と香りを移ろわすのではない、外は風が吹くから、人は集まるだろう、忘れては思い出す毎年の実感が、むくりむくりと高まっていく。
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