203.後宮へ


 駅前での騒動の後身の危険を覚えた俺とメリアは、本来であればアルダート駅見学後コンダート王国国有鉄道本社に行く予定だったが、急遽変更し安全な王城へ向かうことにした。


 アルダート城警備部隊は本来近衛軍団の任務だが、今はまだ作戦行動中なのですべてで払ってしまっている、その代わりにアルダート城外周や城門、中庭通路等隅々に第一憲兵師団第一一連隊が警備を担当しておりそれに加え、大臣や主要幹部一人一人には同師団の第一二連隊所属兵士が常時警備についている。


 城門前までは防弾仕様(12.7㎜まで耐えられる)の黒塗りのキャデラックに乗り、王城に着くとすぐに憲兵が駆け寄りたちまち人の壁と道が出来上がり、そのまま俺たちはまっすぐ王の執務室ではなく後宮に向かっていった。


 後宮に真っ先に向かったのは、後宮の方が警備上さらに厳重な警備が敷かれている場所だからだ。


 というのも、後宮の建物周辺その複数ある出入口の外側では内務省所属の後宮警備隊が警備しており、これとは別に後宮内部には後宮管理局武装警備隊(通称:ヴァルキュリア)2個連隊が警備しているためだ。


 後宮の大広間には、コーヒーを飲みながら大量の資料をファイルでまとめている首相のエムリア・ユリアとそれを手伝うシルヴィアとキューレ、メイドたちがいた。


 「あら、ワタ陛下、それにメリア陛下、もうおいでになったんですね?」

「ご主人様!お久しぶりです!」 


 彼女たちは二人が夕方以降来ると思っていたので、その時間までにユリアはたまっていた公務を終わらせてしまおうと、メイドや最近後宮のお留守番役として来ていたシルヴィアとキューレに手伝わせていたのだ。


 「ああ、まぁ色々とあってな」

 「ユリアは何も聞いていないの?」

 「何のことでしょうか?」

 「まあいいさ、それよりシルヴィアとキューレ、久しぶりだな!!」

 「ご主人様~~!」「ワターーーー!!」


 シルヴィアとキューレは久々に会ったのもあってか、俺に走って向かって抱きついてきた。


 「ご主人様、お会いしたかったです」「私もーー!!」

 「お、おう、よしよし」


 俺の背中と胸には2人の双丘があたり何ともけしからんことになっていた。


 (うん、マジで最高!……おっと、My sonが反応し始めてもうた)

 「ワタ?そんなにいいの?……」


 メリアはいまだに二人に抱きつかれていることに嫉妬しているのか、満面の笑みでこちらを見ていた。

 (oh、メリアさんおこですね、どうしよう、HELP!)


 「じゃあ、私も!」


 次の瞬間メリアは怒るどころか空いていた右腕に抱きついてきた!


 「oh my goodness!」


 おかげでほとんど身動きが取れなくなってきていた。

 そんな俺の左腕にも気付けばさらなる柔らかい感触が加わった。


 「ちょ、ま、ユリアさん!」

 「……」


 なんとそこには、こっそりと近づいてきて気づかなかったがユリアまでが恥ずかしそうに抱きついてきていた。

 (なにこの状況?)

 ワタは全方向から抱きつかれ、まるで間違えて混雑時の女性車両に迷い込んで捕まった男性のようになってしまった。


 「ねぇ、ワタ夢のようでしょう?誰のが一番好みですか?」

 「は、謀ったな!キューレ!」

 「エへへッ、さぁなんのことでしょう?」


 「ワタ様♪いらっしゃいますか~?……あ、いタァ?」

 「な、なんということに……」

 「あちゃ~」


 完全に身動きが取れず困り果てていると、何やら入口から何人かが後宮に入って来たようだ。


 「その声は……ベル?ステラ?とローザ?」

(となると不味いぞ、非常に不味い)


 そこにはベルとステラやローザ、他にはレナ、リレイ、セレナがいた。

 遠くの方でヘリのプロペラの音が鳴っているので、どうやら彼女たちは俺たちの後を追ってヘリでカルロゼから帰って来たのだろう。

 

 ただ、俺はそんなことよりも気になってるのは今すでに黒い瘴気を放ち始めたベルのことだ。


 「ワタさまぁ?うフふ、たのシそうデスネ?」

 「ま、まて、落ち着くんだベルさん、これは、だな」

 ガッチャ!


 「ワタ様カらハナレなさぁイ」


 すっかり真っ黒な瘴気を身にまとい黒く染まった翼を大きく広げたベルは、肩にかけていたHK416A6のチャージングハンドルを引きそのままこちらに向けてきていた。

 するとそれを見たメリアは、俺から離れまっすぐベルに向かった。


 「あら、ベル、ワタの幸せな時間をあなたは邪魔するわけ?しかも私にまでその矛先を向けるのかしら?」

「いえ、そ、その」

「それと、ここは後宮よ!ここでは皆等しくワタに愛される場所なのよ!」

 「あの、その」


 メリアのこの言葉に、流石にベルは言い返すこともできず、先ほどまでの態度とは打って変わってものすごく大人しくなっていた。


 俺はそれを見ていてベルがかわいそうに思えたので、くっついていた3人を優しく諭し離れさせ、ベルに近づき抱きしめてあげた。


 「ベルここでは大人しくしてね?じゃないと一緒にいられないよ?」(言っておいてなんだけど俺気持ち悪!)

 「ワタ様ぁ、はい、ベル大人しくしてます」(やっと、やっと……ワタ様とご一緒できた……)

 「良し、いい子だ……ンムッ」


 恥ずかしそうにしながらもベルはワタに唐突にキスをしていた。


 メリアはそんな二人に少しだけ嫉妬した様子だったが、すぐに気を取り直し大広間にあったソファーに座り、まだ離れたことを名残惜しそうにしているイリアに大きめの声で声をかけた。


 「んんッ!さて、そろそろ本題に入りましょうか、イリア!」

 「は、はい!」

 

 メリアに声を掛けられ我に返ったイリアは、そそくさと元居た場所に戻りまとめてあった報告書を手に取った。

 それを見て入口付近に立っていた女性陣と俺は各々座れるところに座り始めた。


 「で、では、多方面から何点か上がってきているのでここでご報告させていただきます」


 

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