135章
アンの意識の中には、ノピアもストリング帝国のこともなかった。
あるのはロンヘアを止めて、なんとか自分の元へ引き寄せたいという欲望である。
アンの
彼女は、生まれて初めて自分が女性であることの喜びを知った。
それはまるで、彼――ロンヘアがかけてくれた魔法のようだと、アンは感じていた。
宙に浮くロンヘアへと近づくアン。
「ロンヘアッ!」
彼女の言葉が届いているのか、ロンヘアの体が反応を見せている。
アンは自分の目を
それは、彼の体から
「わかるか、私だよ!」
しかし、そんな
彼女は、まるでロンヘアに語り
「ア、アン……?」
「そうだよ、私だよ、アンだよ、ロンヘア!」
ロンヘアの意識がアンへ向けられた。
彼の表情は、何故か苦しみに
そんなロンヘアを見たアンは、叫ぶかのように語りかけることをやめた。
「ロンヘア、苦しいの?」
優しく、できる限り
アンの育ての親であるシープ·グレイがしてくれたように、彼女はロンヘアに静かに言葉を
だが、両手で頭を
アンは自分の無力さに打ちひしがれていた。
ロンヘアの苦しみを少しでもなんとかしてあげたい。
いくらそう考えても、目のまで苦しむ彼に何もしてあげられない。
「変な記憶が……僕のものじゃない……みたいな……」
ロンヘアは苦しみながら言葉を話し始めた。
アンは、宙に浮いている彼の手を引いて、自分のほうへと引き寄せる。
そして、彼女は自分の胸にロンヘアの顔を
胸の
苦しんでいたロンヘアだったが、アンの胸に抱かれ、その緊張ぶりを感じるとクスッと笑っていた。
「……ロンヘア、苦しまないで……。記憶なら、新しいものを作っていけばいい……」
暖かいアンの体。
ロンヘアは顔をあげ、彼女を見つめた。
「私はずっとロンヘアと居たいよ。大人になっても」
「アン……ありがとう……」
ロンヘアがそう言うと、アンは静かに目を閉じた。
2人は
そして、力強く抱き合った。
アンは、心の中にあった
それは
アンは幸せだった。
ロンヘアから放出される波動が彼女を包んでいく。
唇から彼と一つになっているアンの頭の中に、
「あれはなんだ? しかもこの感覚は……?」
傍でインストガンを
先ほどから頭の中を流れていた電流のようなものが、言葉にはしにくい
アンは眠りの中で夢を見ているようだった。
脳内に映し出される映像は、まだ
アンはその世界を見たことはなかったが、自分でも不思議なことに理解できた。
そこには幼い子が「ママ、ママ」と、何かに話しかけていた。
……これは、ロンヘアの記憶なのか?
アンは小さい頃のロンヘアを知っているはずもない。
だが、その幼い子のことを彼女はよく知っている――そんな感覚を味わっていた。
「ママ。いつ僕の兄弟は生まれるの?」
「もうすぐよ。私の可愛い坊や」
その
「こ、これは……ッ!?」
そこから切り替わった映像に、アンは
何故ならそこには幼い日の自分が映っていたからだ。
そう――。
両親を
「ど、どうしてこんなものが……ッ!?」
アンが
そして、突然彼はアンのことを突き飛ばした。
「ロン……ヘア……?」
アンが
彼の――ロンヘアの赤い血を全身に浴びたアンは、一体何が起こっているのか理解できずに、その場に立ち尽くしているしかなかった。
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