その3
都市
都市内に入った事でルコ達四人は安心していたが、万が一に備えて前部の狭間の前に一列に並んで立っていた。左から恵那、遙華、瑠璃、ルコの順だった。無論、この順番は妙な雰囲気になっていたため、これ以上の悪化を避けるために遙華と瑠璃が配慮した結果だった。
都市に入ると中心部に幹線道路を塞ぐように横一列に4台の装甲車、そして、その後ろに2台の装甲車が並んでいた。
「歓迎されているのじゃろうか?」
遙華はその様子を見てどう考えていいか分からないという様子だった。
無線で呼びかけても応答がないので、拡声器で呼びかけてみた。だが、両方とも反応はなく、とても静かだった。
車は歩く速度でゆっくりと車両群に近付いていったが、反応がなかった。このまま進んでいいのかという疑問が湧いてきた。
そして、距離50mまで近付いても反応がないので一旦止まった。
すると、前の4台の装甲車が道を開けるような動きをした。
ルコ達四人はだれもが受け入れてくれると思った瞬間、
「左側面に光学擬態しているものがあります」
とマリー・ベルが不審情報をもたらした。
それと同時に爆発音と共にルコ達の車体が揺れ、車内に風が吹き抜けた。攻撃を受けたのだった。
飛ばされるほどの爆風ではなかったが、それなりに強いものだったのでルコと瑠璃は両腕で風を遮るような形でその風を耐えた。ただ、風が過ぎ去ったあとの光景は二人の心臓を抉るものだった。
車体正面左の装甲に穴が空いているだけではなく、遙華と恵那が倒れていた。
「想定案3を実行します」
マリー・ベルは予め用意されていた退避行動を開始した。これは万が一、指揮系統が混乱した時に備えての事だった。今回は完全に混乱状況に陥っており、誰も退避行動を指示できない状況だった。今回はその準備が功を奏しおり、マリー・ベルは予め決められた通りに、車を東に進めて都市から離れようとしていた。
「遙華!恵那!」
「遙華様!恵那様!」
ルコと瑠璃はと口々に叫んで二人に駆け寄った。
瑠璃はすぐ隣の遙華を助けおこして、
「遙華様、大丈夫ですか?」
と聞いた。
「大丈夫じゃ。ちょっと転んだだけじゃ。イタタタ……」
遙華はそう言いながら顔をしかめていた。
「恵那、あなたは大丈夫なの?」
ルコは立ち上がろうとしない恵那の腕に手を掛けた。が、その瞬間、何か濡れたものを触ってしまい、ゾッとする感触が全身を駆け巡った。
「ごめん、ルコ、やられちゃった……」
恵那は苦しそうにルコに言った。
「どこが痛むのか分かる?」
ルコは一旦助け起こすのを止めて恵那に聞いた。
「ごめん、全身に力が入らなくて、痛いところもよく分からない……」
恵那は息も絶え絶えと言った感じだった。
ルコは恵那の上に乗っている瓦礫を振り払うと、急いで全身を調べた。
その横で瑠璃と遙華は心配そうに見ていた。
ルコは恵那の全身を調べると、どうやら怪我は右腕のみのようだった。それにしてもこんなに血が出るものなのだろうか?
「ごめん、ルコ……」
「何、さっきから謝っているの!そんな必要ないでしょ!」
ルコはそう叫んでいた。そして、恵那を抱きかかえようとした。
「痛た……」
恵那は痛みに顔を歪めた。
「ごめんね。でも、我慢して!」
ルコはそう言うと恵那を抱きかかえると、一目散に作業区画へと走った。
そして、走り去った二人を追うように、遙華に肩を貸した瑠璃がすぐに続いた。
四人が前部区画を出るとすぐに、
「前部区画を閉鎖します」
と言ってマリー・ベルは前部区画と寝室区画の境を閉鎖し、前部区画に出入りできないようにした。
車はバックの形で東進していた。幸いなことに何故だか分からないが追撃がなかった。しかし、四人にとっては今はそんな事を構っている余裕はなかった。
ルコが恵那を抱きかかえて、作業区画に入ると、そこで、車内のお手伝いドローン2台が台を組み立て終わったところだった。
「ルコ様、恵那様を診察台の上に寝かせて下さい。治療はそのドローン達が行います」
マリー・ベルの言われたとおり、ルコはヘルメットを脱がせて恵那を診療台に寝かせた。
2台のドローンはルコとは反対方向の右腕の方に行き、固まって作業を始めた。
一台が恵那のブレザーの上着とブラウスの袖を傷口まで切り始め、もう一台が酸素ボンベのマスクを恵那に被せた。
袖が切り終わると、2台で2方向から傷をスキャンし始めた。
そこに、遅れて瑠璃が遙華を支えながら作業区画に入ってきた。何やら切迫した雰囲気に二人は息を呑んで呆然と立ち尽くしていた。
「裂傷を確認。体組織も大分破壊されております」
マリー・ベルは喋れないドローンに代わってそう言った。
「そんなの分かっているわよ!早く治療しなさいよ!」
ルコは半狂乱になって怒鳴った。
「直ちに治療を開始します」
マリー・ベルはそう言ってドローンの通訳をしていた。
ドローン達はマリー・ベルが言い終わる前に治療を始めていた。
「そんなにルコが慌てる必要はないじゃない」
恵那はルコを見て苦しそうに笑った。
「恵那、がんばって!」
ルコは恵那の左手を両手で握りしめ、立膝になっていた。
「あ、でもなんか眠くなってきた……」
恵那の目がトローンとなっていた。
「恵那、しっかり!」
「最後になるかもしれないから言うけど、あの時の事、ごめんね」
恵那は苦しそうにそう言った。
「そんなの気にしていないわよ!」
「そう、ありがとう」
恵那の言葉にだんだん力がなくなってきていた。
「しっかりして!恵那」
「しっかりするのじゃ!」
「恵那様!」
ルコだけではなく、遙華も瑠璃も叫んでいた。
「みんな、今まで……ありがとう……」
恵那はそう言うと眠るように目を閉じた。
「恵那!」
ルコはそう叫んで恵那の体を揺らしたが、反応がなかった。
「まさか、死んだのか……」
「恵那様……」
遙華と瑠璃は力が抜けたようにその場にへたりこんだ。
「恵那!」
ルコはもう一度叫んで恵那の体を揺らした。
「ルコ様、治療の邪魔をしないでいただけますか?」
マリー・ベルはいつもの無機質な口調でルコを注意した。
「はい?」
三人はマリー・ベルの意外な言葉に耳を疑って思わずハモってしまった。
「恵那様は麻酔で意識を失ったたです。麻酔が切れれば、覚醒なさいます」
マリー・ベルは続けて説明を行った。
「大丈夫っていう事なのじゃろうか?」
遙華は状況が完全に飲み込めていないようだった。隣にいた瑠璃も遙華と同じような表情をしていた。
「えっと……そのようね」
ルコが二人の方に振り返ってバツが悪そうにそう答えると、三人の間に気まずい空気が流れた。
それからルコが視線を戻すと、向かいにいるドローンが作業ができずに右往左往している様子が目に入ってきて、ルコは慌てて恵那から離れた。ルコは更にバツが悪そうな表情になった。
ドローンは邪魔がなくなったとばかりに作業を再開した。
「なんじゃ、それ……イタタタ……」
遙華は力が抜けてへたりこんでいたが、恵那が無事だと分かると、急に痛みを訴えた。そして、
「吾は腰が痛いのじゃ。瑠璃、主、うつ伏せになるのをちと手伝ってほしいのじゃ」
と言うと、瑠璃の手を借りてうつ伏せになり、
「全く人騒がせじゃな、恵那は」
と言って遙華は呆れていた。
「全くね」
ルコはそう言いながら今度はルコがへたり込むように座り込んだ。
「そうですわね。全くですわ」
瑠璃はそう言ってルコの隣りに座った。
「遙華の方は大丈夫?頭を打ったりしていない?」
ルコは遙華の方を見て聞いた。
「ああ、大丈夫なのじゃ。びっくりして尻もちをついただけじゃ」
遙華はそう答えると、
「しっかし、恵那のやつ……」
と言うと笑いを堪えていた。
そんな遙華を見ていて、ルコは笑いそうになっていたが堪えていた。
だが、意外にも笑いを堪えられなかったのは瑠璃で、瑠璃が笑い始めるとルコと遙華も一斉に笑い出してしまった。
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