ちょぉーっと何言ってるか、分かんないですね(中)*ネコ様視点

*ネトーブリアン(ネコ様)視点



 『お茶会』の場はすでに整っているとのことだったので、私(わたくし)はドレスに着替えた後(のち)、第二王子ネトラリアン様のいらっしゃるというお部屋まで、ニック殿下と共に向かうことにいたしました。

 そうしてニック殿下に連れられて、王家直属近衛騎士様、ハムルペト、そして私の3名は、王宮の敷地内の隅に隠されるように建てられていた、そこそこに大きな屋敷へたどり着きます。


「ニック殿下、ここは?」


「今回のような場合に用いられる、曰く付きの建物だよ。王宮に詰めている人間も一部しかしか知らないはずだ」


「ここにネトラリアン殿下が……」


 私は期待にごくりと喉を鳴らしました。当然です。いつかやってやろうと思っていた仕返しいたずらを実行するチャンスが巡ってきたのですもの。

 元々、ネトラリアン殿下との結婚には、正直、良い気持ちは抱いておりませんでした。しかし貴族として、公爵家令嬢として、責務は全うしなければなりません……、そう覚悟していたというのに、ネトラリアン殿下は、別の女にうつつを抜かしていました。

 王族のとしての外聞は、それはもうよろしくありません。私は自分の面倒くさいという気持ちを押し殺し、矯正しようと努力しましたが……、よりにもよって、結果は私との婚約破棄と、猫化の呪い。

 流石にキレましたとも、ええ、それはもう、これ以上ないくらいに。

 恩を仇で返されるとはこのことかと、本当に……。


「…………今日はいいストレス発散になりそうですわ」


「何かいったかい? ネトーブリアン姫?」


「いえ、なんでもございませんわ、殿下」


「そうかい、ならいいのだけれど。行こうか」


「ええ」


 私は怒りという本心を燻らせつつ、笑顔の仮面を被ります。流石に、醜聞を晒すわけにも行きませんからね……、まあ、せめて我慢できるうちは、ですけれども。

 そうして、私たちが屋敷に入ると、出迎えてくれたのはメイドや執事……、ではなく、兵士さん達でした。


「これは殿下、お早いおつきで」


「君たちもご苦労様」


 兵士さんの中の、隊長格と思わしきご年配の偉丈夫様が、殿下に話しかけました。

 ……これには私も驚きましたが、同時に、この屋敷の意味を理解した所存でしょうか。

 ここはおそらく、軟禁所。それも、おそらくは、ある程度身分の高い方を閉じ込めておくためのものでしょう。でなければ、屋敷と呼べるほどに豪華にする必要もございませんから。


「愚弟に会いにきた。案内してくれ」


「御意に」


 偉丈夫様に案内され、私たちは部屋の一室の扉の前に立ちました。ここにネトラリアン殿下がいるのでしょう……、無意識でしたが、もはや尊敬語を使う気にもなりませんわね。


「失礼します」


 扉の鍵をガチャリと開けて、ノックもなく、偉丈夫様は部屋へと入ります。私たちもそれに続いて、中へと入りました。

 中には綺麗なベッドや壁に装飾が施されてはおりますが、ここには、どんよりとした空気が漂っていました。

 ボサボサの髪に、シワのついた衣装を着る殿下が、おそらくはその空気を作り出しているのでしょう。椅子に猫背で座りながら、目の前の机に置かれたお菓子をつまむその姿は、見苦しいというほかございません。


「だいぶ痩せたね、愚弟」


「兄上……っ! それにネトーブリアンまで、なぜ!?」


「ネトーブリアン姫が君に会っておきたいというのでね」


「なんだと……!?」


 そうしてネトラリアン殿下から向けられる、鋭い視線。思わずびくりとしてしまうのは、婚約破棄された際の、敵だらけだった周りの視線を思い出すからでしょうか。

 こんな時、カイゼルが近くにいてくれれば、腕の中に隠れられますのに……、いえいえ、弱気になってはいけませんわね。


「お久しぶりですわ、ネトラリアン殿下」


「何の用だ、貴様っ! 貴様のような悪女と話すようなことはない!」


「まあ、非道い言い草ですわ。私はネトラリアン殿下とお茶をしにきただけですのに」


「お茶……?」


 その単語を聞くと、ネトラリアン殿下はピクリと眉を動かしたと思えば、その口元を醜悪とも言える程に、ニヤリと歪めました。


「なるほどな。殊勝な心がけじゃないか。なら、こっちにきて座るといい」


「ええ、ではお言葉に甘えて」


 私はネトラリアン殿下と対称に座り、ニック殿下がその間に腰掛けます。近衛騎士様はニック様の斜め後ろに待機し、ハムルペトは私の背後で、かちゃかちゃとお茶の準備をし始めました。

 ニック殿下がお座りになったことに、ネトラリアン殿下はなぜか疑問に思ったようですけれど、すぐにどうでも良さそうにして、私の方へと向き直ります。

 さて、どのように切り出しましょう……、そう思って、口を開きかけた、その時。私はネトラリアン殿下から発せられた言葉に、開いた口が閉じませんでした。


「まず、ネトーブリアン。俺に謝罪してもらおうか」


 何を言っているのでしょう、この馬鹿は。

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