105.帰路へ


 「なぜだ!?弾が出ないだと!」

 「おやおや?ヴィアラさんどうやら弾が出ないようだが?もうこれで完全に戦えなくなったな?どうするこっちに来るか?それとも無理やり連れて行ってやろうか?」

 「クッ!それなら私もろとも陛下も殺せ!お前のもとに下るよりその方がいい……」

 「それでは俺がつまらんだろう?」


 「グフッ!ヴィア……ラ、す、すまない。ハーハー、でもまだ諦める、のは、早い、ガハッ!」


 俺は相当な傷を負ったらしくすでに息は吸いづらく、常に血の味が口の中に広がっていた。それでもまだ可能性が残っていたのでそれを相手に気づかれないように必死にヴィアラに訴えていた。

 

 「何を二人でコソコソしている!もう諦めろ!お望み通り陛下は殺してやる、ただしお前は俺とこい!今夜は楽しみだなぁ?な?」

 「死ぬのはお前だ!!!!」


 バンッ!バンッ!


 「ウッ!ガフッ!な、ぜだ?まだ……」


 ヴィアラは“俺の”VP9を引き抜き、撃った。

 またもやジークフリートは驚愕と痛みに顔が歪ませ、流石に二発も撃たれたのでそのショックで立っていられなくなったのか膝から崩れ落ち、そのままの状態で死んでいた。

 

 「ワタ様!やりましたよ!敵の大将を見事撃ちとりまし、た、よ?」

 「よくや……た」

 「いやぁぁぁぁー」

 

 俺は大量に血を流したせいなのか意識を失ってしまっていた。

 相手がまさか“銃”を持っていないだろうと過信しすぎていたので身に着けているものは海軍士官服のままで防弾チョッキをつけておらず、そのせいで大ダメージを受けてしまった。

 しばらく、ヴィアラは俺の近くでへたり込み涙を流していた。



 

 今まで陸での戦いや王国の人たちの反応からこの世界にはそもそも“銃”という存在そのものじたいないものだと思っていたが、ジークフリートが持っていたのはマッチロック式に似た“銃”だった。


 そもそもマッチロック式の銃とは日本のものでいうところの火縄銃である。現代の銃と違い、弾は完全な球体で基本銃口から詰める前装式のもので、発射用の火薬は弾を込めるより前に入れて弾を入れた後に長細い棒状の物でしっかりと奥に押し込んでいく、発砲するときには銃の名前にある通り火のついた縄を金具に着けそれを発火用の火薬を火皿という部分に盛りそこに火縄が接することによって発火し内部の火薬に伝わり弾が発射される。

 

 ただ後でジークフリートが持っていたものを見ると、見た目は火縄銃なのだが、実際は元居た世界の物とは異なり発火用と発射用の火薬の代わりに“火の魔石”が使われておりその魔石が撃鉄の衝撃によって発動して弾が発射される仕組みのようだ。


 捕虜にしたジークフリートの副官だった人間の情報によればこの銃はまだ実験段階で、軍全体で運用しているところもなく、この実験自体知っているのは極めて限られた人のみである。そして個人的に所有しているのは物好きだった彼のみだという。


 それはさておき、大量の血を流し意識を失った俺を座り込んだ膝の上に乗せたままヴィアラは、今は失意の中ただ泣き続けるだけであった。

 この鳴き声を聞きつけ何事もかと駆け付けてきたシルヴィア達は血だらけでぐったりとしている俺を見て何が起きたのか理解出来ず驚いた顔のまま立ち尽くしていた。ベルの場合はもっと酷く、見た瞬間そのまま気絶してしまっていた。

 

 そんな中、いち早く気を取り直したリレイはすぐさま大声で大和の乗組員に助けを求めた。

その救助の声を聞きつけた「大和」の軍医長率いる医務科の兵たちが続々と降りてきてくれた。何かあったときのためにエミリアが即時待機命令を出していたので驚くほど速く来てくれたのだろう。


 俺はすぐさま担架に乗せられ艦内にある医務室に運ばれ、そこで軍医長によって治療が施された。この時元居た世界と同じく医療器具を使って治療するのかと思えば、回復魔法を使って治療をしてくれいていたようでその中でも高位の魔法を使用してくれたらしい。


 俺が運ばれ一段落したころにはようやくシルヴィアたちも動き始め、捕まえてきた捕虜たちの収容や尋問をしていた。


 その日何とか俺は一命をとりとめたようだったが意識までは戻らなかった。そのおかげで「大和」と「武蔵」の両艦内はお葬式状態のようであった。


 後で聞いた話だがヴィアラは俺の寝ているそばを何があっても離れなかったらしく、最初は例の如くベルの“鬼人化”が始まってそれはもうすごいことになったが、流石に状況が状況だったのですぐさま近くにいたメンバー全員によって鎮圧され事なきを得た。

 そのあとキーレ港に着いて海軍病院に移されてからも本来の業務をそっちのけでずっと寄り添っていたらしい。


 そんな予想外の被害を被った艦隊は、勝利によって得た喜びよりも中心的人物の意識不明になってしまったことによる悲しみに暮れながらもキーレ港へと帰途についた。



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