124.デスニア帝国海軍第一艦隊

 

 ところ変わって帝国海軍第一艦隊旗艦。

 第一艦隊には艦隊司令としてエルクベレ・ブルメ中将が座乗していた。


 デスニア帝国が誇る海軍は、全部で12の艦隊で編成され、帝国周辺海域から敵国の領海までを各艦隊が分担して担当している。

 編成は以下の通り。


 デスニア帝国海軍

 第一艦隊 王国全海域担当

 第二艦隊 帝国首都周辺海域担当

 第三艦隊 王国南部海域担当(王国海軍第一艦隊により“殲滅”よって欠番)

 第四艦隊 出雲国(いずものくに)西部海域担当

 第五艦隊 帝国東部海域担当(対テレン聖教皇国)

 第六艦隊 王国西部海域担当(エンペリア領海に一部艦艇派遣)

 第七艦隊 出雲国(いずものくに)東部海域担当

 第八艦隊 帝国西部海域担当(対エンペリア皇国)

 第九艦隊 練習艦隊(教育専門部隊 非常時は戦闘に参加)

 第一〇艦隊 王国東部海域担当

 第一一艦隊 外洋戦闘艦隊(北側の大陸に向けて出港中)

 第一二艦隊 外洋戦闘艦隊(南側の大陸に向けて出港中)


 以上の編成を見てわかるように、広範囲にわたって艦隊を派遣し、勢力拡大を図っているのがわかる。


 ちなみに第四・七艦隊が担当している海域は、コンダート王国から見て東方に位置する大陸にある国のことで、この国は長年周辺国家との貿易や国交を拒み続けてきた歴史があり、以前にコンダート王国やエンペリア王国から使節団を送っていたが、出雲国(いずものくに)の海軍によってその使節団の乗った船もろとも沈めることをするほど、出雲国(いずものくに)からする外国に対しては閉鎖的である。その行動に対してしびれを切らしたデスニア帝国は、コンダート王国侵攻作戦開始より1か月後に出雲国(いずものくに)に対しても侵攻を開始したのであった。



 そして、今、彼女が率いる第一艦隊は、第三艦隊の増援艦隊として上陸支援要員と“近接航空支援”要員を乗せてきているのだが、今やその目的が意味を成さなくなってしまっていた。


 というのは、キーレ沖海戦での全滅したはずであった第三艦隊の中に戦闘が始まってすぐに状況を不利と見た一番艦隊の中心から離れていた1隻だけは反転し生き残っていた。そして、その船は運よく第一艦隊と合流することができたので第三艦隊“消滅”の報が伝わったのである。


 その情報を知ったブルメは激しい怒りと悲しみに駆られていた。


 ブルメはエンペリア王国と国境を接する帝国エルクベレ公領で生まれ、幼いころから軍の幹部でもある両親の影響もあって武芸に打ち込みそのままの勢いで軍の士官学校に入った、卒業後は領土の大半が海に面しているので船とかかわることが多くあったので海軍に仕官し、元々の才能もあって順調に階級も上げていった。


 そんなブルメは士官学校入学中に出会った人と婚約を結んでいて、二人が同じ海軍の士官となって帝国がこの戦争に勝利したのちに結婚しようと誓いあっていた、その婚約者とはのちの第三艦隊司令を務めるオイレンベルガ・ジークフリートその人である。

 二人は士官学校内でも1、2を争うほどの美男美女でこの二人が付き合い始めたときは学園中が羨望の目で見ていたほどだ。


 ブルメは別名“青剣姫(せいけんき)”と呼ばれ、その名前となった理由は二つあり、一つは在学中では士官学校一の剣術に秀でいて、婚約者で全学年の男子学生一の武術を持つジークフリートでさえ勝てなかったほどの実力があるのが一つ、二つ目は青色の髪で、その髪型はロングヘアーを後ろにまとめポニーテールになっている、顔も整っており体型はすらっとしたしていて背も高くまるでモデルのようだが、前も後ろもぺったんこである。


 しかし、本人はこのことは気にはなっているものの剣を振るうときや体を激しく動かすことの多い彼女にとってはメリットの方が大きいようだ。


 二人は在学中、毎日のように二人で一緒に過ごしていた中であったが、卒業とともに各部隊に別々に配属されるようになると面と向かって会う時間が極端に少なくなり、最初は頻繁にしていた文通も忙しくなるにつれてなくなってしまっていた。


 しかし、そんな長らく会えなかった二人であったが、今回の作戦は運よく彼との共同作戦になっていたので仕事とはいえやっと会えると思ったブルメは、その話を聞いた時にまるで遠足に行く子供のような様子であったという。


 その第三艦隊が“消滅”の報を聞いて、その報告をしてきた艦長に対して問いただしはしたが、あまりにも信じられないことを言うので、はじめは何かの冗談だと思いあまり相手にしていなかった。それが現実として認識し始めるようになったのは偵察に向かったはずの竜騎兵隊が戻ってこなくなったあたりからである。


 それもそのはずで、今まで負けなしの竜騎兵隊が1日たっても戻ってこないのだからもしやと思うのも当然である。


 その状況になってから初めて、生き残りの艦長からの話をようやく聞き入れ事実として認め始めていた。


 竜騎兵隊全滅の報を聞いたのち、ブルメは第三艦隊の生き残りの艦長を中心にして第一艦隊所属の各艦長を旗艦に集め最後の作戦に向けて会議を行っていた。


「あの最強の第三艦隊がいとも簡単に弱小国家の船にやられるはずなど有り得ない……なぜなんだ?」


「エルクベレ閣下、お言葉ですが私が見たことは本当のことです。確かに敵の二隻の船には王国旗が翻っていました、そしてやつらはありえない距離からこちらに向かって正確な射撃をしてきました。しかも、我ら帝国軍が誇る竜騎兵隊もやられてしまった以上、もう我々には勝つことができないのかもしれません……」


「馬鹿者!貴様はそれでも帝国海軍人であろう?!それも……それも、あの人が生きていないかもしれないんだったらなおさら……。私のこの命、捨ててでも突貫し、刺し違えてでもやつを仕留めてやる、お前ら全員ついてこい、異存はないな?」


「「「我ら御身とともに!!!」」」


「ありがとう……コンダート王国のやつらにこちらがいかに素晴らしい軍隊かを見せてやろうじゃないか!夜のうちに敵艦隊にできるだけ近付き、早朝すぐに残存竜騎兵部隊は全機出撃開始!以上解散!」


 話が終わるとすぐに各艦長は手漕ぎボートで自身の艦へとすぐさま戻っていき、ブルメも自室へと足早に戻っていった。


 王国側はミハエルの情報をもとに帝国側の航空戦力を100機と見積もっていたが、実際は150機であった。なので100機を失った今でもまだ攻撃する余力が少しだけ残されていた。


 自室に戻ったブルメは、ジークフリートにもらったペンダントを両手で握りしめ一人窓向かっていた。

 (待っててね……ジークフリート……これから私もそっちに行くわ)


 こうして第一艦隊“最期”の作戦がひそかに始まった。

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