57章

その後――。


中心部の近くにある広場へ、アンたちは向かった。


ルドベキアが蒸気列車を動かしたいのなら、ついて来るように言ったからだ。


広場へ着くと、ルドベキアは両手を組んで骨を鳴らし始める。


それから広場の周りを、部下であろうスチームマシーンの集団に囲ませた。


「一体何をするつもりだ?」


アンが怪訝けげんな顔をして言うと、ルドベキアは歯を見せて笑う。


そしてルドベキアは、スチームマシーンに乗っている男たちに声をかけた。


すると長い棒状のモノが飛んできて、アンとルドベキア2人の前の地面に突き刺さる。


それは、古くはヨーロッパで生まれた斧槍ふそう――ハルバードと呼ばれる長柄ながえだった。


突くための槍、斬るための斧、そして引っ掛けるための鉤爪かぎづめの3つのパーツからなる多機能斧だ。


長柄武器の完成形といわれるが、それだけに使いこなすのは熟練じゅくれんを要する。


ルドベキアは、それを掴み、肩にかつぐ。


ガーベラドーム内の照明の光で、ハルバードの三日月みかづきのような刃が反射し、アンの目をくらませた。


「さっき言ったろ。ここは“力”が物事を決める」


「説明が足りないぞ。なんとなくはわかったけど、それではお前の言いたいことは伝わりづらい」


「てめえ……また“お前”って言いやがったな。ふん、ムカつく女だぜ」


ルドベキアの顔から笑みが消えると、彼は肩に担いでいたハルバードをアンに向けた。


「てめえの力を見せてみろ。俺に片膝かたひざでもつかせることができたら、言うことを聞いてやってもいい」


それを聞いたクロムが大慌てで、ルドベキアにめ寄った。


そして必死で、こんなことはやめてくれと頼んでいる。


「やめてよルド!! アンはグレイの知り合いでボクの友達なんだ」


「なんだ? あのギョロ目野郎の知り合いかよ。あいつなら、ちょっと前に会ったが追い返してやったぜ」


ルドベキアの言葉を聞いたアンは、口元をピクっと動かした。


そして、腰に帯びたピックアップ・ブレードを抜き、白い光のやいばを出して構える。


「グレイはなんて言っていた?」


アンが訊くと、ルドベキアはヘラヘラしながら答える。


「てめえと一緒だよ。蒸気列車で隣の大陸へ行きてえって言うもんだから、線路に転がってるトロッコで勝手に行けと言ったら、「ありがとう」とか言って頭を下げてやがった。相変わらず気味のわりぃ奴だったよ」


「そうか……なら私も蒸気列車は諦めて、そのトロッコで行くことにしよう。だが、その前に……」


構えていたアンは、一瞬で間合いを詰めて、ピックアップ・ブレードの刃をルドベキアの喉元に突き立てた。


「お前に、上には上がいることを教えてから行くとするか」


「てめえ……また“お前”って言ったな」


ルドベキアは、突き立てられた光の刃をハルバードで払う。


金属音が響き渡り、2人の間合いが開いた。


「ダメだよルド!! アンには仲間がいるんだ!! もし彼女の仲間たちが、この状況を見たらこのドーム内で戦いが始まっちゃうよ!!!」


「んだよ、まだこんな愛想のねえ女が居やがるのか? でも大丈夫だ。1分じゃ来れねえよ」


ルドベキアの言葉に、周りを囲っているスチームマシーンに乗っている男たちが笑い始めた。


そして――。


「こないだルドベキアと1対1タイマンした奴は、まあまあもったよな」


「40秒くらいだっけか? 今回は女だし。マジで30秒きるんじゃね?」


「当たりめぇだよバカが。ノーダメージで瞬殺しゅんさつだろ」


そんな声が飛びい出していた。


「来いよ、無愛想女!!!」


「ほくろハリネズミはよく吠えるな」


「あん!? 俺のことかぁッ!!!」


ルドベキアの怒号どごうとほぼ同時に、ピックアップ・ブレードとハルバードがもの凄いスピードで重なり合って轟音ごうおんを鳴らした。

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