その5

 スパコンまでの旅程は海岸線に沿って行ったために直線距離では約260kmだったところが、300km超えたものとなった。ただ300kmだったので、走り続けていれば、そんなに日数は掛からないはずだったが、敵中を進んでいったために7日掛かってしまった。これは天候の影響も多分に受けていた。梅雨に入っているとは言え、意外に雨の時間帯が少なかった。そのため、猪人間達の活動が弱まる事はなかったため、慎重を期さなくてはならなかった。ただ、中島なかのしまの猪人間は北島きたのしまの猪人間とは違って、活動範囲が広くはなかった。人数は遙かに多かったが、町や都市の中でも活動が主だったので、見つかる心配はあまりなかったと言える。また、放浪種の数もそれほど多くはないようだった。放浪種とのニアミスは2回ほどあったが、飛行型ドローンによって遙か先から察知できたので、戦いを回避できた。結局のところ、ルコ達は1回も戦闘をする事なく、スパコンの元に辿り着く事ができた。

「とりあえず、入り口に立てばいいのじゃな?まりぃ」

 遙華はルコと共にスパコンが入っている建物の入り口にいた。二人の周りには4台のドローンが待機していた。

「はい、仰るとおりです。人間と認識されれば、入り口の扉が開き、中へとは入れます」

 マリー・ベルは遙華の問いにそう答えた。

「なんか、嫌な言い方じゃな。入れなかったら吾らは人間じゃないみたいなのじゃ」

 遙華はちょっと嫌な顔をしていた。

 ルコと遙華は建物の入り口に近付いた。すると、問題なくドアが開き、中へとは入れた。そして、二人の後にドローン達がわらわらと続いた。ただし、中に入るとすぐに次のドアがあり、そこは閉まっていた。

 ルコは事前に知らされていたとおり、入り口付近でコンソールを見つけたので、

「マリー・ベル、パスワードを送ってくれる」

とマリー・ベルに要求した。

 すると、すぐにマリー・ベルから12桁のパスワードが送られてきたので、それに沿って、ルコは入力した。入力し終わると、認証完了のメッセージが表示され、2つ目のドアが開いた。

 ルコと遙華、そして、ドローン達は開いたドアを通り抜けて、細長い廊下を進んでいき、3つ目のドアの前に辿り着いた。そこで再びパスワードの入力を求められ、それを入力すると、3つ目のドアが開いた。

 ルコと遙華はゆっくりと中に入った。そこは薄暗かったが、端末室だった。二人の後を付いてきたドローンは部屋に入ると、一斉に散り、自分達の作業へと取り掛かっていった。

知羽しりぱの研究所と同じような感じなのじゃな」

 遙華は入り口のところで中を見渡しながらそう言った。

「そうね。基本的には同じようなものだからね」

 ルコはそう言うと踵を返して、歩き始めた。

「もう戻るのじゃな?」

 遙華は慌ててルコの後を追った。

「マリー・ベルの話だと、起動に1日掛かるそうだから私達がここにいてもやる事ないしね」

 ルコは遙華の問いにそう答えた。

 遙華の方は後ろ髪を引かれる思いだったのか、後ろを何度も振り返っていた。

「起動すれば、明かりも点くでしょうからその時にたっぷりと見学できるわよ」

「そうじゃな」

 遙華はルコにそう言われて、嬉しそうな顔をした。そして、

「にしてもじゃ。なんか暑いのじゃ。こう、なんて言うか……」

と今度は不快な顔になっていて、表現に困っていた。

「蒸し暑いって事?」

「そう、まさに蒸し暑いって事じゃな」

 遙華は今の状況にピッタリの言葉を知った。

 ルコはまだ平気だったが、北に住んでいた遙華にとっては暑く感じるのだろうと思った。そして、この事を知られたら恵那にからかわれるんだろうなと思った。

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