227章

ノピアの言葉に合わせるかのように――。


ラスグリーン、ロミー、クリアの3人が、クロエへとゆっくり間合まあいをめ始めた。


四方向よんほうこうからかこまれ、まさに四面楚歌しめんそかのクロエ。


アンにうでとされたグレイは、いまだに微動びどうだにせず、たおれたままだった。


ジリジリと近づいて来るノピア、ラスグリーン、ロミ―、クリアの4人。


アンは、うつろな眼差まなざしで4人とクロエの様子ようすを見ていた。


先ほど、玉座ぎょくざ天井てんじょうからあらわれた配線はいせんさったとき――。


その影響えいきょうで、彼女の体はひど消耗しょうもうしてしまっていた。


それと――。


目の前でニコをうしったのもあったのだろう。


今のアンはこころ身体からだも戦える状態じょうたいではなかった。


それでもノピアたち4人が現れたことに、今の彼女の精神せいしんささえられていた。


すべて能力のうりょくふうじられ、助けてくれる仲間なかまはなく、相手をあやつることもできない。


もうあとがないクロエを、アンはどこか安心あんしんして見ているのだ。


だが、それでもクロエは――。


「……ふふふ。たかが4人で私を仕留しとめるつもりかしら?」


彼女は上品じょうひんに笑いながらそう言うと、さらに高笑たかわらった。


そのクロエの笑い声が、この玉座の間にひびわたる。


「何がおかしい? 今のお前にあたしたちに勝てる算段さんだんでもあるのか?」


不機嫌ふきげんそうな表情ひょうじょういたのはロミー。


彼女と同じようにノピアとクリアも、その顔をゆがめている。


あたまのほうがおかしくなっちゃたんじゃない?」


3人とはちがい、ヘラヘラしているラスグリーンがクロエを小馬鹿こばかにするように言った。


クロエはその言葉を無視むしして一頻ひとしきり笑うと、両手りょうてを大きくひろげてみせる。


その様子は、まるでミュージカルに出演しゅつえんしている舞台女優ぶたいじょゆうのように大袈裟おおげさなものだった。


「いえ、おかしいのはそっちよ。だって、すでにあなたたち、ボロボロじゃない?」


クロエは出していた片手かたてだけばし、もう一方いっぽうの手を引っ込めると、くるりとまわった。


そのふざけた態度たいどに、3人に続いてさすがのラスグリーンも口元くちもとゆがめる。


彼女が言っていたことは事実じじつだった。


クロエに操られたラスグリーンと、マシーナリーウイルスの影響で暴走ぼうそうしたロミーを相手に手加減てかげんなどできるはずがない。


ノピアもクリアも――。


それに手加減されずに戦ったラスグリーンもロミーも――。


4人は見た目ではわからないくらいダメージを受けていた。


もはや満身創痍まんしんそういと言っていい状態だ。


クロエはそれを感じとって笑ったのだった。


「あなたたちに希望きぼうなんてないわ。たとえ今の状態でも、戦えば間違まちがいなく私の勝利しょうりでしょうね」


「それでも……今がチャンスなことに変わりない」


ノピアがクロエに返事していたが――。


そのじつ――ラスグリーン、ロミー、クリア3人へつたえているようだった。


彼が言っていることはもっともだ。


ニコのはなったひかりの影響で能力を封じられたクロエではあったが、いつまたその力が復活ふっかつするかはわからない。


もし、ふたたびクロエがすべての能力を使えるようになったら――。


もうだれも彼女を止められない。


「どうやらあきらめないみたいね」


クロエは、4人の顔をそれぞれ見ながら、あきれた様子で言った。


「なら、できるだけ私を楽しませてね」


そう言った彼女は、再び大きく両手を開いて見せるのだった。

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