85章

ストーンコールドの攻撃を、てのひらから放つ光でさばき続けるルーザー。


だが、やはり片腕ではふせぎ切れず、徐々じょじょするどい爪が彼の体を切り裂いていた。


まだそれほど酷い傷ではなかったが、防戦一方のルーザーを見たストーンコールドは、攻撃を止めて首をかしげ始める。


何かをうたがっている――そんな表情だ。


「……おかしいな。ジジイがこんなに弱いはずがねぇんだが」


両腕を組み、立ち尽くすストーンコールド。


ルーザーは、そんな半人半獣の合成種キメラを前で息を切らせていた。


だが、荒い息遣いをしていたルーザーが、急に鼻で笑う。


「まったく、若いってのはいいな……」


「はあ? 何言ってんだ、お前?」


あきれていたストーンコールドの後頭部に、突然衝撃が走る。


頭の中に轟音ごうおんが鳴り響いたストーンコールドの目に映ったのは――。


「ボクはまだ戦えるよッ!!!」


身の丈に合わない大きなハンマ―を振りきったクロムが飛び込んできていた。


ルドベキアがルーザーを守るように前に立ち、ルーに支えられ立っていたロミーは、義眼ぎがんを赤く光らせている。


皆、すでに満身創痍まんしんそういだったが、その目はまだ戦意を失っていない。


人間カスどもがぁぁぁ!!! なんでまだそんな目をしてやがんだぁぁぁ!!!」


それを見たストーンコールドは、表情をゆがめて咆哮ほうこう


怒気をふくんだ叫びは、雪の大陸にいるすべての生物の耳に聞こえるくらいの大きさだった。


あまりの大声にルーザーたち全員が、耳をふさ仕草しぐさをしている。


「食ってやる……食って食って、そんな目玉ごと食らってやるぞぉぉぉ!!!」


「させるか!!!」


クロムが叫びながら、また飛び込んでハンマ―を食らわせようとした。


だが、今度は簡単に振り払われ、そのまま地面に叩きつけられる。


「お前は食わねぇって前に言っただろうがぁぁぁ!!!」


雪の上を倒れて動かなくなったクロムに向かって、ストーンコールドは怒鳴りつけた。


それから振り返り、ルーザーたちのほうを向く。


ドスン、ドスンと地面にある雪が弾けるほど大地をみつけて、ゆっくりと彼らのところへ向かい始める。


「……マズイな。おい、お前たちは下がれ」


ルーザーが、ルドベキアとロミー、そしてルーに声をかけた。


だが、ルドベキアは――。


「何言ってんだよ。ジイさんももう限界だろうが」


「お前たちよりはマシだ」


「片手でイキってんじゃねえよ。俺がやる」


「おいおい、さっきも言っただろう。ケガは治したが流れた血は戻ら――」


「ゴチャゴチャうるせえッ!!!」


ルーザーとルドベキアが言い争っていると、フラフラのロミーが2人の前に出た。


「男が2人で……みっともない。下がるのはお前らだ。ストーンコールドキメラは、あたしの獲物えものだ」


彼女は、無愛想につぶやくと、腰にびたカトラスを引き抜く。


そのとき――。


突然ルーが叫ぶように鳴いた。


震えているルーが見ているほう――全員がその方向を見ると、そこにはアンの姿があった。


「な、なんだありゃッ!?」


「アンの腕が……あれはどうなっているんだ……?」


ルドベキアが声をあげ、ルーザーはその姿に驚愕きょうがくする。


ロミーは義眼ではない目を大きく開いていた。


何故全員が驚いていたのか?


それは、アンの機械の腕が肥大化していたからだった。


白い鎧甲冑よろいかっちゅうのようだった右腕が、今は黒く変色し、禍々まがまがしいフォルムに変わっている。


稲妻いなづまがほど走り、腕から伸びた配線のようなものが、まるでそれ自体が生きているかのように動く。


そのままアンの体を侵食しんしょくしていきそうな勢いだ。


「ストーンコールドォォォッ!!!」


アンの叫びと同時に、彼女の周囲が電撃で破壊されていく。


雪は溶け、大地にヒビが入りながら彼女は歩いている。


本人は無意識なのか、腕に走る電撃は無差別に放たれていた。


そんなアンに向かって、ストーンコールドが突進を始めた。


そして衝突しょうとつ


大型のトラック同士がぶつかったような破壊音が、雪原にひびき渡った。


ストーンコールドは、アンの肥大化した機械の腕にガッチリと掴まれながらも、力づくで押しつぶそうとしている。


腕から放たれる電撃にその身をがしながら、再生を繰り返してさらに力を込める。


だが、アンのほうがまさった。


ストーンコールドは体中を泡立てながら、苦痛の表情を浮かべている。


「クソッ!! クソォォォッ!!! 俺様がなんでこんな人間カスごときにぃぃぃッ!!!」


見ていたルーザーたちは、このままアンがストーンコールドを倒すと信じていたが――。


追いめられた半人半獣の合成種キメラは、ここで恐るべき行動に出る。


「う、腕を……機械の腕を食ってやがる……」


ルドベキアは、その光景こうけいに身震いした。


禍々しい漆黒しっこくの腕に掴まれながら、ストーンコールドはその腕に噛みつき、バリバリと食べ始めたのだ。


すると今度は、ストーンコールドの体が黒く変色していき、体中からアンの腕と同じように配線のようなものが飛び出してきた。


そして、その体から電撃を放ち始める。


「こりゃすげえ力だ!! まるで自分の体じゃねえみてえに、勝手に力が増幅ぞうふくされていくぜッ!!!」


今度はアンが押されていく。


やがて彼女の肥大化した腕が、元の白い鎧甲冑よろいかっちゅうのようなものに戻っていった。


電撃を放ち続けて入るが、もうもたない。


このままではやられる。


勝ちを確信したストーンコールドは、そのままアンを押しつぶそうとした。


だが、突然目の前にまばゆい光が輝く。


「っく!? 邪魔すんなジジイッ!!!」


表情を歪めて叫ぶストーンコールド。


アンの横に、ルーザーが片手をかざして立っていた。


「長くはもたん。2人とも頼むぞ」


首を振って長い前髪を払ったルーザーが言うと、ストーンコールドの目の前にルドベキアとロミーの姿が――。


「突けッ!!! 斬れッ!!!」


アンが2人に向かって叫んだ。


ルドベキアは、ストーンコールドの首に向かって斧槍ふそう――ハルバードを突き刺す。


首に穴が開いたが、また傷が泡立って再生し始めている。


だが、ルドベキアの背中に乗っていたロミーが、そのままストーンコールドの首をカトラスで跳ね飛ばした。


ストーンコールドの首が胴体から切り離される。


「な、なんだとッ!? バカなッ!? 嘘……だろぉぉぉッ!?」


その首は、宙を舞いながらも言葉を発していた。


残された半人半獣の体に向かって、アンがすべての力をしぼり出すように電撃を放つ。


「お前は強かった。その力への渇望かつぼう執念しゅうねんに、私は負けていただろう。勝つのは不可能だった……だけど、ここにいるお前が人間カスと呼ぶ者たちのきずなが、それを可能にしたんだ。私の……いや、私たちの勝ちだッ!!!」


そして、その体は再生をする間もなく消しずみとなっていった。

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