その2
衣替えが終わり、その日の昼過ぎに、ルコ達は長老とその護衛と共に、3台の車両を連ねて、南の空港都市に入っていた。ルコ達は無論南にあるスパコンへの出発準備のためで、長老はその見送りに来ていた。ただし、長老はそれだけではなかった事を都市に着いてから知った。
ルコ達が着くと、誘導路にルコ達が乗ってきた飛行機が駐機しており、後部ハッチから車が2台搬入されていていた。そして、飛行機の前では男女16人が整列していた。飛行機に乗り込む人達だろう。
長老の車はそのまま飛行機のそばへと近付いていったが、ルコ達の車はその後方で止まった。
長老は飛行機の前で車を降りると、整列している人達に歩み寄り、一人一人握手をして激励しているようだった。
「なんじゃ、吾らの方はついでなのじゃな……」
遙華は激励の様子を見ながら何とも言えない感情を吐露したように言った。別に怒っている訳でも呆れている訳でもなく、驚いているという訳でもない複雑な気持ちだった。それは他の三人も同様だった。
長老の激励中に飛行機の後部ハッチが閉まり、激励が終わると共に、16人は次々と飛行機へと乗り込んでいった。そして、タラップが上がると、飛行機はゆっくりと誘導路を進み始めた。
飛行機は誘導路の端まで行くと、コーナーを回り、滑走路へと向かった。滑走路に着くとぐるりと回って機首を滑走側に向けて一時停止した。
「これから飛び立つの?」
恵那はちょっとドキドキしながら飛行機に目線を送っていた。
「そのようじゃな」
遙華はわくわくしながら飛行機に目線を送っていた。
後方の席から聞こえる二人の言葉にルコはどうしてそんな事を言うのかちょっと不思議に思ったが、隣の瑠璃がじっと祈るように飛行機を見詰めていたので、ハッととした。
飛行機はルコがまさにハッとした時に滑走を始めた。
「動き出したのじゃ」
遙華が感動の声を上げると間もなく、飛行機はふわっと浮き上がるように飛び上がった。すると、
「おおっ!」
というような歓声がルコ以外の三人から上がった。
「飛びましたわね」
「うん、飛んだ」
「飛んだのじゃ」
三人はに興奮したように口々にそう言った。
それを見たルコは、そうよね、飛行機が飛び立ったのを初めて見たのだからそうなるわよねと思った。三人は飛行機が飛ぶ姿を見るより先に飛行機で飛んできたという体験をした希有な存在だと言う事にルコはこの時初めて気が付いた。
「飛んだところを初めて見たのじゃが、本当に凄いのじゃ」
遙華は興奮冷めやらぬといった様子だった。
まあ、ともかく飛行機が飛んだ事でわだかまりみたいなものも飛び去ったようで良かったとルコは感じていた。
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