その2
その後の数日間は最も寒い時期だったが、それを過ぎると徐々にだが気温が上がっていった。そして、約1ヶ月後、雪解けがだいぶ進み、ルコ達がちょうど出発の準備を終え、明日にでも出発しようとした夕刻近くに事件が起きた。
「西門約10kmに車両を4台発見、猪人間の追尾を受けているようです」
ルコ達が最終確認作業をちょうど終えて、作業区画に集まった所に、マリー・ベルから急報がもたらされた。
「最悪じゃな」
遙華は吐き捨てるように言った。他の三人も同じ気持ちだった。
「ルコさん達はそこで待機して下さい」
寛菜からそう連絡が入った。
ルコ達は出発の準備で昨日から北門から中央へと移っていた。
「寛菜さん、何か手伝える事は?」
ルコは寛菜にそう言った。
「大丈夫です。ルコさん達は出発に備えて下さい」
寛菜はそう答えた。おそらく西門に向かったと思われる。
「出発に備えろと言われてももう準備は終了したのじゃが……」
遙華は辺りを見渡しながらそう呟くように言った。
「マリー・ベル、周辺の猪人間の村に変わりはない?」
ルコはふと嫌な感覚に襲われたのでそう聞いた。
「変わりと言えば、猪人間が外に出ている数が多いと推察されます」
「それは5つすべての村に言える事?」
「はい、仰る通りです」
「奴ら、今年最初の斥候部隊を出そうと意気込んでいるのじゃな」
遙華は忌々しそうにそう言った。その言葉は四人の共通認識だった。嫌な予感がした。
「みんな、戦闘準備よ」
ルコがそう言うと、四人は自分のケースの上からヘルメットを取って被ると、ケースから銃が入っているホルスターを取り出すと、腰に付け、防刃ベストを着用した。
「マリー・ベル、周辺地図を出して」
ルコはちゃぶ台の前に座りながらそう言った。
それを見て、他の三人もちゃぶ台を取り囲むように座った。
ちゃぶ台に周辺地図が表示された。青丸で逃走車、赤丸で猪人間の現在位置が表示されていた。
西から西門への最短ルートは川沿いの道だった。その道は山間を流れる川の蛇行に沿うようにくねっているが、一本で西門に続いていた。ただ問題だったのはその傍に村29があり、その道を使う以上村を避ける事は絶対に無理だった。もしこの村を避ける場合は西門以外の門を使わなくてはならないので、大変な大回りになってしまう。現在の状況でそう言った余裕があるとは思えなかった。
実際、逃走車は今最後の分岐を通過し、最短ルートで西門へと向かていた。
「このままじゃと非常にまずい事になるのじゃ」
遙華は逃亡車の向かう先の村29を見ながら言った。
「悪い事は重なるものなのね」
恵那はやれやれと言った感じでそう言った。
雪解けが進んでいたので道にはほとんど雪がなく、車は通常通りの移動が可能だったので、十数分後には四人が懸念していた通りの事になった。
「4台の車は村29の猪人間と追撃の放浪種によって完全に包囲されたと推察されます」
マリー・ベルが現状を報告してきた。
現状は地図を見れば明らかなのだが、次の手を繰り出せなかった。ルコ達には主体的に動く権限がなかったからだ。非常にまどろっこしい状況だった。
「寛奈さん、他の村の動きが活発化しています。この包囲戦に触発されて、都市に攻め込んでくる可能性が高いです」
ルコは寛菜にそう言った。まずは混乱を避けるための手順を踏んだ格好だ。
「分かりました。全部隊に持ち場へ向かうように指示します。ルコさんは東門へ向かって下さい」
寛菜はルコの進言にそう対応した。
一瞬、その言葉にルコは何か言おうとしたが、言葉を飲みんで、
「分かりました。東門へ向かいます」
と寛菜の指示に従う事にした。
「助かります」
寛菜はそう短く言うと通信を終えた。
「ルコ、いいのじゃろうか?寛菜は吾らに気を使っているのじゃろ?」
遙華は申し訳なさそうにそう言った。
ルコ達を東門へ向かわせた意図は万が一の時はそこから逃がすためだった。万が一ではなくほぼ確実なのだが。
「東門へ向かいましょう」
ルコは遙華の問いには答えられずにそう言った。
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