204.近況報告

 

「まず。はじめに国内情勢からお伝えします」

 ユリアは机の上からまとめ上げていた資料を拾い上げその場で立ち、みんなが座ったのを見届けた後話始めようとした。


 今まで俺はユリアの印象は接する時間が短かったのもありものすごく薄かった。

 しかし、改めてこう見てみるとユリアは色濃く映っていた。

 ユリアはエルフ族の中でも数少ないハイエルフ種で、目は青く透き通っており、その種の特徴である長く尖った耳、そしてその耳をさらに印象付けるような腰まで伸ばした絹のように透き通る金色の髪、体つきは全体的にスリムで胸はそれほど大きくなくDカップぐらいだろう。


「何、ジロジロみてんのよ」


 メリアはワタの下心満載でユリアを見ているのを、少し不機嫌気味に毒づいていた。


「いや、今までユリアを見ることがなかったもんだから、その、つい」


「や、やめてください」


 見られていた本人は、少し顔を赤らめもじもじと恥じらいながらもワタをちらちらと見ていた。


「いいから、続けて」


 そんな二人を見てイライラしたメリアは語気を強めユリアに話し始めるよう促した。


「は、はい、では」


 1.治安情勢

 治安情勢については発足したばかりの国家警察省から報告が上がってきていた。

 アルダート駅前で起きたような大きな事件は今回が始めてだが、地方では規模は小さいものの反乱が目立つようになってきた。

 反乱の原因は主に二つあり、一つは現代物に反対するもの(特に鉄道)、二つ目に現体制をよく思わない貴族が手勢を集めクーデターを起こそうとしている。

 ただ、このように目立ってきたというのは単に今まで捜査専門の役所ではなく軍の付属機関の衛視隊が行っていたので、今までもあったかもしれないものが明るみに出てきただけかもしれない。 

 これに対して内務省特別高等警察庁(反政府・反王制派取締、強制執行)やKCIA等が調査及び鎮圧をしているようだ。


 2.モンスター

 この戦争で不安定な状態のどさくさに紛れて最近モンスターダンジョンが複数出現(特に西部中央エテケス山周辺)していて、それが原因でモンスターが地上に出てしまい周辺住民に被害が出てしまっている。

 これに対して冒険者ギルドが総出で対処しようとしているが、冒険者に犠牲者が多く出てきているのが現状だ。

 軍上層部はモンスター対策の一環として、1個師団分の歩兵を投入することを決めたがこれでは動員数が足りないだろう。


「以上が国内での大きな動きです、治安維持についてはご報告したように法執行機関がしっかりと任務を全うしているので問題ないかと、しかし、モンスター対応については今後軍特殊部隊を出しての対応をこちらとしては検討しているところですが、軍上層部と折り合いがつかないのが現状です」


 ユリアはそこまで言い終わるとホッと一息つくために、机に置いてあったコーヒーを一口飲んでいた。

 ここで出しているコーヒーは俺が元居た世界で気に入っていたエチオピアの南部でとれたものを使っている、これはまるで巨峰のような甘い香りととろりとしたチョコレートのような口当たりが印象的なものだ。

 そんなコーヒーを俺もメイドに出してもらい、飲んでいた。


「そうか、それについては俺からも話しておこう」

「お願いします」


「首相には申し訳ないが特殊部隊を今すぐ出すのは難しいだろう、ただ、もう少しで王国内の帝国部隊を排除できる見通しなのでそれが落ち着けば出せるのではないか?」

 この話にまず疑問を投げかけたのはセレナだった。


「なぜ、近衛軍団を率いるあなたがそのようにおっしゃるのですか?この話は“軍”の動きについてなのですが?」

 ユリアからすれば近衛軍団は王直属のいわば私兵のようなものだと思っていたようだ。


「これについては、一応私も近衛軍団を統率する身でありながらも陸軍にも籍を置く人間なので、陸海軍両参謀総長から情報共有を受けているからであります」

「そうですか、それは失礼、しかし対応に苦慮されている中このように言うのもなんですが、国内でのこのような反乱でしたりモンスター対応にも追われ助けが必要だということも少しは理解していただきたい、大変恐縮ではありますが国王陛下は軍中心に物事を考えておられるようですが、軍は民あってのものです、何が言いたいのかといいますともう少し内政の方にも関与していただきたいとそう思っております」


「首相閣下!国家非常時だというのにまだそのようなことを!」


 その言葉を聞いたセレナは今まで自分たちが頑張って来たことを否定されたような気がしたのか、怒りが混じった声を出していた。

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