144章

キャスがレイピアをかかげたとき――。


1台の戦闘車両――プレイテックが荒廃こうはいした大地を進みながら、ストリング帝国へと向かっていた。


その車内には、ふかい青色の軍服の集団――ロミーことローズ・テネシーグレッチ将軍がひきいる小隊の姿があった。


彼女はジャガー、ジャズ·スクワイア姉弟きょうだいから連絡を受けて、本国であるストリング帝国へと戻ってきていた。


報告ほうこくで聞いた内容は、大型の合成種キメラの出現と、ローランド研究所にいた実験対象モルモット――ロンヘアの死亡や、アン·テネシ―グレッチの暴走ぼうそう


その知らせを受けた皇帝ーーレコ―ディ―·ストリングが、ロミ―に指示を出した。


すぐに帝国へ向かい、途中とちゅうでバッカス将軍と合流ごうりゅうし、混乱こんらんしている国を鎮圧ちんあつするようにめいじられていた。


「……まったく、あのキノコ頭は問題トラブルばかりこすな」


ロミーが不機嫌ふきげんそうにつぶやいた。


その幼い少女の顔がゆがむ様子は、彼女の実年齢以上に大人びて見える。


ロミーは苛立いらだっていた。


何故なら、彼女は帝国組織バイオナンバーとの戦闘中に、突然国へ戻るように言われたからだ。


他の指揮官しきかんに戦場をまかせることを、ロミーは不満ふまんに思っていた。


それは、自分の指揮のおかけで優勢ゆうせいに進んでいたいくさだったからだ。


しかも、任務にんむからはずされた理由が、アン·テネシ―グレッチのせいだということが、さらに彼女の怒りが要因よういんとなっていたのだった。


諸君しょくん実験対象モルモットを押さえたら、さっさと戦場へ戻るぞ」


兵士たちは、そんなロミーに気を使い、これ以上不機嫌にならないようにするしかなかった。


その後、しばらく進み、プレイテックが真新まあたらしい建物の側にまった。


どうやら合流地点に到着とうちゃくしたようだ。


「バッカス将軍はまだ来ていないのか?」


ロミーの苛立った声に、ハンドルをにぎっていた兵士が答える。


バッカス将軍が率いる部隊は、先ほどロミーたちとは別の地域ちいきにいたバイオナンバーとの戦闘に勝利したばかりで、到着にはまだ時間がかかるらしい。


それを聞いたロミーは、ゆっくりと座席ざせきから立ち上がると、車内から窓の外を見遣みやった。


兵士たちがそんな彼女に声をかけると――。


「お前たちはここでバッカス将軍を待て。私は先に帝国へと向かう」


兵士たちはロミーの指示に戸惑とまどっていたが、彼女に意見できる者などこの場にいなかった。


そう――。


ロミーは今やストリング帝国の将軍なのだ。


立場やかくでいえば、ノピアやバッカスと同列どうれつである。


いや、入隊したばかりでいて、最年少での異例のスピード出世――。


さらには、ストリング皇帝が言う数少ないマシーナリーウイルスの“適合者てきごうしゃ”でもある。


帝国の者たちは“現代のジャンヌダルク”とロミーをたたえ、てきであるバイオナンバーの者たちは“義眼ぎがん猛獣もうじゅう”と彼女を呼び、そしておそふるえた。


現在この世界でもっとも話題わだいに上がる人物と言っていい彼女と、同列にならぶ者などいないかもしれない。


ロミーは、兵士たちにそうげると、プレイテックから出ていき、背負せおっていたジェットパックを起動きどうさせた。


そして、こしにはナイフとサーベルの中間ほどの短い剣――カトラス、手には電磁波放出装置ーーインストガンを持って、夜空に見える流星りゅうせいのように飛びたっていった。


「ふん、バッカス将軍の部隊が来る前に、私1人で終わらせてやる!!!」


空中を移動しながらさけぶロミー。


彼女の感情に反応して、片目の義眼が赤く、そしてはげしく点滅てんめつした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る