53章
ガーベラドーム内は暖かく、中は露店や屋台が並ぶバザール市場のようだった。
マナが物珍しそうに、並んでいる店を
「わあ~なんかスゴイ
ニコも彼女の横で、両手を上げて弾んでいた。
浮かれていたのはマナとニコだけではなかった。
態度にこそ出していないが、アンもキャスもこの祭りのような光景に、内心では心を
そんなアンたちに、クロムが、コホンと息を吐いた。
「え~と、また説明になっちゃうけど……」
そして、クロムは街のことを話し始めた。
世界崩壊後に、この過酷な雪の大陸から身を守るために集まった人々が作った街だということ。
そして、いつからかガーベラドームは力だけが正義の無法地帯へと変わったということ。
それからこのガーベラドームでは、王を倒した者が次の王になれるということ。
周期的に合成種キメラがドームを襲うが、好戦的な住人たちは特に気にしてはいないどころかむしろ戦闘を楽しんでいるということを伝えた。
「じゃあ、もし私が現在の王を倒したら、ガーベラドームを自分のものにできるのか?」
キャスが興味を持ったのか、そんなことを訊くと、クロムが
「キャスったら女王様になりたいの?」
「それを言うなら王女様だろう……。マナが女王様というと
「あたしのことをそんなキャラにしないでッ!!!」
「違うのか? 私はそういうものだと認識しているぞ。 食欲とはすべての欲望に直結すると古い本に書いてあった」
キャスの返した言葉に納得のいかない様子のマナは、キーキー叫び続けた。
アンが、そんな彼女をグイッと
「キャスは権力に興味があったのか? 意外だな」
「いや、王のイスに興味はないが、ストリング帝国もバイオ・ナンバーも近づけさせない街を支配している王の強さに、ちと関心を持ってな」
そんなアンたちのやりとりを見ていたクロムが、はあ~と大きくため息をついた。
いつも笑顔の彼にしては珍しい。
「うん? どうしたのクロム?」
マナは気になったようで声をかけた。
それを見ていたニコが、心配そうにクロムに
傍に寄ってきたニコを抱きながら、彼は笑みを取り戻した。
「いやいや、なんかボク……説明ばかりしているなと思って……」
「まだ何かあるのか?」
アンが訊くと、クロムは苦笑いしながらも話を始めた。
どうも彼はガーベラドームの王とは、
「それでね。話は変わったように聞こえるかもしれないけど――」
それからクロムは、グレイがまだガーベラドームにいるかもしれないと言う。
クロムはグレイに、蒸気列車に乗りたいならその王に頼んであげると言ったのだが、彼はそれを断ったそうだ。
グレイは自力でなんとかすると言って、その後どうなったかはわからない。
だが、ガーベラドームの蒸気列車を動かしたいのなら、必ずこの街の王に頼まなければ無理なのだと言った。
「今さらだけど……ごめんなさい。もっと早く言わなきゃいけなかったよね」
「そんなことないぞクロム。私たちはお前のおかげこのガーベラドームに入れたんだ。それだけでもずいぶん助かってる」
ニコをギュッと抱きしめて
そんなアンの言葉を聞いたクロムは、口角を大きく上げてニッコリと
それからアンたちは、二手に分かれることにした。
アンとクロム、そしてニコは、王に頼んで蒸気列車を動かしてもらえるようにするため、ドームの中心部へ。
キャスとマナは、グレイがいるかもしれないということで、アンの書いた似顔絵を持ってドーム内を
「どうしてこの分け方なんだ? 私とニコならグレイを見ればすぐにわかるのに」
アンはその場で簡単に似顔絵を描き終わると、首を
ニコもその傍で、彼女と同じように首を傾げている。
「私は元とはいえストリング帝国の将軍だったからな。ガーベラドームの連中に顔が割れているかもしれん。あとマナでは交渉などできんだろう。簡単に丸め込まれそうだ」
「それもそうか」
「ふたりのあたしへの扱いがドンドン酷くなってるッ!!!」
キャスの話した理由に納得したアンを見て、マナが大声で叫んだ。
だが、2人はそんなマナを相手にはしなかった。
「しかも放置されたッ!!!」
マナは2度叫んだ。
それから、何かあればすぐに連絡を寄こすようにキャスが言う。
しかし、通信手段のない状態でどうやって連絡するのかをアンが訊く。
「簡単だ」
キャスはそう言うと、ガーベラドームの天井に向かって手をかざした。
そして、その手のひらから勢いよく水を飛ばす。
それはまるで
「わあ~スゴイ!! キレイだね~。ロミーやルーにも見せたかったなぁ」
生まれて初めて虹に見たクロムは、ウットリとした表情していた。
「私たちにはこれがある」
「そうか、じゃあ私の場合は電撃を飛ばせばいいんだな」
アンがキャスの言葉に納得していると、マナが勢いよく会話に入ってくる。
「はいは~い~あたしの場合は炎だね~」
「そういうことだ。だが、お前たちは加減に気を付けろよ。電撃と炎でこのドームが火事になったら、人捜しどころか蒸気列車に乗る前にこの街から追い出されるぞ」
キャスが、人差し指をアンとマナに突き立てて言った。
「ああ、わかってる」
「もう~大丈夫だよ~」
あっけらかんと言うアンとマナに、キャスは心配したが、自分で言い出したことなのでそれ以上言うのは止めた。
それから彼女の考えで連絡を取り合うことにして、アンたちはキャスとマナ2人と別れる。
そしてアンとニコは、クロムと共にこの街の王のがいる中心部へと向かった。
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