80章

借りを返しに来たと、ストーンコールドは大声で続ける。


腹部を電撃でがされ、右腕を斬り飛ばされた。


ふざけた連中を喰ってやろうとしたら、突然入ってきた老人に邪魔をされた。


もしその連中が出てこないなら、この炭鉱跡ごとすべてを破壊すると咆哮ほうこうをあげていた。


ルドベキアは、舌打ちをするとアンに説明を始めた。


今皆がいる大広間の奥に、蒸気列車が用意してある。


彼は、それに乗って早くここから出て行くように伝えた。


「何を言っているんだ? 私もルドと一緒に戦うよ。ストーンコールドの狙いはお前と私、それからルーザーだろ?」


前のめりで言うアンに、背を向けるルドベキア。


そして、ドアノブを掴んで鼻で笑う。


「時間をかせいでやるって言ってんだ。早く行きやがれ」


「だから私も一緒に……」


「お前にはやることがあるんだろうが。だったら合成種キメラなんか相手にしてねえでさっさと行け」


そう言うとルドベキアは、アンを部屋に残して出て行った。


それから彼は、大広間へ行き、ルーザーに声をかける。


「蒸気列車の操作は教えたよな?」と――。


ルーザーはうなづいたが、両眉を下げてこう訊いた。


「だが、あの娘がこのまま出て行くことに納得するとは思えないが」


「あん? 知らねえよ。そこはジイさんが何とかしろ。大体ストーンコールドあいつの相手は俺だって決まってんだよ」


それを聞いたルーザーは、少し寂しそうな顔をして言う。


プラム母親かたきか……。あの義眼の娘と一緒だな」


言われたルドベキアは、へッと口元をゆがませると、頭に巻いているバンダナを締め直す。


それから、置いてあった長柄ながえ武器――斧槍ふそうハルバードをかついだ。


そして、その場を後にしながら返す。


「んなもんじゃね。……ババアはロミーとクロムあいつらを守って笑って死んでいったんだ。だったら俺のやることも同じだ」


それから、外へと向かうルドベキア。


いつの間にかその横に、サブマシンガンVz61――スコーピオンにマガジンをセットしながら歩くロミーがいた。


「おい、ロミー。お前、まだ完全じゃないだろ。ケガした子供ガキは引っ込んでろよ」


「このくらいなら戦える。……ルドが一緒なら」


つぶやくように返すロミー。


そして、その後ろからはクロムが追いかけて来ていた。


その手には、彼の身体に見合わないほどの大きなハンマーが握られている。


「もうッ!! 2人とも仲間外れは無しだよ!!!」


ほほふくらませ、プンプンっと口ずさみながらついて来るクロム。


蒸気列車のメンテナンスに、パーティーの準備などでろくに休んでいないはずなのだが、彼はいつも調子だった。


「クロム、疲れてんじゃねえか? 休んでろよ」


背を向けたまま言うルドベキア。


そんな彼の背中に、クロムは笑顔を向けて肩を2度叩いた。


そして、ルドベキアたちの最後尾にいた、電気仕掛けの黒い子羊――ルーが叫ぶように鳴いて、自分もいることをアピールしていた。


振り返ってから、ロミー、クロム、ルーの姿を確認したルドベキアは大きく舌打ちをする。


「ババアの病気が伝染でんせんしてんな……。お前ら、長生きはできねえぞ」


彼の言葉に各々が――。


「あたしは死なない。少なくともストーンコールドあいつを殺すまでは……」


――ロミー。


「何を言ってるんだ!! ルドが危なくなってもロミーが危なくなってもボクがみんなを守る!!!」


――クロム。


続いて、ルーがまた叫ぶように鳴いた。


クロムが頭を下げながら、「もちろんルーも守るよ」と言っている。


それを聞いたルドベキアは、傍にいる小さな家族たちに見られないように笑った。


「ったく、好きかって言いやがって。……もう後には引けねえぞ、お前ら!! 吐いたつばは飲めねえからな!!!」


叫ぶルドベキアに、ロミーとクロムは冷たい視線を送り、ルーも同じように「何を言っているんだ、こいつ」という顔をしていた。


「……いや、当たり前だろう」


――ロミー。


「ルド……吐いた唾なんて飲んだら汚いよ」


――クロム。


「うるせえぞ、ガキども!! そういう言い回しを知らねえのか、バカ野郎ッ!!!」


ロミー、クロム、ルーは、いつもの怒鳴るルドベキアを見て笑った。

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