210.夜の列車で

 

「レナ、君は仲間外れにされたのかい?」


 俺は一人ポツンと座っているレナに、もしやと思いそう問いかけていた。


「あ!陛下、いえ、そのようなことではありませんよ……お仕事はもう済んだのですか?」

「ああ、さっき終わったよ、レナは終わるまで待っていてくれたの?」

「ええ、女王陛下に「この時間になったら、きっとやってくると思うから待っててあげて」といわれまして」


 レナはメリアの言いつけを守り、俺が来るまで食事をせず健気に待っていたというのだ。


(なんていい娘なんだこの娘は)


「そ、そうだったのか、お待たせしてごめんね、さ、食べよっか?」

「はい!」


 するとレナは、慣れた手つきでおいてあった醤油を小鉢に入れ、箸を使って寿司を食べ始めた。

 メリア達も食べることが想定されていたのか、好き嫌いが分かれるわさびは抜かれていたようだ。

 レナもわさびが余り好きではないらしく、そのまま醤油をつけて食べていた。


「おいしい?」

「はい!とっても」

「それはよかった!にしても箸の持ち方綺麗だね!」

「え、あ、はい!」


 机の上には湯呑とお茶の粉末が入った小瓶と保温ポットに入ったお湯もあったので、お茶を飲むことにした。


「お茶は飲む?」

「あ、いえ、私が入れますよ」

「いや、いいよ、食べな」

「ありがとうございます」


 よく見るとよっぽどうれしいのか尻尾がゆらゆらと動いていた。


 そんな美味しそうに食べるレナについつい見とれてしまったが、俺も食べることにした。

 俺の場合小さいころからわさびをつけて食べていたほど好きだったので、醤油にたっぷり溶かして食べることにした。


「そういえばレナは俺と同じ世界から転生してきたんだって?」

「え?知ってたんですか?」

「メリアに聞いた、それに寿司の食べ方を見て確信したよ、他の娘とだとあんまり前の世界のことを触れられないからさ、でも聞いてて悲しくなるようだったらここでやめるよ?」

「いえ、実は前からこういう話がしたかったんです」


 それからしばらく、レナとは元居た世界での話に花を咲かせた。

 どうやらレナは俺と高校が一緒だったようで、特殊なつくりの校内の話しや名物先生の話で盛り上がった。

 さらに、サバゲの趣味も一緒だったので、話が尽きることを知らない。


 

「そういえば、元の世界に戻りたいって思わないの?」


 俺は依然から気になっていたことをレナに聞いていた。


「いえ、もうあちらの世界に戻らなくても、こうやってワタさんの隣にいることがすごく幸せなんです」

「ホントに!それは嬉しいよ……こっちの世界はもう慣れた?」

「はい、もうだいぶ……最初は訳が分からなかったですけど」

「そうだよな、尻尾と耳がついてたら驚くどころの話じゃないよな、俺だったら発狂するな、ハハッ、あっちだと二次元の世界以外でそんな話あり得ないもんな!」

「ハハハッ、確かにそうですね!」

「それと、ここまで来るのに本当によく頑張ったね、カルロゼでも活躍も見事だったよ」

「ありがとうございます」


 思い起こしてみればこれまでにレナは、メランオピス隊隊長として、そしてコンダート王国軍初の特殊部隊として重要な役割を果たしてきていた。


「しかし、こうやって新幹線に乗っていると不思議とあっちに戻った気がしてならないよ」

「私もそう思います、やっぱりこうしているとあちらが恋しくなりますね……」

 今まで自分たちは元居た世界で日常に近かった新幹線に乗っていたが、この世界で乗っていると違和感がある。

 そして、新幹線に乗っている既視感があたかも元の世界に戻ったかのような錯覚を覚えていた


 話に夢中になっていると、気づけば寿司を食べ終わっていた。

「さて、そろそろ寝るか?明日も朝早いだろうし」

「そうですね、では私は別の車両に置いてきた自分の荷物をとってきますので、ここで一旦失礼いたします」

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