221章

クロエの言うアンにとって良い話とは――。


「アン、あなたは私の中で生き続けるのよ」


この世界の人間がすべて消えった後――。


クロエは新しい世界を創造そうぞうする。


あらそいも差別さべつも、この地球ほしきずつける生き物などいない世界がもなく始まる。


「すべてが生まれ変わった世界で、あなたは私と共に……いえ、“”私たち”と共に生きるの。どう? とっても素敵すてきでしょ?」


クロエがそう説明せつめいすると、玉座ぎゃくざの上からふといパイプのような配線はいせんかぞえきれないほどあらわれた。


そして、その大蛇だいじゃのようにうごめく配線は、クロエの全身にさる。


まるで生きているかのように――みゃくを打つかのように動く配線。


アンは前にも同じ光景こうけいを見たおぼえがあった。


そうだ――。


あの配線は、以前にロミーの体をうばおうとしていたときに使っていたものだ。


配線こんなもの気にしてないで話を聞きなさい」


クロエは少し不機嫌ふきげんそうにすると話を続けた。


イグニスアクアヴェントゥステラ――。


それはマナ、キャス、シックス、クロムのこと――。


その4人も新しい世界で共に生きるのだと。


いもうとのローズも、イグニスの子ラスグリーンも、そしてあなたのおもい人――ロンヘアも一緒いっしょよ」


クロエはアンに手をべた。


そして、彼女の目を見つめながらおだやかに微笑ほほえむ。


「アン……。これは運命うんめいなのよ。グレイが私からはなれられないように、あなたも私から離れられない」


見つめられたアンは、クロエから目を離せないでいた。


クロエの目を見ているうちに、彼女の思考しこう次第しだいにぼやけていく。


……またみんなと会えるのか……?


クロエの言う世界で……またグレイやニコと一緒にらせるのか……?


「さあアン。“私たち”と1つになりましょう」


クロエがそう言ったとき――。


アンのそばふるえていたニコがさけぶようにいた。


ニコの叫びを聞いたアンは、うすれかけていた意識いしき正気しょうきもどる。


そして、酩酊めいていしていたような顔を、いつもの無表情むひょうじょうへと切りわった。


「……いやちがう。運命なんかじゃない……。私はお前に殺されるだろう……でも、それはお前も同じだ」


力強ちからづよく言い返すアンを見て、差し出した手を引っめるクロエ。


そして、かたらして笑い始める。


「もしかしてそれは、さっき言っていたあなたのお友達のことかしら?」


クロエは笑いながら言葉を続ける。


アンの友人――。


メディスン、ブラッド、エヌエーたち反帝国組織バイオ·ナンバーが、ストリング帝国の生きのこりと手を組んで総攻撃そうこうげき仕掛しかけようが、このストリング城が落ちることはないと。


クロエはそう言うと、ふたたび玉座にこしをかけた。


「人間がいくらあつまったって私をたおすことなんてできないのよ」


「その過信かしんが、お前がルーザーにやぶれた原因げんいんだな」


「あら? 言ってくれるわね。でも、あなたの人間への信頼しんらいのほうが過剰かじょうじゃなくって?」


クロエを太々ふてぶてしく無表情で見続けるアン。


玉座にすわり、そんな彼女を見下みおろしているクロエ。


しばらくすると――。


大広間おおひろま戦闘以外せんとういがいの音――。


このストリング城へ砲弾ほうだん電磁波でんじはってきている音がひびわたってきた。


「どうやら来たみたいね。あなたのお友達が」


それは、メディスンたちが集めたストリング帝国と反帝国組織バイオ·ナンバー連合軍れんごうぐんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る