98.攻撃開始
「合戦準備!これより実弾射撃訓練を行う」
「露天甲板退避良~し」
主砲の射撃時には、砲塔周辺の甲板などにすさまじい衝撃波が発生するため退避命令が下る、戦艦の主砲の衝撃波は近くにいるだけで人体がミンチになるぐらいの威力があるようだ。
同様に単縦陣を組んでいる後方の武蔵も、射撃の準備をし始めていた。
「戦闘、右砲戦60度、目標20000m先の標的用小島」
「測的はじめ」
「初弾観測急斉射、斉射間隔30秒」
次々に指示が飛んでいき、今は主砲と副砲の砲塔が右にゆっくりと旋回し始めていた。
本来であれば主砲のみで射撃訓練をするのであるが、今回はできるだけ砲の実戦的な操作に慣れていた方がいいとの判断で、いくらか強引かもしれないがこのような訓練内容にした。
「測的よし」
「主砲副砲目標良し、方向よし、射撃用意よし」
「撃ちー方―始め」
「射撃用意」
「てっー」
ズドン!
主砲と副砲のすさまじい発射音とともに振動と空気の揺れを感じた。
周りにいた見張りの兵やヴィアラとミサも驚きが隠せないようで皆目を見開いていた。
「弾ちゃ~く」
「遠弾、下5、右7修正」
「調定よし(修正完了の意)」
「本射第一弾、射撃用~意」
「射撃用意」
「てっー」
最初の一発目は観測用として射撃し、その弾の弾着位置の観測データをもとに次の射撃に生かしていく、その後は同じく観測データを参考にして夾(きょう)叉(さ)(目標を挟むようにして至近弾が複数発同時着弾したことで、このまま射撃し続けると命中を望める状態のことを言う)や命中弾を出すように着弾点を近づけていく。
「弾~着」
「命中!」
「本射第二弾、射撃始め」
「てっー」
ドドドドドドン!
「武蔵も命中弾」
第3射目で大和は命中弾が出たのですぐに次の射撃を始めた、武蔵は一拍遅れて命中弾を出していた。
この訓練中も絶えずTDLSで通信を行っているため、お互いの射撃弾数や弾着位置を共有しあっている。
それから5分と経たないうちに目標である小島はほぼ原形をとどめない状態になってしまっていた、まるで今にも海に沈んでいく船のようだ。
それを見たものは唖然としていたが、これが大和の主砲46㎝砲の威力なのだろう(小島が木っ端みじん寸前になるまで撃ち込んだ命中弾は大和の副砲と合わせて計15発、武蔵は9発)。
「目標大破撃沈したと確認」
「目標撃破」
「主砲、副砲撃ち方やめ」
「主砲、副砲撃ち方やめ」
「戦闘用具収め」
「主砲、副砲、戦闘用具収めよし。人員、砲機異常なし」
「各部用具収めよし」
「陛下、いかがでしょうか?」
俺は主砲の射撃が見れたことに感動と興奮を覚え、その余韻に浸りながらぼーっとしていた。すると、ミサがそんな俺の横から声をかけてきていた。
しかも丁度真横に来て、少し覗き込むようにこちらを見ていたので顔を向けた瞬間、ミサの顔が真正面に来ていた。ミサもほかの女性たちに引けを取らない美女で、そんな彼女が俺と距離感が近すぎるのもあって、女性独特の甘い匂いがしてくるのと衣服の間から覗くたわわな双球が見えてしまい、ドキリとしてしまう。
「お、おう、す、素晴らしい練度だな。これなら簡単に敵艦隊を葬ることができるな」
「これによって皆自信と希望が持てたことでしょう、これも陛下のおかげです」
「いや、これは俺一人でどうこうしようが成し遂げられないさ。“みんな”のおかげだろ?」
「……はい!」
「報告!左45度方向、右方向に直進中、距離約25000に艦影多数確認!」
「陛下、あれは情報にあった第三艦隊に間違いありません!」
俺の近くに立っていた見張り員が艦影を発見したようで、それを聞き、確認するためにミサとヴィアラも双眼鏡を覗き込んでいた。
ミサは何度か見たことがあるようなのですぐに第三艦隊だと分かったようだ。
丁度この時電探室では、原因不明の電探とその関連機器故障の対応で軽いパニック状態に陥っており、敵艦隊を電探で捕捉するどころではなかった。
幸い、すぐに原因が突き止められ復帰した。
「艦長!直ちに迎撃せよ!」
「了解!直ちに迎撃します!砲撃準備!次は本番だぞ!」
この後、さんざん帝国海軍に一方的にボロボロにされてきたが、元いた世界で世界最強と謳われた近代戦艦とこの大口径の主砲によってそれを打ち破る。
この時の帝国側は、自分たちがまさか負ける側になるとは思ってもいなかっただろう。
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