その2

 授業をこなし、あかねと一緒に所属している剣道部で練習した後、あかねと一緒に帰った。帰りに遠回りをしてスーパーで足りない食材を調達したが、こういう時もあかねはいつも付いてきてくれた。そして、いつものように薫子の家の前で分かれた。

 家に戻った薫子は夕食と明日の弁当の準備をして、帰ってきた姉と夕食を摂り、少し勉強をした後に風呂に入って、しばらくしたら寝るといったいつものサイクルをこなした。

 だが、今日はすぐに寝付けなかった。ベットに入った途端、瑠璃・遙華・恵那の三人の事が思い出されて、泣きそうになっていた。辛い事もたくさんあったが、三人といた事で楽しい事もたくさんあった。そう思うと無性に寂しかった。

 色んな事を思い出すたびに、薫子の睡眠は妨げられ、明け方近くまで眠れなかった。

「ルコ様、聞こえますか?」

 頭の中でマリー・ベルの声がした。

 ルコはいつの間にか眠っていたようだ。

「ええ、聞こえるわよ」

 ルコはマリー・ベルの声にそう答えた。だが、夢の中だと思われるところは光で溢れているだけで何もなかった。

「やっと、ルコが来たわね」

 恵那の明るい声が聞こえてきた。やっぱり夢だとルコは思った。

「恵那なの?恵那は無事に帰れたの?」

 無駄だと思ったがルコは恵那の声が聞こえたのでそう聞いてみた。

「ええ、あたしは無事に帰れたわよ。そして、異世界に飛ばされた日にやろうとした事、見聞を広めるための旅に出たわよ」

 恵那はルコの問いにそう答えてきた。ただし、姿は見えず声だけだった。

「おお、ルコ、主の方はどうなのじゃ?」

 今度は遙華の声が聞こえてきた。

「私も無事戻れたわ。いつもの日常が戻ったわよ。遙華の方はどうなの?」

 ルコは今度は遙華に聞いた。

「吾もちゃんと元の世界に戻ったのじゃ。そして、鍛冶修行をまた始めたのじゃ」

 遙華は楽しそうに話した。

「瑠璃は?瑠璃はどうしたの?」

 ルコは瑠璃の声が聞こえてこなかったのでちょっと焦った。

「大丈夫ですわ、ルコ様。妾も無事戻りましたわ。そして、母上と協力して父と兄の諍いを止めましたわ」

 瑠璃はいつものおっとりした口調でそう答えたが、言っている事は尋常ではなかった。

「え?何をしたの?」

 ルコは瑠璃がおっとりした口調で凄い事を言っていたのでびっくりした。

「二人を幽閉しました。二人が反省するまで、妾が国王として国を率いる事にしました」

 瑠璃はまたいつものおっとりした口調でそう答えた。

 それを聞いてルコは吹き出してしまった。思い切った行動だが、考えてみれば、瑠璃らしい行動かもしれなかった。流石だなとも思った。

「ところで、マリー・ベルの方は?」

 ルコは今度はもう一人の仲間の状況を聞いた。

「はい、現在、都市千代ちよに向けて走行中です。何の問題もございません」

 マリー・ベルはそう答えた。

 これで、気になる事は全て聞く事ができた。

「本当、みんな、無事に帰れて良かったわ」

 ルコは安堵した。

「そうじゃな」

「そうね」

「そうですね」

 他の三人も同様に安堵していたが、声が聞きづらくなっていた。今度こそ、本当の別れの時だった。

「みんな、ありがとう。そして、お元気で」

 ルコはそう言ったが、今度は答えがなかった。

 光に満ちあふれた空間だったが、話している時は三人と一人の気配がしていたが、今は全く人の気配がしていなかった。

 最後の言葉、届いているといいなと思った時に薫子の目が覚めた。

 目から一筋の涙がこぼれた。だが、悲しい夢ではなく、むしろ、楽しい夢だった。本当に夢だったのかもしれないが、薫子は最後に四人と話せた事は事実だと確信していた。

 薫子はベットから起き上がると、立ち上がってのびをした。そして、スマホを操作して今日の日付を確認した。

 11月2日、今日も新しい一日が始まる。

 薫子はパジャマの上を脱いだ。そして、ふと鏡を見た。そこには豊かな胸を持った完全な女の子がいた。

 あれ?私って、女の子のままなの?


                            めでたしめでたし

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ルコ 妄子《もうす》 @mousu

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