71.因縁


 身の危険を感じたリレイとユリーシャは、瞬時にレッグホルスターに収めてあった護身用として持ち歩かせているSIG P226を抜き、素早くマガジンを入れスライドを動かし弾のロードを済ませると、C.A.R(Center(センター) Axis(アクシズ) Relock(リロック))systemと呼ばれる近接戦闘に特化した拳銃の構え方をとる。


 この構え方は手を重ね合わせて銃を自身の右(左)側に向け、右利きの場合左腕は正面から見ると地面に対して垂直で右腕は平行になっているポジションと、みぞおちの近くで手を合掌するような形で銃を保持するポジションなどがある。


 この構えの利点として、前者は顔に比較的近い片目で見るので照準がすぐに合わせやすいこと、後者は特に狭い場所や相手が超近距離にいる場合に有用である。

 しかし、構え方の構造上精密射撃には向かない。


 その様子を見たローザはリレイ達が持つ黒い物体を不思議そうにしながらも、臆せずじりじりと距離を詰めていった。


「そんなので何ができるというのリレイ!もしやそんなものでこの私と戦うつもり?笑わせないで?」


 リレイは若干気おされながらも構えを崩さず狙い続けていた。


「フッ、この“銃”と呼ばれるワタ様から賜った武器で貴様なぞハチの巣にしてくれる!」


 剣呑な空気が流れる中、俺は双方の間に歩み寄り静止に入る。


 すぐ後ろでベルもSIG716に弾を込め、ローレディポジション(銃口が下に向いた状態)で構えている、おそらくローザではなくリレイ達に対して向いているように見える。

 あわよくばこのままあの2人を始末してしまおうということだろうか、そんな気がしてならない。


「銃を下ろせ!リレイ、ユリーシャ、こんな使い方をさせるつもりで渡したわけではないぞ!」


「「し、失礼しました」」


 すぐに二人はマガジンを抜きスライドを引き薬室内の弾丸も抜く、同時に握った手の親指の位置にあるデコッキングレバーを操作しハンマーを安全な位置に戻す、教えてからそんなに経っていないが流石は軍人といったところか。


 その二人がSIGP226を安全な状態にしたことを見届けてから、俺はローザに向き直り頭を下げる。


「こちら側が大変無礼な行動をとってしまい申し訳ありませんでした。このたびの無礼、どうかお許しください」


「ちょっ、お待ちください陛下、先に挑発してきたのはあちらです、陛下の意に反して銃を使ってしまったことはよくないことではありましたが……」


 ユリーシャはいまだにローザを睨みながら、俺を止めに入った。


「いいんだ、そもそも説明もしないで君らを連れてきた時点でよくなかったんだから、今まで帝国側だった軍人が目の前に現れれば、事情の知るはずのない人が攻撃してくるのは自然のことだろう?」


「ですが……んっ!」


 俺はなおも反論しようとするリレイの唇に人差し指を突き付ける、すると顔が紅潮し始めそのまま沈黙する。


 一方でユリーシャはバツが悪そうに下を向いたままだった。


「こちらこそ失礼しました、私もついカッとなってしまっていて、つい」


 ローザは先ほどまでまとっていた魔力を止め、最初の状態に戻っていた。


「いや、ご客人に失礼とあってはこちらも気分は良くないのでね、イリス女王陛下もどうかお許しを」


 唯一の同盟国である国の元首にこんなことで嫌われてはなるまいと、俺はイリス女王に向かって頭を下げた。


「あらいいですのに、それにしても元は敵であったはずの者を自分の部下にしてしまうなんて大したお方ですわね」


「それに関しては我々も非常に驚いています、まさかあの帝国のお嬢様が……」


 エレシアはなんだかんだ言ってまだリレイのことを認めていないようで、若干とげの入った言葉になっている。


「エレシア、このことは俺が勝手にやったことなんだ、許してやってくれ。確かにハミルトン城はリレイたちが攻め入ったけど、そのあと帝国を裏切ってまで最後には元同胞を返り討ちにしてくれたじゃないか」


「そ、そうですね、失礼いたしました」


「確かに裏切った人間を簡単に信じろと言っても信じられるわけないからしょうがないだろうけど、これから本人たちが行動で示してくれるだろうと俺は信じている……そんなことよりイリス陛下、今回の我々に対しての援助の件ですが」


「それについてはわが娘が――」


 イリス女王が話す前にローザは立ち上がり、飛びっきりの笑顔で(俺には見えた)見栄を張って見せてきた。


「このローザにお任せ!」


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