普通に不味い
「なんだかんだで勉強したなあ」
俺は大きく背筋を伸ばした。日は沈み始め、勉強会もお開きの時間だ。気絶した純も目を覚まし(勉強はしなかった)、かなり有意義な時間だったと思う。
「そうねー結構疲れたかも」
「僕はお菓子が食べられたから、それなりに満足しているよ」
「激辛だったけどね」
一応、純は由乃に告白したはずだけど、二人とも驚くくらいいつも通りだ。……まぁ、俺も乙宮にしちゃったけどさ……。案外、告白くらいじゃ人の関係は変わらないのかもしれない。
「よーし! あ、乙宮、チョコもらうよ。明日のテスト頑張るぞ!」
真人の話を聞いてから警戒心を強めていた俺は、クッキーにもチョコにも手を出していなかった。しかし、勉強会も終わりを迎え、気分がよくなったので、乙宮の買ってきたチョコを口に運ぶ。あ、これ美味いやつだ。噛んだ瞬間に、甘さにも似た苦さが口の中に広がり、そして苦味を超えた不快感が喉を侵食して、やがて胃にずっしりとのしかかり……って。
「……?」
なんだ、まるでお菓子じゃないみたいな味が……まさか。
「あ、春香、それもしかして手作り?」
由乃の質問に乙宮は黙って頷いた。乙宮の方は手作りだったのか。これは誤算だった。
「うん、全然いけるな」
今度は三つ一気にチョコを口に放り込んだ。うん、不味い。たしかに不味いけど。
「体に異変はないな」
俺の言葉を聞いた真人と純は顔を見合わせると、恐る恐るといった感じでチョコを口に運んだ。
「うん、なんのダメージもないな」
「乙宮……お前、料理の才能があるぞ!」
俺たちは取り合うようにチョコを食べた。チョコはあっという間になくなり、俺は満足感と満腹感に包まれた。
「よかったじゃない春香。喜んでるわよ」
「…………?」
乙宮のチョコによって勉強会は幸せな空気で幕を閉じたが、乙宮本人は、最後まで不思議そうに首を傾げていた。
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