カイゼル、おめーも大概アホの子だよ
ラッキーラビット好きな猫を治療院に連れて行ってから、およそ1週間ほど。猫……まあ、便宜上ネコと呼ぶとしよう。ネコは雌猫だったようで、雄猫に迫られているシーンを稀によく見る。猫の中では美人なのかもしれないが、人間の俺にはよくわからない。
だが、ネコは雄が苦手なのか、よく俺の方へ逃げてきたので、俺は抱きかかえてやる。無害認定されたのか、頼られているのかは定かではないけれど、少なくとも、雄猫よりはマシとは思われているのだろう。
めっちゃ可愛い。
猫の美醜なんてわからない。わからないが、猫という動物の魅力にとりつかれてしまったのだろうか。ネコが可愛くて仕方がない。
村にいた頃も動物は好きだったけれど、猫なんて、飼う余裕はない。犬だって狩猟犬がほとんどだし、ほかは豚や牛などの家畜だ。いずれは肉になったり、獣との争いで死んでしまうケースが非常に多い。
だから、俺はあまり動物と仲良くすることはなかったのだが……、今は、そんな心配は特にする必要もなく、思う存分愛でられる。
もっとネコについて知りたい。もしもネコの心がわかったのなら、コミュニケーションを取れるようになったのなら、どれほど楽しいだろう。
そう思ったからか、スキルが自然と発動してしまった……、ネコも猫であることに変わりはないのだから、心を読み取ったところで、「ニャーニャー」としか聞こえないだろうに。一瞬で夢が崩れてしまうことに、一瞬がっかりしたーー
(猫なんかと子作りなんてゴメンですわぁぁぁぁぁああぁ!!!!!! 平民、さっさとこの猫共を追い払いなさいっっっっっっっっ!!!!!!!)
「……え?」
否。びっくりした。驚いた。驚愕した。
耳をつねった……痛い。
頬を叩いた……痛い。
スキルを使った、切った、使った……
(何をしてますのおおおおおおおおぉぉぉ!!!! 早くしなさぃいいいぃいいい!!!!!)
「……はい?」
今度は間違いない。ネコが喋った。いや、ネコが考えた。王国の標準語……、それもかなり丁寧な言葉遣いで、思考した。
猫は、「ニャーニャー」としか考えないし、喋れない。それは犬でも馬でも牛でも変わらない……ネコが、人の言葉を考えた。
ネコは、人の言葉を理解している。
「ネコ、お前……俺の言葉がわかるのか?」
俺に抱きかかえられているネコに話しかけると、「キシャー」と雄猫を威嚇していたネコが、バッと俺の方へと振り向いた。
この反応、間違いない。
ネコは人語を理解している。それも、かなり精巧に。
「ニャーッ! ニャニャニャァアああ!?」
(な、なんでわかったんですの!?)
「俺は読心ってスキルを……いや、とりあえず、雄猫が邪魔か」
俺に、正確にはネコに群がる雄猫から逃げるように、ネコを連れて自室へと向かう。
両手がふさがっているので、足も使いながら部屋の扉を開けると、ネコをゆっくりとおろしてやる。
俺はそのままベッドへと座ると、「ふぅ」とため息を吐いてから、落ち着いた体で話し始める。
「ネコ、俺は読心ってスキルを持ってるんだ。そのスキルで、お前の思考が聞こえたんだけど……」
「ニャーニャー?(読心? 聞いたこともないスキルですわね……)」
「珍しいスキルらしいからな」
これを教えてくれたのは、村の神父さんだ。そういえば、神父さんと両親には、手紙は送っていたけれど、最近は送っていない。近頃送っておきたい。
まあ、それはともかく。
「ネコ、お前は一体なんなんだ……?」
「ッ…………(し、信じてもらえませんわよね……私が公爵令嬢で、女狐(あくじょ)に嵌められて第二王子様と婚約破棄された挙句、家を追い出されて呪いで猫にされていたなんて……)」
「なるほど。元公爵家令嬢様で、誰かに嵌められて、第二王子様との婚約を破棄された上、家を追い出されて呪いで猫にされたと……」
「……!?(な、なんでわかりましたの!?)」
「いや、俺スキル持ってるって……」
元公爵令嬢様らしいけれど……、失礼ながら、本当に失礼ながら。
めっちゃアホの子っぽい。可愛い。
「そういえば、2週間前くらいに第二王子様が再びご婚約されたと発表があったけれど、そういうことだったのか……」
「にや、にゃあ……!(う、うぅ……み、みじめですわ……。こ、こんな猫に成り下がって、平民にご飯を貰わなければ生きていけないなんて……!)」
「…………」
なんだろう。
貴族様なんて実際に見たことすらないけれど、みんなこれほどに、気高い心持ちをしているのだろうか。
人間、みんな心のどこかに闇を抱えているのだと思っていた。この公爵令嬢様だって、その嵌めた人間に対して恨みを持っているだろうに、
「なぁ……なぁ……っっっっ!!!!(それもこれも、あの女狐のせいですわ……! 今度会ったら、ただじゃおきませんわぁぁ!!!! はっ、そうですわっ! 今の私は猫……つまり、毛がたくさん出るはずですわ! ふふふ……そうとなれば、今度あいつの屋敷に侵入して、ベッドの上を毛だらけにして差し上げますわっ! 我ながらなんて恐ろしいこと考えるのでしょう……!)」
とか、本当にしょーもないことを考えている始末。アホの子ということもあるだろうに、根がいい人、というやつなのだろう。
どうしよう。相手は猫だぞ……子供だってできないし、エロいことだって当然できない……なのに、なのに……、なんでこんなに胸が苦しいんだ……っ!
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