その2

 作戦会議後、作戦はすぐには始まらなかった。当たり前と言えば、当たり前なのだが、すぐに行動する事を宣言したルコは四人の中で小さくなって食事を取っていた。

「どうしたのですか?ルコ様」

 車両前部の座席のルコの左隣に据わっている瑠璃がルコの異変に気付いて聞いてきた。

「え、あのぁ、さっきすぐに作戦を行うって言ったのに、こんな事になってしまって……」

 ルコはモソモソと恥ずかしそうに言った。

 それを聞いた他の三人は一斉に笑い出したので、ルコは益々いたたまれなくなった。

「ルコ、これも作戦の一環でしょ」

 ルコの真後ろの座席に座っている恵那が笑顔でそう言った。

「そうなのじゃ。これからの戦いに備えて腹ごしらえするのは当然の事なのじゃ」

 遙華はそう言うと、ブロック状に焼かれた栄養補助食品を口に入れた。

「そうですわよ、ルコ様。だからそんなに小さくなってなくてもいいのですわ」

 瑠璃もそう擁護してくれたが、ルコはそれすらも何だか申し訳ない気がしていた。

 瑠璃・遙華・恵那の三人にとって、作戦の準備や開始のタイミングはとても重要な事だと身に沁みて分かっていた。だが、戦い慣れていないルコにとってはこういった時間はどうしていい分からずに、いつの間にか戦い前の緊張感を余計高める結果となっていた。

「しかし、猪人間達と初めて戦闘してみて分かったのじゃが、この自動車というものに乗っていなかったらあっという間にやられていたのじゃ」

 遙華はそう言いながら辺りを確かめるようにゆっくりと見渡していた。

「そうですわね。あの動き、早さ、そして、力強さ。全ての面で1対1ではとても対抗できるものではありませんでしたわ」

 瑠璃も遙華の意見に賛成した。

「まりぃ、私達が着替え終わって外に出た時にはもう自動車が用意されていたけど、これって、私達みないな異世界人がこの世界に来た時に必ず用意してくれるものなの?」

 恵那は遙華と瑠璃の話からふと疑問に思ったことを素直に聞いてみた。

「はい、仰るとおりです。皆様がこちらに来ることはある程度予測可能ですので、それに合わせてお着替え等と共に用意させて頂きました」

 マリー・ベルはそう答えた。

 その答えを聞いたルコ以外の三人は感嘆していたが、ルコの方は話を聞いておらず、まだモソモソとしていた。今度は戦い前の緊張のせいだった。

 そんな雰囲気の中、三人の雑談を終わらせるように、マリー・ベルは、

「それぞれの村から斥候が出発した模様です」

と突然四人にそう報告してきた。

 都市には、備え付けられている監視カメラや各種センサーで都市内外を監視するシステムが構築されていた。そのシステムを使って4つの村の現在の様子をマリー・ベルはつぶさにチェックしており、その結果を今報告してきたのだった。

 村の区別をするために、北東側から反時計回り順に1番から5番まで番号を付けた。今回カギを握るのが村4の動きで、最後突破しなくてはならないのは村5だった。ただ残念なのは村5は他の4つの村より都市から離れた地点にあり、また、深い森林の中にあるため、監視がほぼ不可能だったので動きが読みづらかった。

 都市に一番近いのは村1だが、昼間の戦闘現場に一番近いのはカギを握る村の一つである村4だった。

 村1~4からそれぞれ斥候が出発したが、都市に入るまではまだ時間が掛かった。村5に関する情報はやはり入ってこなかった。

 斥候の位置は前方の画面に映っている周辺地図上にリアルタイムで表示されていたので、四人はそれをじっと見ていた。そして、残ったブロック食品を黙々と食べながら次の動きを待った。

「村4の斥候、引き返して行きます」

 マリー・ベルからそう次の報告が入った。

 どうやら都市内の異変に気付いたようだった。

 前の報告からほんの十数分後の事だったが、ルコにとって十分長い時間だった。それに比べて、他の三人は落ち着いて見えた。

 だが、作戦の開始はまだ先だった。まだ村4の侵攻部隊が動いていないからだ。

 ルコはジリジリするように、食事を終えてその時をじっと待っていた。

 その間に、他の村の斥候も異変を察知したようで引き返していった。

「村4に動きがあります。侵攻部隊が出撃している模様です」

 待ちに待って約1時間以上経ってからマリー・ベルからそう報告があった。

 報告を聞いたルコはこれまで緊張していたせいか、ホッとしてしまった。

「さて、いよいよじゃな」

 遙華がそう言うと、他の三人は今までの他愛のない雑談を切り上げ、逆にスイッチが入ったように戦闘状態に入った顔をした。

 ルコはそんな三人を見て自分が急に恥ずかしくなった。

「大丈夫ですわ、ルコ様。戦いはこれからですから」

 瑠璃はルコの気持ちを察してそう声を掛けた。

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